僕は歌うよ
亡霊兵から逃げたその先は、暗闇になっていた。
入口は、アスカの守護霊、紅蓮の戦士『不動の解脱者』が塞いでしまった。
これで恐ろしい亡霊兵から襲われることはない。
その代わり、アスカ、ヒロミ、オビトの3人は、容易に帰れなくなってしまった。
ヒロミ
「まったく、どうしてアスカはいつも、そう、後先を考えないのよ!」
アスカ
「仕方なかったじゃない! こうでもしないと、私たち、今頃、あの亡霊兵に襲われていたわ!」
ヒロミ
「あら、『妖怪なんて、へっちゃら』だったんじゃなかったの?」
アスカ
「さすがに、あんな亡霊兵がいたんじゃ、無理よ」
ヒロミ
「だから、止めようと言ったのに!」
アスカ
「何さ、今さら。 ヒロミだって、今日の冒険、ノリノリだったじゃない!」
ヒロミ
「ノリノリじゃなかった! 私は、子どもだけでは危ないと思ってた!」
アスカ
「いいえ、ノリノリでした! このメスリの丘が古墳かもしれないって言ったら、『その話、本当なんでしょうね』とか聞きながら、『でも、オビトのためなら』って一緒に来てくれた!」
ヒロミ
「でも、それは、アスカが強引に誘うから!」
アスカ
「あら、こうなったのは、全部私のせいだって言いいたいの?」
喧嘩を始めたアスカとヒロミであった。
険悪な雰囲気で何とかしなければならないと思ったオビトが「まぁまぁ」と、仲裁に入る。
それで喧嘩は収まったが、暗闇の中、しばらくの沈黙。
疲れて3人、座り込む。
入口が、塞がっている。もう、帰れない。
黙っていると、余計に、みじめさが募ってくる。
こんなの、いやだ。
オビト
「ん~♪ ん~♪ ん~ん~♪」
ヒロミ
「やめて、オビト。 こんな時に」
オビト
「ご、ごめん」
アスカ
「オビトは音痴だからダメなのよ。 その曲のイントロは、こんな感じ。 チ~チャ♪ チ~チャ♪ チャッチャッチャ~♪」
ヒロミ
「アスカまで!」
アスカ
「あら、歌うの、素敵じゃない。 ヒロミも一緒にどう?」
ヒロミ
「私は……いいわよ」
オビト
「僕は、歌うよ。 チ~チャ♪ チ~チャ♪ チャッチャッチャ~♪」
アスカ
「私も、歌う。 チ~チャ♪ チ~チャ♪ チャッチャッチャ~♪」
ヒロミ
「あぁ、もう! そこ違う! そこは、こんな感じよ! チャンチャ♪ チャンチャ♪ チャンチャ♪」
アスカ
「あぁ、そう! そんな感じ!」
オビト
「じゃぁ、もう一度、最初からやってみようか。 3,2,1」
暗闇の中、アスカ、ヒロミ、オビトの3人の大合唱が始まった。曲名は「そばにいて」。都で流行っているm大人気のポップミュージックだ。
どんな歌でも、歌ってみると、勇気が沸いてくる。
まずは、この暗闇をなんとかしよう。
オビト
「ヒロミ、お願いがあるんだ。 さっきの守護霊の輝くやつ、もう一度やってくれないかな」
ヒロミ
「え? でもあれは、簡単にはできないのよ。 いや、いいわ。 少し休んで、回復したから。 もう一度、やってみる」
ヒロミが、白銅の獣聖『迷い犬』を召喚する。
そして『迷い犬』が強く輝き、古墳内を明るく照らす。
すると、坑道の先に、荘厳に装飾された石の扉があるのが見えた。
オビト
「玄室だ!」
この先に、この古墳の主、大王の御魂が眠っている。そう直感した。




