封印石を除けてみるわよ
すでに黄昏。
アスカが、ときどき現れる浮遊霊を退治しながら、ついに古墳の墳丘の上に立つ。
地面にタタミのように敷かれた、まさにタタミ1畳よりも大きいものと、これよりは小さいものの一枚岩が2つ。どちらかが古墳への入口だ。
ヒロミ
「本当に、私たちだけで、来て良かったのかしら」
アスカ
「怖気ついているの?」
ヒロミ
「バ、バカ言わないでよ! 古墳探索なんて、私たち子どもだけで来て良かったのか、改めて思っただけよ」
アスカ
「それこそバカなことよ。 どんな妖怪が出て来るかわからない古墳探検なんて、大人が許すはずがないじゃない!」
理屈で言えば、危険な古墳探検を子どもだけで来てはいけないというヒロミの意見が正解。しかし、ヒロミも、アスカと同じく、幼馴染のオビトに一皮むけてもらいたいと考えているクチだ。本音では、目の前の古墳探検に乗り出したいと思っている。
アスカ
「さぁ、封印石を除けてみるわよ」
アスカ、ヒロミ、オビトの3人は、力を合わせて、小さい方の一枚岩を動かした。
すると、深さ半メートルほどの竪穴になっていて、錆びて朽ちかけた鉄矛やら鉄弓やら。
ヒロミ
「こちらは、武器庫だったようね。 使えそうなものは、何一つ残ってないようだけど」
オビト
「いや、すごいよ! これは宝の山だ! あ、あっちには盾もある!」
オビトは、古いものを見つけると興奮して我を忘れてしまうところがある。それでいて、誰でも使える新しい道具には見向きもしないので、周りから気味悪がられることがある。
錆のひどい遺物の中、オビトは2本ばかり状態の良さそうな刀剣を見つけ、これを自分のものとした。
アスカ
「オビト、それぐらいにしておきなさい。 今度は、こちらを開けてみましょう」
今度は、大きい方の一枚岩を除こうとする。だが、こちらは重量がある。12歳の子ども3人の力では、びくともしない。
ヒロミ
「人間だけの力では、難しそうね」
アスカ
「そうね。 だったら、また、守護霊を召喚するわ」
ヒロミ
「待って。 今度は、私にやらせて」
そう言って、両手で印を組む。
ヒロミ
「召喚する! 白銅の獣聖『迷い犬』!」
ヒロミの傍らに、白いローブをまとった獣人の霊が現れる。
アスカ
「ヒロミ、いつの間に、守護霊使いになっていたの?」
ヒロミ
「あら、言ってなかったかしら。 先週、ママから、12歳になったお祝いに、ドグブリード家に伝わる守護霊のひとつを承継したのよ。 戦闘向きではないけれども、この封印石を退かすぐらいの霊力はあると思うわ」
『迷い犬』がもう一枚の岩を押し動かすと、こちらからは地面奥深くに続く階段が現れた。
坑道だ。墳丘の上に坑道の入口があるという噂は、真実だった。
3人は、その先に、大王の御魂が眠る玄室があると信じて、坑道の中に入っていった。