中に入って大王の御魂とご対面よ!
亡霊兵に追われて暗闇に閉じ込められたアスカ、ヒロミ、オビトの3人だった。暗闇に心細くなりながらも、3人で歌って勇気を出して、暗闇の中を照らしてみると、玄室と思われる荘厳な石の扉の前に居た。
きっとこの先に、目指す大王の霊が眠っている。
アスカ
「待って。 今、扉を開けるわ」
重量感ある石の扉。12歳では、3人力を合わせてもびくとしない。
ヒロミの白銅の獣聖『迷い犬』は、暗闇を照らすのに力を使い果たして、しばらく動けない。
そこでアスカが、紅蓮の戦士『不動の解脱者』を召喚する。
オビト
「待って、アスカ。 乱暴に開けないで!」
アスカ
「どうして? こんな扉、『不動の解脱者』の怪力を使えば、一発で破壊できるわ」
オビト
「ダメだよ。 この先はこの古墳の主、大王の御魂が眠っているかもしれないんだ。 あまり騒がしいことをしてはいけないよ」
目の前の壁を一枚一枚はがすようなまどろっこしいやり方を、本来、アスカは好まない。だが、普段は引っ込み思案のオビトが、ここまではっきりとモノを言うのである。そういうオビトを見直し、また立てるつもりで、ここはオビトの言うとおりにする。
『不動の解脱者』が玄室の石扉をすこしずらすと、その隙間から、青白い、暗い光が、ぼわっと漏れ出してきた。
ヒロミ
「この中は、恐ろしいほどの霊気で満たされているようね」
オビト
「この先が玄室であることは、間違いなさそうだね」
アスカ
「さぁ、一気に開けるわよ」
『不動の解脱者』が玄室の石扉を丁寧に外す。
玄室の中の様子が明らかになる。
玄室の壁は、板状の石がレンガのように積み重なっていて、赤い辰砂が厚く塗られている。
青白い光が、玄室中央に安置された木棺の中からあふれ出している。その光が、木棺の周りをぐるりと取り囲むように設置された無数の銅鏡面に反射して、室内全体に明りをもたらしている。
木棺のまわりには、このほかに勾玉、鉄剣、鉄刀、銅鏃が多数。
オビト
「すごい! これだけの副葬品があるということは、ここの被葬者が大王クラスの人物であることは間違いなさそうだね」
ヒロミ
「でも、どうしてこの古墳は忘れ去られていたのかしら。 これだけ立派な古墳ですもの。 普通は、誰かがここを祀り続けているものだけれども」
オビト
「そうとも言えないさ。 ここが今に伝わってない、滅ぼされた王朝のものだとすれば、誰にも祀られないまま忘れ去られた古墳があったとしても、不思議ではないさ」
アスカ
「あぁ、オビトの言うことはサッパリ分からない! そういう、どうでもいいことは置いておいて、さぁ、中に入って、大王の御魂とご対面よ!」
そう言ってアスカが玄室の中に足を踏み入れようとすると、そのつま先に静電気が放たれたような衝撃を感じた。
ヒロミ
「どうしたの?」
アスカ
「うん。 この先から、ものすごい霊圧を感じる。 少し、気合を入れないと」
「どれどれ」と、今度はオビトが玄室に入ろうとするが、その入口前に立つと、大きな風が吹きつけてくるかのような圧を感じ、前に進めない。
ヒロミ
「私たち、ここまで来たはいいけれども、この中に入れるのかしら?」
何度も玄室に足を踏み入れようとする3人であったが、誰もが木棺の中よりあふれ出てくる霊気に威圧され、どうしても中に入ることができない。
こういうことを繰り返した後、オビトが口を開いた。
オビト
「もう、止めよう。 やっぱり、ここで眠っている御魂は、起こしてはいけないんだ。 アスカ、悪いんだけれども、開いた石扉を、元のように閉じてもらえるかい?」
アスカ
「……ここまで来て、残念だけれども……仕方ないわね」
『不動の解脱者』が玄室の石扉に手をかけたとき、背後で大きな破壊音がした。この玄室へ続く坑道の入口が、開かれたのだ。
亡霊兵が来るのか? と緊張して振り向くと、そこに居たのは亡霊兵ではなく、アスカにとっては異母兄の、ボーゼン=ウィスタプランであった。