こいつ どうやったら調伏できるんだ?
木棺からあふれ出る膨大な霊圧に耐え、ボーゼン=ウィスタプランはその蓋に手をかける。その周りには、ボーゼンに命じられて木棺に銅鏡の鏡面を向けるアスカ、ヒロミ、オビトの3人がいる。
この世界にも、天岩戸の伝承がある。かつて、とある神様が、洞窟に入って入口を岩で塞ぎ、閉じこもってしまったことがあった。人々は、何とか神様に出てきてもらおうと、洞窟の前で祭を行った。神様が何事かと、入口の岩を少しずらして外を見ると、そこには自分にそっくりな者が居た。人々は、それを「新しい神様がやって来たので、それでお祝いのお祭りをしているところです」と説明した。実際には、洞窟に閉じこもった神様の姿を、鏡に映しただけなのであるが。しかし、そうとも知らず神様が、それを確かめてみようと、さらに入口の岩を開けたところ、その近くに控えていた力士が神様の手をとって、洞窟の外に引き出すことができた。それでこの世は、再び神とともにある世界となったということである。
王は、神である。
王が死ぬと、この世は、神のいない世界となる。
そこで遺された者は、王の遺体に鏡を見せ、その霊をこの世に呼び戻し、これを守護霊とする。
人々は、そういう儀式を、長年にわたって続けて来た。
ボーゼンがしようとしている儀式は、こういうことであった。
木棺の蓋が、ゆっくりとずらされる。
その中を、アスカ、ヒロミ、オビトの3人が、銅鏡の鏡面で照らす。
ボーゼン
「いいぞ。 順調だ」
ヒロミ
「大丈夫でしょうか? 私たちは、ここに眠る御魂の真名を知りません。 本来であれば、ここで真名を唱えて、御魂を落ち着かせるのが作法なのですが」
ボーゼン
「心配するな。 俺には、深海の龍女『面向不背』がついている。 多少、荒魂と対峙することになるけれども、心配には及ばない」
ヒロミ
「そうだと、良いのですが」
木棺を完全に開ける。すると、中はカラだった。何も入っていなかった。
ボーゼン
「馬鹿な! これほどの霊気があふれていたんだぞ! 木棺の中が空っぽなんて、どういうことだ!」
アスカ
「兄貴! 上!」
見上げると、天井に一体の奇人。否、屍と言うべきか。ミイラの様な肌だが、その屍は生きている。真っ黒い両目の奥に、青白い光が宿っている。
その屍が、棺を開けたボーゼンに爪を立てようとする。天井からの攻撃。
アスカ
「紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
ボーゼンを庇うため、守護霊を召喚して、生ける屍を弾き飛ばす。
ボーゼン
「すまぬ、アスカ! おのれ、木棺が開けられるとみるや、素早く天井に飛びついたのだな! ならば俺も出す! 深海の龍女『面向不背』!」
『面向不背』が生ける屍に手拳ラッシュ。
だが、生ける屍は、見かけによらず素早しこい。そのパンチは一発も当たらない。
ボーゼン
「おのれ、ちょこまかと! だが、『面向不背』の雷撃ならば何人も避けることはできない。 最大出力!」
『面向不背』が両手を生ける屍に向ける。
生ける屍に直撃。
生ける屍は、『面向不背』の雷撃、最大出力の直撃を受け、上半身の半分を失う。
アスカ
「やった!」
ヒロミ
「いえ、ちょっと様子が変よ」
ボーゼン
「こいつ……回復してやがる」
オビト
「それも、再生したあの腕、さっきよりも血色が良いです!」
ボーゼン
「ならば、もう一度! 雷撃! 最大出力!」
生ける屍に直撃。
生ける屍は、今度は、足首だけを残して消失した。
しかし!
アスカ
「また! 再生した!」
ボーゼン
「こいつ、どうやったら調伏できるんだ?」




