第十三話 月の光の下で奇跡は起こる 下
お風呂シーンなので、ちょっとドキッとするかもしれません。
でも、そこまで露骨な表現はないと思います。
服を脱いでいるのだろう、布が擦れる音を聞きながら、エドゥは必死に他の事を考えた。
子供を産んだばかりのロッテの事。生まれてきた子供は、上手い具合にエミリアとロッテを混ぜた様な、そんな顔立ちで、髪の色はエドゥと、いや、エミリアと同じ深緑だ。
ロッテが初恋で、自分が生涯をかけて守りたいと思っているエドゥにとっては、それはとても素晴らしく、それでいて複雑な事であった。
黙っていれば、ロッテと子供と三人でいれば事情を知らない周りからは家族として見られるだろう。
事実自分たちは家族なのだけれど、それでも、それとは違う意味の家族と思われるだろうと考える度に、エドゥは大きくため息を零した。
嫌な訳では決してないけれど、それでも、自分が手に入れられなかった。けれど、自分の大切な者達が幸せへと至った結果。自分の兄であり、ロッテの夫であるエミリアは死んでしまったけれど。それでも、その場所に成り代わるなんて考えは、エドゥの中には存在しなかった。
父親代わりに慣れれば良いとは思ったけれど、兄が死んだから、前から欲しかった場所へと自分から向かうのは、何かが違うと、そう思っているのだ。
例え、そう。例えロッテの方からエドゥを義弟という家族ではなく、子供の父親代わりと言う家族ではなく、夫として、男として求めてきたとしても、エドゥはそれを撥ね退けるだろう。
そんなものは欲しくないと。今更自分を選ぶのなら、最初から兄ではなく、自分を選べば良かったのだと、そう言うだろう。
そんな状態に陥ったら、エドゥはまた、ロッテの前から姿を消すだろう。
ロッテと子供の安全を確保してから、もう二度とこの家には戻ってこないだろう。
それぐらい大切であるし、それぐらい、簡単な思いではないのだ。
風呂の方から、シャワーの音が聞こえてきた。
それと一緒に、世界を旅していたエドゥでさえも聞いた事もない様な不思議な歌が聞こえてきた。
シャワーの水音で所々かき消えているけれど、それが何の歌なのかは、辛うじて分かった。
始まりの恋に全てを捧げた男がいた。
その恋は決して叶わぬ、叶えてはいけない願い。
だからこそ、その思いを糧に、男は生きていけるのだ。
初恋の相手を守る為ならば。この恋心を消し去る事も厭わない。
淡く、切なく、何よりも純粋なその恋は、誰に知られる事もなく、終わりを告げるだろう。
けれど、男は出会ったのだ。
何よりも、初恋の相手よりも心惹かれる相手に。
歌詞を繋ぎ合わせれば、その様な話である事が分かった。
白雪は、意図して歌っている訳ではないだろう。
何も知らずに、ただ、自分の好きな歌を歌っているだけなのだろう。
聖母と銀の薔薇という、あの小説が好きだと言うのだから、そういう歌を好んでもおかしくはないだろう。
しかし、エドゥは白雪に自分の心を見透かされている様な、そんな気分になった。
何も分かっていない子供だと、先程結論付けたばかりだと言うのに。
いや、子供は思ったよりも聡いから、むしろそういう事なのかもしれないと、エドゥは笑った。
白雪の歌声は、とても澄んでいて、聞き取り易い。
シャワーの音が止んだ後も、聞こえているので、湯船に浸かりながらでも歌っているのだろう。
ぱしゃぱしゃと聞こえて来る水音に、歌が途切れでもしない限りは起きているのだと安心して聞いていられた。
その歌声を聴きながら、エドゥはどうして自分は白雪が城から抜け出すのを手伝ったのかを考えた。
考えても意味のない事だったのかもしれないけれど、それでも、あの時確かに呼ばれた様な気がしたから。という理由しか、エドゥにはなかった。
木の上から落ちて来る白雪を受け止めないという選択肢は最初からなかった。
体が勝手に動いた、というだけでは説明がつかない、何か特別なものがそこにはあった様な気がする。
そう、まるで、引き寄せられるような何かが、確かにあったのだ。
そこまで考えて、それでは白雪が歌っていたあの歌と同じではないか。と思った。
「……“あの”歌?」
声に出して、エドゥはようやく気が付いた。
白雪の歌声が止まっている。
どうして気が付かなかったのだと、自分を責めるが、ただ、歌うのに疲れただけかもしれない。そう思い直し、風呂にいる白雪にエドゥは声をかけた。
「白雪?……起きてるか?白雪?」
声をかけた。
名前も呼んだ。けれど、白雪は何も返さなかった。
湯船に浸かりながら、眠ってしまったのだろうかと考えて、一応バスタオルを手に持ち、風呂の方へと足を向けた。
「白雪。入るぞ」
色々と覚悟を決めて白雪が入浴している風呂場に足を踏み入れたエドゥは、目の前の光景にただ唖然とする事しか出来なかった。
生まれてきた子供に行われた洗礼以上に、理解出来ない光景が、エドゥの目の前で起こっていたのだ。
アルカ家の周りに植わっている月光薔薇の中には、まだ蕾のものがたくさんある。
大抵の土地、気温に適応する月光薔薇は、一年中いつでも開花する。
植えた時期や近くの聖導師の法力量によって咲く時期や色、花弁の量が変わる為、時間がかかればかかる程、白ければ白いほど、花弁が多いほど、その月光薔薇は上等な物とされている。
エドゥの今は亡き父や、エミリア等、アルカ家は聖導師の素質を持った者が多い。
だからこそ、エドゥにとっては兄の聖導師としての素質や、自身の天職が聖導師に分類されるものではなかった事がコンプレックスの様なものになっていたのだが、だからこそ、アルカ家の家の周りに咲く月光薔薇は白に近く、咲くのに時間がかかり、花弁の量も多かった。
エミリアが死んだ今、月光薔薇の色は段々と濃くなり、早めに咲き始め、大きさも小振りになって来たけれど、それでもエミリアの遺した絵たちの所為か、一般家庭で栽培している物としてはかなり高い品質を保っている。
そんな、月光薔薇たちが、今、聖国の城の月光薔薇の咲き誇る庭園を彷彿とさせる程に咲き乱れている。
まだ、咲く予定のなかったそれらが咲いているのは、どうしてだ。
エミリアの絵に込められ、未だエミリアを忘れられないエドゥやロッテの心にその力を保っている聖法が漏れたのだろうか?
いや、そうではない。それでは説明がつかない。
だって、エミリアが生きていた頃よりも、月光薔薇たちは白く、花弁の量も多く、そして、聖法を多く含んでいる。
聖法の素質はそれほどないとエドゥは自分を卑下するが、それはアルカ家においては、という意味で、本気で聖法を使おうと思えば、天職のレベルが低い者や、天職だけが立派で何も努力をしていない者など相手にならない程度の力は持っている。
それでも、天才ではない。類稀なる才を宿し、常に努力を怠らぬ者を前にすれば、確かにエドゥには才能はない。
けれど、その血が、天才に触れてきた感覚が、告げている。
これは、白雪の体から溢れている聖法に反応して、月光薔薇が咲いているのだ。
風呂に入っている時、外を見ると、まるで一枚の絵画の様に見えると、アルカ家の風呂に入った者は言う。
けれど、今エドゥの目の前で起こっている現象の方が、よっぽど、絵画として描くに相応しいと、そうエドゥは思った。
その場にあるだけで輝いて見える、月の光を集めて宝石にしたかのような、そんな美しく、女性としては長身の部類に入るだろう白雪が立ったとしても床を這うだろう、長くて、聖母を思わせるかのような、本当の銀髪。
ヴェールで隠されていた瞳は、どんな色をしているのだろうか。
白雪の体から溢れ出る聖法が、まるで蛍の様で、けれど、それ以上に美しく、幻想的で。
エドゥは今目の前で起こっている、まるで聖書の一説に描かれている様な神秘的な光景に見惚れる事しか出来なかった。
けれど、少し冷静になって思考を切り替えれば、今どれだけ危険な状態なのかすぐに分かった。
湯船に浸かったまま、体を壁に寄りかからせて、眠っている白雪は、無意識のうちに自分の中の聖法を周囲にばら撒いている。
その余波に白雪の髪は幻想的に舞い、湯船の中のお湯には波紋が広がる。
月光薔薇だけに力を分けているのではなく、周囲に無差別に力を出しているという事は、白雪の体に異変が生じる可能性が高いのだ。
いくら湯船に浸かり、睡眠を取って精神的にリラックス状態しており、法力量を回復しているとはいえ、こんな勢いで聖法を使いまくっていたら、命に関わる。
それになにより、風呂で寝ていたら溺れ死ぬ。
「白雪。寝てるお前が悪い」
何も身に着けていない身体を見てしまう事の言い訳を呟いて、濡れる事を厭わず湯船の中に入り、バスタオルで白雪の体を包んだ。
しかし、少しズレれば、見えてしまいそうだ。
そんな事を思いながら、なるべく白雪の方を見ない様に、体を抱き上げれば、長い髪が水気を含んでいた為、以前抱き上げた時よりもバランスが上手く取れず、エドゥは白雪と共に湯の中に落ちた。
落ちた時、盛大な水音は立たなかった。
エドゥと白雪は、吸い込まれるように湯の中に落ちて行った。
幸い、怪我をする事はなく、湯の中に溶け込んだ白雪の法力のお蔭か、湯の中でも息が出来た。
高純度の法力が溶け込んだ水や湯にはよくある事で、とある精霊が住む湖の中に入った事のあるエドゥにはある意味見慣れた光景だが、たった一回入浴しただけでここまでの法力を出してしまった。いや、出せる白雪にエドゥは危機感を覚えた。
優れた聖導師、では説明が出来ないと思っていた。
あれ程までの洗礼と、今の状態を見た身としては、エドゥは白雪がどういう存在なのか薄々気が付き始めた。
最初は、精霊や妖精の姫辺りだと思った。
あまり物を知らない上に、その身に宿した法力量。そして、何より、人では説明できない様な、その美しさ。
けれど、今こうしてその顔を見てしまえば、確かにとても美しいが、精霊や妖精とはどこか違う様な気がした。
浮世離れした美しさ、というのは変わらない。神秘的で、人間離れしているとも思う。
けれど、どこかが決定的に違う。
例えるのなら、長い時を生きてその精神がゆっくりと成長していく精霊や妖精とは、表情や振る舞い方が違うのだ。
もちろん、白雪は幼い子供だけれど、肝心な事は何も分かっていないけれど、それ以外は、そこまで子供と言う訳ではないのだ。
幼いとは感じるけれど、それでも、一つの人格として、もう少しで完成する。そんな気になる。
湯の中で、眠る白雪の顔を間近に見る。
白い肌に、大きな瞳に、その瞳を縁取る長い睫。小振りな鼻と、小さいけれど、薄すぎず厚過ぎず、思わず触れてしまいたくなるような唇。
そこまでじっくりと観察して、エドゥはようやく気が付いた。
あの時、白雪を家に連れ帰ったあの時。ロッテに声をかけられるまで、自分がしようとしていた事をエドゥは思い出した。
その、唇に触れたかった。
自分の唇と、白雪の唇を合わせて、貪り食いたかった。
そんな自身の欲求に気付いてしまったエドゥは、思わず乾いた笑い声を上げた。
水の中でも、まるで頭の中に直接語り掛けている様に、相手に通じるので、その声は確かに白雪に聞こえていた。
「……エドゥ」
「白雪」
寝言なのか、なんなのかはエドゥには分からなかったけれど、白雪が自分の名を呼んだことが、どうしようもなく嬉しくて、それ以上に、どうしようもなく、悲しかった。
白雪に対して悲しみを覚えた訳ではない。
自分の感情が、全てをロッテに奉げたと思っていた恋心と言うものが、今は白雪に向かいつつある。
兄の代わりになりたいとは思わなかった。
けれど、その位置にいられる、兄の様になりたいと思った。
それでも、自分に出来る事を探して旅に出た。兄と初恋の相手である義姉の幸せを見たくなかったという理由もあるけれど。
別に、二人の幸せを願わなかった訳ではないのだ。
早くに両親が亡くなり、親代わりに育ててくれた兄。
兄は、その天職を使って世界中の景色を絵にしていつか自分に見せてくれると語っていた。
それが楽しみで、仕方がなかった。
けれど、実際に世界を旅したのはエドゥで、エミリアは死んでしまった。
自分を育てる為に、夢を捨てたのだとは知っていた。
けれど、自分たち兄弟は、お互い、お互いが本当にしたかった事を相手に代わりにさせてしまっている。
幸せになって欲しかった。
自分が二人に縛られていると、エミリアは言っていたけれど、エミリアこそが、自分に縛られていた事を、エドゥは知っていた。
それでも傍に居て、勝手に出て行き、エミリアがしたかった事をしていたのに、自分を応援してくれていたエミリアに罪悪感や感謝の気持ちがごちゃごちゃになって、顔が合わせ辛かった。
だから、もう少し、もう少し強くなってから。もう少し。
そんな事を考えながら全てを先送りにしていたら、エミリアは死んだ。
もう、全ては取り戻せない過去となった。
「泣かないで」
「……白雪」
「泣かないで」
「ああ。そうだな」
起きているのか、眠っているのか分からない。けれど、白雪の手が自分の頬に触れた時、白雪の傍に居たいと、そう思った。
羨みながら、それでも祝福しながら、兄と義姉を見ていた。
だからこそ、こうして偶然のような出会いが、特別なものの様な気がしたのだ。
誰かが持っているから羨ましいと思った訳じゃない。
誰のものであって欲しくないと、そう思った。自分だけのものになれば良いと、そう思ったから。
自分の頬に触れている白雪の手に自分の手を重ねたエドゥは、そのまま、この前の様にまるで酒に酔ったような不確かな思考ではなく、確固たる意志で白雪の唇を奪った。
それは、触れるだけの口付けだったけれど、何度も、何度も角度を変えて、貪る様に、貪欲に食らいついた。
やはり、そんな事をしても白雪は何の反応もせずに、ただ瞳を閉じているだけだったけれど、エドゥにとってはそれで十分だった。
本当の意味で、白雪が欲しいと、そう思えたのだから。
だから、気が済むまでその柔らかい唇の感触を味わったら、エドゥは白雪を再度抱き上げて湯船の中から上がった。
白雪の体にかけていたバスタオルも、今は殆ど意味をなさない。
それでも、これ以上の無体を敷けない、と自分の欲求を抑える為に、意識のない相手の体を見るなんて事をしない様に、と思ってかけていたのだが、白雪の髪の重さを考えてバランスを取っていたら、バスタオルは湯の中へと沈んでいった。
そして、エドゥは見た。
白雪の、処女雪の様な穢れのない肌を。バランスの取れた、しなやかな肢体を。そして、決して口には出すまいと誓っていた白雪の平坦な胸、と、女性にはある筈のない、部分を。
エドゥは白雪の体を確認する様にじっと観察した。頭からつま先まで、じっくりと見て、とりあえず白雪を抱き上げたまま、床に座り、今見えている現実が幻覚ではないか確認した。
白雪の白い肌は、陶器のように滑らかで、触れた指には吸い付く程に瑞々しかった。
そして、確認しなければいけない部分に触れた後、エドゥは何も言わず、無表情を保ちながら、白雪の体を脱衣所にあった他のバスタオルで拭き、下着を着せて、ロッテの寝間着に着替えさせる。
やはり、手足の長さが違う為、そのカモシカのような足は露わになっていたけれど、それでもエドゥは自分を律してタオルで包んでいた白雪の髪をロッテが愛用している髪を乾かす時に使う聖法具を使って乾かす。
聖法によって現れる風が白雪の髪を効率的に乾かしていく。
そして、その風には花の香りが乗せられており、乾かし終わった後は白雪からとても甘く、良い香りがした為、エドゥは白雪の髪に意味なく触れてみて、思わず顔が強張ったが、その後我に返り、白雪を抱き上げて、一応ロッテの予備のヴェールを被せて、今日使っていたヴェールは簡単な洗濯の聖法で清めておき、乾かして明日渡せば良いとエドゥは頭の中で考え、とりあえず自分の部屋のベッドに白雪を寝かせておいた。
「……んっ」
妙に悩ましげな声が聞こえたのだが、エドゥはそれを無視し、部屋から出て扉を静かに、けれどもしっかりと閉めた。
「はぁああ」
大きなため息を吐き、扉に背中を預けて、エドゥはその場に座り込んだ。
色々と考える事はある。
白雪の性別とか、白雪の性別とか、白雪の性別とか。色々だ。
まあ、他にも、白雪の正体や、銀の髪の事、自分の白雪への感情等色々とあるのだが、今エドゥの心の中にあったのは一つだけだった。
「首にある噛み跡に嫉妬するしかないって、ガキかよ……!」
髪を乾かした時に見た、白雪の首筋にしっかりと残った、明らかに人間が噛んだであろう噛み跡。
あの大きさは、噛んだのは大人だろう。
あんな風にしっかりと跡が残る様に噛んだにしては、白雪は痛がってはいなかった。
聖法で歯型だけ残る様にされていたのだろう。
白雪の事を、何も知らない、分かっていない子供だと思っていたが、そもそもの前提が違うのではないだろうか?
分かっていないように、された。というのが真実なのではないだろうか。
何も分かっていないうちからある程度躾け、というか、刷り込むというか、洗脳というか、まあ、刷り込んでしまえば、あんな風に純粋無垢な存在が出来上がるのではないだろうか。
まあ、白雪の性別を考えれば、自分に対する行動もそこまで突飛であったとは言えないけれど、それでも、あの噛み跡を見てしまえば、“そういう風”に刷り込まれたと考えるのが正しいとエドゥは思った。
「つーか、男だった事より見も知らぬ奴に嫉妬してる時点で、もう俺手遅れだろ」
大きな独り言を呟く事でしか現状を確認できないのは、仕方がなかった。
けれど、ある程度落ち着きを取り戻したエドゥは白雪の事を他の誰かに言うという選択肢を消し去った。
あれ程の法力量を持ちながら、正真正銘の銀髪を持って、白雪という耳慣れぬ名前で、尚且つ、城から抜け出そうとしていたとなると、一介の騎士であるエドゥがどうにか出来る様な人物ではないのだと、気付いてしまう。
それでも、
「好き、なんだよな。……多分」
自分の思いを口に出して、再度確かめる。
「いや、多分じゃない。好きだ。すっげぇ好き。もう、どうしようもない」
ロッテに抱いた淡い、自分を抑え込めるような思いとは明らかに違うその感情に、エドゥは笑った。
笑った後、背筋がゾクリとし、そういえば自分は濡れたままだったと気付き、風呂に入る事をロッテに伝える為に義姉の部屋に向かった。
「あら、エドゥ。そんなに濡れちゃってどうしたの?」
「白雪が風呂で寝てた」
「あら、じゃああの子と良い雰囲気になっちゃったんだね」
「いや、アイツ全然起きねーから、服着せて部屋で寝かせてます。義姉さんの事、もうちょっとお願い出来ますか?」
「大丈夫よ。一応一日は何かあった時の為にいるって決めてるし、ロッテちゃんのお世話は任せて、エドゥアルドはゆっくりしておきなさい」
「ありがとうございます」
白雪の事を聖女医たちに囃し立てられながらも、とりあえずロッテと赤ん坊の事を任せて、エドゥは風呂に入った。
「本当に、どうすんだ。諦めるなんて、ぜってぇ、思えねぇよ」
白雪が咲かせた月光薔薇を見ながら、エドゥは自分のベッドに白雪が寝ている事を思い出して、客室は聖女医たちに占領されている事実を思いだし、結局ソファーで眠る事という選択肢を選んだ。
ソファーのある部屋には誰でも来れる為、偶然やって来たベテランの聖女医からは「ヘタレねぇ」と笑われたが、何も言い返せないエドゥであった。
思ったより、事実を知った時のエドゥの反応がソフトですが、彼は彼でいっぱいいっぱいだったんです。