僕はここで死にたくない
古墳の玄室、その中央に安置された木棺の蓋を開けると、中から生ける屍が飛び出した。これを古墳の主とみたボーゼンは、守護霊、深海の龍女『面向不背』を召喚して戦闘を挑む。だが、その攻撃は、まったく生ける屍に通用しているように見えなかった。
それどころか、生ける屍は攻撃を受けるごとに生気を取り戻している。
その姿は、屍と言うには瑞々しく、もはや復活者と呼んだ方が良いかもしれない。
生ける屍は、己の手をじっと見る。
ボーゼン
「そういうことならば、何度でもその肉体を吹き飛ばすのみ! 雷撃!」
オビト
「義兄さん! 待って! あの荒魂は、何かをしようとしている!」
ボーゼン
「ならば! その前に! 蒸発させてやる! 超最大出力!」
生ける屍に直撃。
生ける屍、無傷。
そして、何事もなかったように、相も変わらず己の手を見続けている。
そして、その指先を、ボーゼンの『面向不背』に向けた。
指先から、雷撃一閃。『面向不背』に直撃した。
ボーゼンが背後に吹き飛ぶ。守護霊と術者は霊気で連結されている。ゆえに、守護霊がダメージを受けると、術者の霊体が衝撃を受ける。生ける屍の雷撃をまともに喰らい、『面向不背』が致命傷を受けた。
その衝撃で、ボーゼンが気絶した。
ボーゼンは、生ける屍から発する霊圧を押さえていた。このため、ボーゼンの気絶と同時に、玄室内が高密度の霊圧で満たされた。このため、アスカとヒロミが、耐えきれないと膝をつく。
生ける屍が、その膝をついた2人の少女に近づいていく。
危ない!
高密度の霊圧に動けないといっても、それは精神的なプレッシャーに過ぎない。このため、火事場のくそ力を発揮することができる。
オビトが本能的に2つの剣を両手で抜き、アスカとヒロミの前に立った。このままでは、全員、生ける屍の餌食になってしまう。その「生きたい」「守りたい」という執念が、オビトの身体を動かした。
オビト
「アスカ! ヒロミ! 僕はここで死にたくない! だから、この剣を抜いた!」
オビトが抜いた2本の剣は、この古墳の入口の横、武器庫の中にあったものだった。
同じ古墳の武器庫で保管されていた剣である。特別な霊力がこめられていたのかもしれない。
生ける屍が、この2本の剣を見て、ひるむ。
アスカ
「オビト! やったわね! その剣の霊力が、生ける屍の霊気を押さえているようよ!」
ヒロミ
「オビトは、本能でその剣の霊力に惹き付けられたのね! アスカ! 見て! 刀身から象眼が輝いている! 『陽劍』と、『陰劍』と、彫られている!」
オビトが拾った2本の剣は、生ける屍の霊力を押さえる霊剣であった。彼は、この剣を使って、生ける屍を調伏することができるだろうか。




