16話
キーランは自分の艦隊を示すマークと敵艦隊を示すマークを見て、眉間をもんだ。規模的には同程度だろうか。しかし、戦闘力に違いがある。
『どうやら、統一機構軍のものを流用しているようですね』
リンデンにいるオリガが落ち着いて言った。向こうが本当に統一機構軍なのか、そう思わせようとしているのかはわからないが、彼女の言うとおり、武器の規格などは統一機構軍のもののようだ。だが、連合軍の兵器もそうであるが、統一機構軍の兵器が横流しされている可能性もある。それを、武装組織などが使っている可能性もなくはない。
キーランとしては、一つ、はっきりさせておきたいことがある。
「……大尉。不愉快かもしれないけど、質問していい?」
『何となくわかる気がしますが、どうぞ』
許可を得て、キーランは尋ねた。
「十年前、君の父上、キール・リーシン中将がコロニー・アニスを訪れたのは何故? しかも、十二歳の娘を連れて。観光に来るような場所ではないよね」
しかも、キールの妻でありオリガの母であるヴィエラが病没してから半年ほどしかたっていなかった。軍からの命令だとしたら、いろいろおかしい点がある。
『コロニー・アニスが行っていた研究の内容をご存知ですか?』
「……いや。来る前に調べてみたけれど、はっきりしたことはわからなかった。ただ、軍事施設ではないのに、やたらと防衛面が手厚いなと思ったけど」
『当然です。表向きは軍事施設ではありませんでしたが、内部ではデザイナーベビーの研究施設でしたから』
「……」
デザイナーベビー。遺伝子を操作されて生まれてきた人間のことだ。倫理的に問題があるため、国際条約で禁止されている。その研究を行っていたというのなら、隠されるのも当然だ。
「むしろそれ、どうやって調べたの」
『さあ? 母に聞いてください』
その言葉で思わず納得するキーラン。ヴィエラならできるかもしれない。
彼女が調べた方法が気になるが、それを調べるのは後まわした。
「デザイナーベビーってことは、遺伝子研究をしていたということだね。確かに、表向きには医療関係研究コロニーになっていた気もするし……しかし、彼らが狙う理由はなんだろう」
『良い想像ではありませんが、デザイナーベビーの技術が確立すれば、「軍事資源」として輸出できますしね』
「……私はその発想が出てくる君がちょっと怖いよ」
しかしまあ、いつまでもこうして話しているわけにはいかない。彼女の父の死の真相も後回し。原材料では判断できないことが多すぎる。
「とりあえず大尉。作戦通りに」
『わかりました。と言うか、私がこのままこちら側を率いてよろしいので?』
オリガはキーランの副官だ。代理で指揮を執ることはあるかもしれないが、現在はその必要性もないように見える。だが、キーランにも言い分はある。
「君が私の元へ来たのは、司令官としての未来を嘱望されてのことだろう。なら、その練習だと思えばいい」
『……どうなのでしょう。母の子だからと言って、期待をかけられても困るのですが』
肩をすくめてオリガはそう答えたが、別働隊を率いることは了承してくれた。すでに、敵は有効射程圏内に入っている。
「全砲門開け、照準、敵戦艦!」
艦長が矢継ぎ早に指示を出す。何度も言っているが、キーランは艦隊全体に対して指示を出す役で、艦ひとつに対しての指揮権は艦長が優先されるのだ。キーランはできるだけ混乱させないように、黙るようにしている。
宇宙戦闘機も発進し、混戦になる。オリガが率いる分隊が退路を塞いでいるので、彼らは逃げられない。今回はこちらも戦闘になることを見越して準備してきたので、物資も豊富だ。長期戦になれば、こちらが有利である。
戦況がこちら側に傾いてきた。敵も必死に食らいついてくる。できれば彼らを生きたまま捕らえたいのだが……。
キーランがひとつ、息を吐きだす。すると、緊迫した空気を醸し出しているブリッジ・クルーたちがびくりと反応した。別に怖いことを言いだすつもりはないのだが。
「コルトー中尉。ブルーベル大尉との通信回線を開いてくれ」
「わ、わかりました」
通信回線が軽巡洋艦リンデンとの間に開かれてすぐ、挨拶もせずにキーランは言った。
「大尉。右翼の戦艦二隻を薙ぎ払う。砲撃を集中してくれ」
『了解しました。後詰はお任せください』
「お願い」
会話はたったそれだけ。タイミングの打ち合わせすらしなかった。艦長が心配そうにキーランを見上げる。
「……うまくいきますか?」
「ああ……おそらく、彼女にも『視えている』」
若干得意な方向性は違うが、同じ戦術家に指導を受けた。いまだ、と言うタイミングを見誤ることはないだろう。
「……何なんですかね、その通じ合っている感は」
艦長は呆れながらも、威力の強い荷電粒子砲を用意させる。旗艦であるシャムロックのみに搭載されているので、他の戦艦や巡洋艦は主砲を用意していた。
この指示だけはキーランが行った。
「撃て」
荷電粒子砲が放たれる。時をほぼ同じくして、軽巡洋艦リンデンからも主砲が放たれ、やはり、キーランとオリガは見えているものが近いらしい。それに続けて他の戦艦や巡洋艦も砲撃を開始した。
キーランは敵艦が被弾し、沈んでいく様子を目を細めて眺めていた。自らが決行を決断したとはいえ、気持ちのいいものではない。軽巡洋艦リンデンでも、オリガが同じような面持ちで戦況を眺めていた。
「……残った艦隊を包囲する。その上で降伏信号を送れ」
「……了解」
通信オペレーターが畏怖のこもった声音で承知した。キーランの決断力はみんなを生かすが、その代わりに部下たちに怖がられることになるようだ。
最終的に敵艦隊は降伏した。キーランは息を吐いてアームレストに肘をつき、頭を抱える。力尽きたような司令官をちらりと見て、艦長はリンデンのブリッジを呼び出させる。
『はい』
呼び出された第八特殊機動艦隊の副官殿は司令官とは違ってけろりとした者だった。しかし、キーランもオリガの声を聞いて顔を上げる。
「……申し訳ないけど、後始末お願い……」
『承知しました』
押し付けてしまった形になるが、副官と言うのは司令官を助けるためにいるわけで、その辺をわきまえているオリガはてきぱきと指示を出しはじめた。今更であるが、殴られた頬がずきずきと痛む気がした。
事後処理を行うためにオリガがリンデンからシャムロックに戻ってくる。一度キーランの顔を覗き込んで「大丈夫ですか」と声をかけたが、それだけだった。職務を優先したようである。さみしいような、突っ込まれなくてほっとしたような。
敵艦隊のリーダー格を拘束し、その船内に閉じ込める。決して、こちらの艦に移すようなことはしなかった。先ほどはうまく言ったが、艦内を制圧されてしまうのは避けたかったのだ。今は、オリガもキーランと共にシャムロックに搭乗しているし。シャムロックが制圧されれば、なすすべがない、と言うことだ。
「……鍛えるべきだろうか」
「もう手遅れなのでは?」
オリガ、なかなか厳しい。確かにその通りだけど!
「……一応実技訓練はまじめに受けたんだけど」
「まあ、提督は五年くらい先生をしていましたからね、講義の」
完全に肉体労働から離れていたから、仕方がないとばかりにオリガは話を終わらせ、言った。
「で、彼らどうしましょう?」
尋問します? とオリガはさらりと尋ねてきたのだが、あいにくとキーランは尋問の方法をよく知らなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
たぶん、オリガは尋問できる。




