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Recollection  作者: 雲居瑞香
15/25

15話









 時をさかのぼり、第八特殊機動艦隊所属の巡洋艦リンデンで、コロニー・アニスに調査に出たオリガである。宇宙服に着替え、コロニー内に降り立ったオリガは、懐かしい思いと悲しい思い出と共にあたりを見渡した。十年前、まだ少女だったオリガが見た景色とは違っていた。

 破壊された大地、ひび割れた空、コロニー内の空気は抜けていて、宇宙空間と同じ真空状態、無重力。施設のいくつかは電気が生きているようだが、不審点はなく、オリガは一度、艦隊に合流することを決めた。

 巡洋艦に戻ったところで、オリガたちは待機していたクルーたちからの報告を聞いた。

「旗艦が襲われている?」

「はい……旗艦とは連絡が取れません。同行している戦艦マグノリアから、旗艦に移譲艦がつっこんできたと」

「……」

 突っ込むまで周囲の戦艦を含め、彼らは何をしていたのだ、と言う思いはあるが、ジャマーを展開して高速でつっこんできたのだろうか? まあ、それはさておき、今後の対応だ。


「……移譲艦なら、旗艦は乗っ取られたと考えるべきですね」


 リンデンの艦長が言った。巡洋艦の艦長は中佐で、オリガよりも階級が上だ。


「……どうしましょうか」


 オリガは艦長を見上げて尋ねた。艦長も自分の半分ほどの年の副官を見つめ返す。

「ブルーベル大尉ならどうする?」

「……私に聞きますか」

 戦況オペレーター席の近くにいたオリガは振り返り、艦長を見上げた。

「どうぞ」

「……」

 オリガは考えた。どこか家族的な雰囲気のある第八特殊機動艦隊だ。下位者の意見を一蹴するようなことはないだろう。

 まず、情報が少なすぎる。しかし、旗艦が乗っ取られたと考えられるので……。

「とりあえず、艦隊と合流しましょう」

「合流してどうする?」

「接舷艦を薙ぎ払います」

 旗艦が襲撃者に乗っ取られているのなら、移譲艦を薙ぎ払い、退路を塞げばよい。

「……大胆だな」

 艦長がため息をついた。確かに大胆だ。退路を塞いでしまえば、後は中の襲撃者を片づければよい。訓練を受けた軍人だ。人数で勝るのだから、制圧できなくはないはず。しいて言えば、女性クルーと指揮官のキーランが心配だが。


「しかし、それだと旗艦にも被害が……」


 火器管制官が控えめに主張した。薙ぎ払うとなれば、火器管制官である彼が砲撃を指示する。フレンドリーファイアになる可能性が高い、そんなことをしたくない気持ちはわかる。

「責任は取ります」

 きりっと言い切ったオリガだが、艦長は「それは上位者の役目だな」と笑った。


「大尉を見ていると、懐かしくなる。……もう、三十年前の戦争を覚えている者はほとんどいないが……」


 この艦長は、ぎりぎり参戦していた世代だろうか。こうして、オリガは母や父と比べられることがよくある。比べられるというより、懐かしがっている思いの方が強く感じられるので、オリガも擦れずに済んでいるが。


 オリガの母、ヴィエラ・ブルーベル・リーシンは、連合軍の公式記録上一度も負けたことがないそうだ。しかし、そんなことはあるわけがなく、彼女の記憶は敗北に占められていたはずだ。

 母も、大胆な人だったようだ。その最後の教え子にあたるキーランも、見かけによらず大胆なことをする。オリガの考え方はどちらかと言うと父に近いと言われるが、母の思考をトレースできないわけではない。母に教わったキーランなら、オリガがしようとしていることに気付くはずだ。……まあ、気づかなくてもすぐに察して対応してくれるだろう。


 艦長がオリガに指揮権を委譲したことで、彼女は通信オペレーターに声をかけた。

「シャムロックとの通信回線を開いて」

「はい」

 通信オペレーターが旗艦シャムロックとの通信を開こうとする。何度もコールするが、なかなかでない。ジャマーがあるとはいえ、この距離ならつながると思うのだが。不安げにオペレーターがオリガを見た。オリガはちらっと彼を見たが、何も言わずに視線を計器に戻した。

『はい、こちら、旗艦シャムロックです』

「あ、良かった。こちらオリガ・ブルーベル大尉です。無事に偵察を終えましたので、合流したいのですが、座標を送っていただけますか?」

 何食わぬ声でオリガは催促した。合流ポイントはわかっているし、そもそも偵察に出たわけではない。いや、ある意味偵察ではあるが。

 最後にオリガが尋ねた言葉に、こちらも通信の向こう側もぽかんとなった。

「もう一つ、提督は起きていますか?」

『うん』

 小さいが、確かに返答があった。オリガの口元に笑みがのる。


 これは、二年前の逆再現だ。あの時は、オリガがキーランの作戦に乗った。今度は、キーランがオリガの作戦に乗る番だ。

「このまま航行して、射程圏内最長距離に入ったら移譲艦を砲撃して」

「うう……はい」

 オリガが移譲艦を薙ぎ払うつもりだとわかったのだろう。顔をゆがめながらも火器管制官はうなずいた。今日のリンデン所属のCIC担当者は不憫である。


 もともと軽巡洋艦であるリンデンは攻撃能力が高くない。つまり、遠距離からの攻撃でかする程度だとそれほど被害が与えられない。だが、それでよい。ようは、移譲艦を引き離せればよいのだから。

 旗艦シャムロックが見えてきた。望遠カメラ越しではあるが、移譲艦が接舷……というより、突っ込んでいることがわかる。

「……間もなく、射程圏内です」

 戦況オペレーターが告げた。自分たちの旗艦に対してそう述べるのは、さぞ気持の悪いことだろう。

「砲撃用意」

 艦長が告げた。オリガは作戦を立てたが、この艦に対しての指揮権は艦長にある。

「有効射程距離に入りました」

「撃て!」

 主砲は移譲艦の左舷を貫いた。大爆発とはいかなかったが、小規模爆発を起こしてシャムロックから離れていく。シャムロック側にも被害があったような気もするが、全滅するよりはマシ……だと思う。たぶん。


 あとは旗艦内で襲撃者を処理してくれればよいのだが。白兵戦の戦力としては、キーランはオリガより頼りにならないが、指示はできるはずだ。どちらかと言うとその手の采配はオリガの方が得意なのだが、その場にいないのだから仕方がない。キーランもできないわけではないだろうし。


 司令官と副官、二人してお互いに同じことを思っていた。


 とりあえず旗艦のことは無視し、オリガは第八特殊機動艦隊、と言うか、オープンチャンネルで叫んだ。

「全艦戦闘配備! 今の襲撃者を追いだしたら、次が攻めてきます!」

 ただの副官であるオリガであるが、言葉が衝撃的なので指示に従ってくれるだろう。彼らがきちんと準備してくれなければ、オリガたちはやられてしまう。

「艦長、大尉! シャムロックから通信です!」

 通信管制官がこちらを振り返って言った。どうやら、襲撃者を撃退できたようで、頬を腫らしたキーランがモニターに映っていた。何だか既視感があると思ったら。

「一年前の逆再現でしょうか」

『状況的には、そうかもね』

 キーランは肩をすくめて同意した。一年半ほど前、二人が初めて……性格には、軍人になって初めて顔を合わせた時のことである。あの時もモニター越しで、殴られたのはオリガの方だったけど。

「そちらは大丈夫ですか」

『襲撃者は拘束できたよ。おかげさまでね』

 でも、もう少し穏便な方法が良かった、と言われた。ちょっと過激だったかもしれないが、一番速いし他に方法が思いつくほどの時間もなかった。


『あー、できればこっちに戻ってきてほしいんだけど、そんな時間もないだろうね』


 日常ではへらっと笑っているキーランもさすがに特殊部隊を率いる指揮官だった。双方の艦のオペレーターがあげた声に、真剣な面差しになった。

「急速に接近する艦影有! 数三、三時の方向、距離七百!」

 後に、この時司令官と副官そろって表情が消えたのは、とても怖かったとクルーたちは語った。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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