そしてボーゼンは木棺の蓋に手をかけた
古墳内に閉じ込められていたアスカ、ヒロミ、オビトの3人を見つけ出したボーゼン=ウィスタプランであったが、その保護を後回しにし、まずは玄室に安置された木棺に眠る御魂を回収するという。
これを守る霊圧が尋常でなく、「無茶」と言うアスカやオビトの意見を無視して、ボーゼンは木棺に近づいていく。
全身全霊を込めて玄室の奥より放たれる霊圧に耐えるボーゼン。そのボーゼンの霊力は、アスカら3人の12歳と比べればはるかに大きい。ボーゼンには、木棺からあふれ出る霊圧に耐え、さらに足を進める余力も残されていた。
それでも、木棺のそばに近づく頃には、だいぶ、息が上がっていた。
ボーゼン
「アスカ!」
アスカ
「……」
アスカ
「ハイ!」
ボーゼン
「それに、ヒロミさん。 そして、オビト! ひとつ頼まれてくれるか。 この木棺の周りにある鏡のうちの、なるべくキレイなものを拾ってほしい」
ヒロミ
「ム、ムリです。 私たちは、そこに近づくことができません!」
ボーゼン
「大丈夫だ! ここの霊圧は、俺が引き受けて押さえる! 3人で、気持ちを合わせていけば、ここまでたどり着けるはずだ!」
そういうことができるのかと、疑問を持ちつつ、オビトが一歩、前に足を踏み出す。玄室の奥から湧いてくる威圧感こそ残っているが、しかし動けなくなるほどのものでもなさそうだ。
オビトが「大丈夫そうだよ」と、アスカとヒロミに言うと、2人も黙ってうなずいた。ただ、1人で前に進むのが心細く、オビトを中心に、右にアスカ、左にヒロミと、手をつないで玄室の中に入った。
ボーゼン
「よし。 次は鏡だ。 そのあたりのを適当に拾って、鏡面を木棺に向けるんだ」
とはいえ、木棺のまわりには、無数の銅鏡が副葬されているのである。どれを手にとったら良いか迷っている3人だったが、ボーゼンが「早く!」と言って急かす。
その通りだ。
自分たちがこの玄室で比較的自由に動けるのは、ボーゼンが木棺の霊圧を引き受けて押さえているからだ。ボーゼンは、そこに居るだけで辛いだろう。いつ、体力切れを起こすか分からない。
そこで、アスカ、ヒロミ、オビトの3人は、それこそ「適当に」、それぞれ、副葬されている無数の銅鏡の1枚を拾った。
オビトが拾ったのは、縁が山形に盛り上がっている三角縁神獣鏡である。|(この鏡が副葬されているとすると、ここは、ひょっとして)との妄想も浮かんだが、それを口にしては奇人扱いされる。だからオビトは、黙って、ボーゼンの指示に従う。
アスカ、ヒロミ、オビトの3人は、ボーゼンに言われたとおり、拾った銅鏡の鏡面を木棺に向けた。
ボーゼン
「そうだ。 これで準備が整った。 これより木棺を開けるぞ」
ヒロミ
「大丈夫でしょうか。 ボーゼン様が何をされようとしているかは、察しがつきます。 でも、私が知っている儀式は、もっと段取りがありました」
ボーゼン
「その通りだ。 だが、それだけの儀礼を整えるだけの時間が今はない。 愚図愚図していると、ほかの誰かが、ここの霊を掠め取ってしまうかもしれない。 ならば今は、できるだけの作法を整えて、最低限の形式で霊を目覚めさせるべきではないか」
ボーゼンには、このまま霊を眠らせたままにするという選択肢はないようだ。アスカら3人は、今はボーゼンに守られていて、これに逆らえば古墳から出られなくなってしまうとの危惧も抱いている。ゆえに、ボーゼンが「やる」と言ったら、それに従うほかはない。
そしてボーゼンは、木棺の蓋に手をかけた。
メスリ山古墳は、4世紀初頭の築造とされています。三角縁神獣鏡の破片も出土しています。
三角縁神獣鏡は、魏の年号が記された銘文が残されていることがあるので、卑弥呼の使者が魏から持ち帰った銅鏡100枚がこれではないかとも言われています。
ただし、魏では存在しない「景初四年」(魏では景初3年で終わっている)の銘がある鏡もあって、本当にそのように言えるのか、未だに議論がされています。
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