召喚する! 紅蓮の戦士『ストロングフリーダム』!
アスカ、ヒロミ、オビトの3人は、通う学院の東のはずれ、小高い丘の頂上を目指して歩いていた。メスリの丘と呼ばれている。この丘が、古墳になっているという噂である。
メスリの丘は、これを古墳だとすると、地域最大級の大きさである。その奥の玄室には、きっと大王級の御魂が眠っているだろう。その御魂をオビトの守護霊として、同級生の皆を見返してやる、そのための冒険だ。
メスリの丘の頂上には、大小2枚の封印石があって、そのうちのうちの1つが、玄室に続く坑道の入口になっているという。
ヒロミ
「その話、本当なんでしょうね?」
ヒロミ=ドグブリードは、アスカ=ウィスタプランの母方の従姉妹である。アスカ、オビトと同じく12歳であり、幼馴染でもあったから、アスカが今日の冒険に誘ったのである。
ヒロミは、当初、この冒険に反対していた。まず、この丘が古墳だというのが疑わしいし、もしも本当に古墳だとすれば、そこにどのような妖怪が潜んでいるかも分からず危険だというのである。
オビト
「でも、ここが古墳だと言うのは、本当だと思う」
ヒロミ
「どうして分かるのさ?」
オビト
「ほら、地面を見てよ。 ところどころ、円形の石の輪が埋まっているでしょう? これは円筒埴輪と言われている物の痕跡で、古墳の周囲によくあるものなんだ」
ヒロミ
「円筒埴輪って、いったい何よ?」
オビト
「土を円筒状にして焼いたものさ。 どうしてこういうものが古墳のまわりにあるのか、それは、僕にもよく分からない。 こんな伝説があるんだ。 昔は、皇族が死んだときは近習の者を全員生き埋めにして殉死させたというのだけれども、スイニン帝の頃、皇后のヒバス姫が死んだときに、それでは惨いというので、ノミ宿禰という大臣が土を焼いて人やら馬やら、いろいろの物の形を造って、皇帝に献上して人柱の代わりにしたというんだ。 これを埴輪と言って、以後はこれを陵墓に立てさせることになったらしいんだ」
アスカ
「アンタ、こういうことになると、やたら詳しいわね」
ヒロミ
「なるほど、それでここが古墳だというのは間違いないとして、妖怪が出てきたらどうするの?」
アスカ
「それなら心配いらないわ」
「私にはこれがあるから」と言って、アスカが懐中から片手で取り出したのは、五鈷金剛杵と呼ばれる法具である。
アスカが言うには、これを使えば、自分も守護霊を召喚できるという。守護霊というのは、術者が自由に操ることができる霊体であり、妖怪退治に効果的である。また、優れた守護霊使いは、一人で1000人の兵を相手にできるという。
そうした話をしていると、朽ちた円筒埴輪の隙間から、一体の浮遊霊が現れた。
アスカ
「さっそく現れたわね。 そういうことなら――召喚する! 紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
アスカが五鈷金剛杵を掲げてそのように叫ぶと、その傍らに屈強そうな壮士の霊体が現れた。『不動の解脱者』というのが、その霊体、守護霊の呼び名である。「紅蓮の戦士」とは、アスカが守護霊を召喚するときに、これに霊力を与える言霊のようなものである。それ以上の意味はない。
『不動の解脱者』が浮遊霊を文字通り一蹴する。ダメージは十分、浮遊霊は一撃で消失した。
五鈷金剛杵のような法具を用いて守護霊を召喚するには、通常でも5年以上の修行が必要と言われている。それをアスカは、わずか1年足らずの修行で守護霊を召喚できるようになった。その道の天才と言ってよい。
アスカ
「これで分かったでしょう。 妖怪なんて、へっちゃらよ。 だから、さぁ、先を急ぐわよ!」
天才ではあるが、修練不足、それで何ができるというほどの実力はない。
それでも12歳のアスカは、自分にできないことはないと、子どもらしい自信にあふれていた。




