僕は必ず皇帝になる
古墳の玄室から現れた生ける屍の圧倒的な霊力の前、ボーゼンの守護霊、深海の龍女『面向不背』でもまったく歯が立たず、かえって彼は戦闘不能に陥った。残されたのは、12歳の少年少女のみ。アスカ、ヒロミ、オビトの3人は絶体絶命と思われた。
だが、オビトが古墳に入る前に拾った2本の剣が、生ける屍の霊力を押さえる霊剣であったため、辛うじてこれに対抗できている。
オビトが生ける屍に対抗しようと気合を入れる。
アスカ
「気合よ! オビト!」
ヒロミ
「頑張って! オビト!」
だが、オビトは微動だにできない。生ける屍の霊圧に押されているのだ。
生ける屍が、オビトに指を向ける。
その先から雷撃。だが雷撃は、オビトではなく、彼が右手に持つ『陽劍』にぶつかった。『陽劍』が、雷撃の霊気を吸い寄せたのだ。
とはいえ、その衝撃が剣を伝わりり、右手に受ける。
オビト
「あぁ、ダメだ。 せっかく手にしたこの剣を、落としてしまいそうだ」
アスカ
「オビト! しっかりしなさい! 決して負けてないわよ!」
ヒロミ
「オビト! その剣は、確かに霊力を持っているわ! 見なさい! あの生ける屍は、こちらに近づこうにも近づけないでいる!」
オビト
「でも、どうしよう? 僕は動くことができない。 これでは僕も、アイツに近づくことができない!」
アスカ・ヒロミ
「「だったら、私たちも戦うわ!」」
オビトが『陽劍』と『陰劍』を握って戦っている。その剣の霊力で生ける屍の霊力が押さえられているので、アスカもヒロミも、わずかに動くことができた。そこでアスカは『陽劍』を持つオビトの右手を、ヒロミは『陰劍』を持つオビトの左手を、それぞれ両手で握りしめた。
握りしめると、今度は剣から手を放せなくなるような感覚。オビトとともに剣を握る両手から、生命エネルギーを猛烈に奪われていくような感触だ。
ヒロミ
「あぁ、これは、霊力の増幅器なのね」
オビト
「でも、まだ足りないよ!」
アスカ
「弱気にならないで! 奴が怯んでいるうちに、一気に叩くわよ!」
だが、3人力を合わせても、生ける屍にちょっとずつ近づいていくのが精いっぱいだ。
その間、生ける屍の方は、何度も雷撃を飛ばしてくる。それは『陽劍』や『陰劍』にしか当たらないのだが、剣に当たるたびに、オビトはこれを落としてしまいそうな衝撃を受ける。
オビト
「アイツも、真名を唱えれば霊力を失うというのは、本当だろうか?」
ヒロミ
「ああ見えても、アイツもこの古墳に眠っていた御魂のはず。 だったら、真名を唱えれば、もう少し大人しくなると思うわ」
アスカ
「オビト? アンタ、アイツの真名が分かるというの?」
オビト
「心当たりがあるんだ。 いや、自分で何を言っているか分からないのだけれども、僕にはなぜか『記憶』があるんだ。 こうだったのではないか、という不思議な『記憶』が。 その『記憶』が僕に言うんだ。 僕は必ず皇帝になると」
アスカ
「そういうことは、ここから無事に帰れてから言ってちょうだい!」
オビト
「だったら、本題に入るよ。 魏志倭人伝は知っているかい?」
ヒロミ
「ギシワジンデン?」
オビト
「震旦の歴史書のひとつさ。 この国のことが、詳しく書かれているんだ。 その昔、この国には卑弥呼という女王様がいてね。 僕の『記憶』では、その卑弥呼がハシハカの古墳に葬られていると言うんだ」
ヒロミ
「そういう『記憶』だったら間違いね。 ハシハカは、あなたがいう『ヒミコ』の古墳ではなくて、トトヒモモソの古墳よ」
オビト
「ところがぼくの『記憶』では、そのトトヒモモソが卑弥呼だと言うんだよ。 また、このメスリの丘は、ハシハカと同時代の古墳とも言っている。 正確には、ハシハカの後に作られたものらしいのだけれども」
アスカ
「そんな怪しげな『記憶』に頼ってないで、アイツを斃す方法を考えましょうよ!」
オビト
「アイツを斃す方法を考えるのだったら、僕の『記憶』を試させてよ! 魏志倭人伝では、卑弥呼が死んだ後に男王を立てたというんだ。 おそらくこのメスリの古墳は、その男王のものだ。 そして伝承では、トトヒモモソは、オオモノヌシの神に殺されたことになっている。 そうだとすると、卑弥呼の次の男王は、おそらくこのオオモノヌシの神を祀った者だと思う」
ヒロミ
「それで、それは誰なの?」
オビト
「それも、伝承に残っている。 そのトトヒモモソが、オオモノヌシをその者に祀らせれば良いと言って、このヤマトの国に引き入れたんだ。 その名は……」
アスカ・ヒロミ
「「その名は?」」
オビト




