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20.悪魔講座

通報されないですよね?これくらいなら…。

「…眠い。」


俺は会社で眠気に襲われていた。しょうがない。昨日は遅かった上に寝付けなかったのだから。オッドは寝ていたので、オッドに相手を頼むなんてアホな真似をせずに済んだのは救いだった。夢に淫魔でも出てこないかと思ったのだが、あいつも出てこなかった。あいつ今どこにいるんだろう。まだトウマのとこにいるのかな。他の身体見つけてればいいけど。


「おーすっ。お疲れー。」


淫魔のことを考えてたらタツキさんが自席に戻ってきた。


「お疲れ様でーす。元気そうですね?」


「最近、夢も見なくなってな。あとはいいことがあったから、だな!」


「よかったすねー。」


淫魔はタツキさんとこにも行ってないのか。じゃあ、俺んとこにもこなくてもおかしくないわ。あいつはタツキさんとこに居たくて堕天したんだから。そう考えながら目を棒線のように細めていると、タツキさんが言う。


「おまえ、最近俺への態度ひどくないか?」


「そんなことないですー。今もっそい眠いだけです…。」


「なんだがげっそりして、おまえも同じようなエロい夢でも見たのかと思ったぞ。」


げっそりっつーか、ハーレム仕様の身体が不満を溜め込んでる状態なんです。今はエロい夢見たいです。とは言えない。


「なぁ…今日は眠いだろうからやめとくけど、明日飲みに行かね?」


「ふぁ?」


「欠伸で返事するなよ。」


「欠伸じゃないです、驚いただけです…。初めてじゃないですか…そんな誘い。」


「いやな、雰囲気イケメンに恩を売って、女の子を早く紹介してもらおうなんてしてないぞ…?」


「そういうことですか…。中々先方と予定が合わなくてですねー。」


「先方て…。」


タツキさんが言おうとしていたので目で合図する。部長が近寄って来ていた。この人噂話大好きだから絡まれると面倒だ。


「そか。じゃあしょうがないが…明日の件は検討よろしく。」


「…了解です。」


なんとなくそれっぽくまとめて俺たちは話を中断して仕事に戻った。それにしても眠い。そして眠いと起きる生理現象が。最近収まりづらいから困る。今女子社員が横を通りませんように。部長に気づかれませんように。立ち上がる用事がありませんように。そう思ってると部長に呼ばれる。なぜに今。後じゃダメですか?ダメですよね…。


「今行きます…。」


とりあえず位置を修正し、隠蔽工作をしてから立ち上がる。どうかバレませんように…。俺は席を立った。






「おかえり、主。」


「ただいま…。」


眠い。とにかく眠い。今すぐにでもベッドにダイブしたい衝動を抑えて、なんとか着替えてからベッドに倒れこむ。


「一眠りするから…。少ししたら起こして…。」


「主…?」


そこから意識がない。




俺は黒い空間にいた。これは淫魔が来たのだろう。しめた。そう思って淫魔を探す。背後から不意打ちしようとする気配を感じて、不意打ちを不意打ちで返す。


「な!」


淫魔が驚いた声を出すが、その驚きも想定内。俺は乱暴に淫魔を抱き竦める。


「ちょ…」


何か言おうとする淫魔の口を口で塞ぐ。それでも喋ろうとして、抗う淫魔を拘束し、そのまま押し倒す。後は不満が爆発した。





黒い空間に寝転んでいた。淫魔も俺の横で寝転び、肩で息をしている。


「淫魔も形無しだな。」


「…あんたがおかしいのよ…。」


淫魔は俺に気だるい視線を向けてため息を吐いた。ちょっとアンニュイで色っぽい。思わず、キスをするとまたムズムズして来たので、おかわりを要求したら、淫魔に止められる。淫魔のくせに止めるなんて。本当にどっちが淫魔だよ?


「私は話に来たの!ちゃんと聞いてくれる?お願いだから…。」


潤んだ目で止めるように懇願する淫魔。


「さすが淫魔だな、ソソるわ…。」


泣いたら止まるなんて思考は今の俺にはない。むしろ…昂ぶるわ…と、嗤いがこみ上げる。どうやらその嗤いがかなり危険な雰囲気だったようで、淫魔に少しの恐怖の色が浮かび、急いで涙を引っ込めた。


「本当に真面目に話したいのよ。それにしても、それでよく他の女の子達ついてくるわね?」


「あぁ。おまえ以外にはかなり紳士だからな。」


「……知ってるわ。」


「知ってるなら言うなよ。」


淫魔が本当に話したそうにしていたので、俺は淫魔の長い髪を弄びながら、話を聞くことにした。


「どうしてあのトウマって子じゃダメなの?私にとってはかなり条件いいのよね。」


「俺にとっては最悪な条件だ。」


俺はぶすくれた視線を淫魔にむける。トウマは友人であり、元カノである。それに誘惑されると抗わなければならぬ何かを感じるのだ。かなり都合が悪い。


「あの子から聞いたけど、前に付き合ってたってだけでしょ?だったらいいじゃない?私もタツキにもあんたにも抱かれてるわよ?」


「夢の中とリアルを一緒にすんな。とにかく俺が嫌なの!」


「じゃあ、タツキと本当は付き合う予定だったあの本命の彼女だったらいい?」


「もっとダメだ!ゆーちゃんは絶っ対タツキさんに紹介しない!」


「ケチね。他にも本命がいるくせに。」


「……なんとでも言え。」


俺は髪を弄ぶのをやめて、淫魔に覆い被さる。


「とにかく、他の子探せよ。そういえば、前におまえは未来が分かるようなこと言ってたよな。それで先を見てタツキさんとくっつきそうな子探せばいいんじゃないのか?」


そう言い終わると俺は淫魔の首筋にキスをし、どんどん首からキスの位置を下げていく。キスされながら淫魔は答える。


運命(さだめ)は彼の方に、仕えてた時は視え…てたのよ…。この身の上になってからは…視えないわ…。誰かさんが…乱したから…もうどうなってるか知ら…ないの。」


淫魔が途切れ途切れに言葉を紡ぐ。俺はキスをやめて疑問を投げかける。


「じゃあオッドみたいに乱せば?」


「私の乱す(ちから)じゃ、たかが知れてる。…あんた自分が何と契約したのか知らないのね。」


「俺はオッドっていう黒猫と契約した。それ以外は知らん。」


「この身の上になってから、アレの凄さを思い知ったわ…。ねぇ…続き…。」


淫魔は思惑(しわく)的な顔をして続きを促すが、


「そう言えば、今日早く女の子紹介してくれってタツキさんに言われたぞ。早く違う身体探してこいよ。」


そう言って淫魔に覆い被さるのをやめて、ごろりと寝転んだ。オッドは悪魔ってことしか俺は知らないし、俺はオッドの素性を気にしないことにしていた。ただ、淫魔とオッドの能力の差や何ができるのかが気になってしまった。


「っ〜〜!あんたには私の催淫がうまく働かないわ…。本当にあんた、なんなのよ…。」


淫魔は消えてしまった…と思ったらゆうちゃんの姿になって俺の顔を覗きこむ。


「タツキに会わないで、まずあんたのとこにきたのよ…?続きをしてほしいの…。」


泣きそうな顔でゆうちゃんの姿で淫魔は言う。タツキさんとこより先に俺のとこに来たのか。でも…


「さっき話聞けって言ったのはおまえだし、先に俺のとこに来たのはタツキさんが死なないようにだろ?俺はただのタツキさんの代わりだ。」


「…あんただってそうじゃない…。」


俯いてしまったゆうちゃんの姿の淫魔に優しく笑うと、目にキスをして涙を拭う。夢のくせに、しょっぱい味がする。


「お互い様か。」


「…そういうことにしておきましょう?早く続き…して…?」


涙ぐんで笑うゆうちゃんの姿の淫魔を俺が優しく撫でると、淫魔は手をくるりと返した。景色はゆうちゃんの部屋に。俺は昨日の続きを愉しむことにし、淫魔の「しておきましょう」という発言には気づかないふりをした。







「主、主。朝だぞ。起きろ。」


オッドがふみふみペロペロして起こしてくる。


「朝…?」


一眠りのつもりだったが、朝まで寝てしまったようだ。


「夜はいくらやっても主は起きなかったからな。」


そう言ってオッドは時計を見た。少し早めに起こしてくれたようだ。


「本当におまえは気が利くな。」


身体を起こして、オッドを撫でるとオッドは気持ち良さげにしたが、


「む、羽虫め…。」


と憎々しげに俺の下半身をみた。つられて俺もそちらを見る。


「げぇ…。」


大変なことになっていた。下着を脱ぐのも一苦労だし、朝から洗濯機がフル稼働だ。オッドが早く起こしてくれなかったら、今夜は臭うベッドに寝ることになったな…本当に助かった。オッドは 「出し抜かれた」とか意味不明な独り言をぶつぶつ言っていた。一体誰に何を出し抜かれたというんだ?

シャワーを浴びてから、オッドの餌と水を用意し、オッドが餌を食む様子を見ながら軽い朝食を済ます。ふと淫魔とのやり取りを思い出した。


「そういや、淫魔のやつ催淫できるようになってたけど、俺にはうまく効かないって…こないだは効いたのに。俺に耐性ができたのか?」


独り言のように呟いたが、それにオッドは答えた。


「我の能力が身体にだいぶ馴染んできておるのだろう。むしろ彼奴の精気を吸っておるかもな。」


「はぁ?!俺、もはや人じゃなくね?!」


「いや、冗談だ。」


「なんだよ…冗談か。今、精気を吸うって言ってたけど、淫魔はそうやって生きてる…違うな。活動してるって認識でいいのか?」


「いいや、精気は吸わぬはずだが?彼奴は色欲を喰らう。例えば、人間が熊を相手取って戦えば、疲れるであろう?」


納得できるような、できないような…下手すれば死ぬっていうことは合ってるか。っつーか、それを相手取ってむしろ勝ってる俺も熊レベルってことか?!やっぱ人外ってことじゃん…!

洗濯物を取り出し、部屋干しで乾くだろうか…と頭の片隅で心配しながら会話を続ける。


「じゃあ、淫魔に精気を吸い取られるっていうのは…迷信?あいつ元天使の癖に知らなかったけど?」


「羽虫達の主人(あるじ)が愛する存在の運命(さだめ)を乱すほど(ちから)がないからだろう。排除するほどのものではないから知らぬのではないか?」


そういや淫魔も言ってたな、そこまでの力じゃないって。


「じゃあ…タツキさんも加減すれば死なないのかな。でも、あいつが加減とか器用なことができるとは思えない…。やっぱ受肉?して、人としてするのが一番手っ取り早いかな…。」


ぶつぶつと言っていると、オッドが時計を見ながらいう。


「主、時間は大丈夫なのか?」


「うん、ヤバイ!」


俺は、はははっと爽やかに笑いながら答える。本気でヤバイ時は逆に笑えるんだと思った。折角オッドが早く起こしてくれたのに。

読んでくださってありがとうございます!この世界の淫魔さんは精気は吸わない設定にしました。淫魔は生殖ができないため、子種を絞り取ったり、植え付けたりするんだそうです。ただ相手したら死ぬってことにしたらこの小説内で死人が大量発生しますし、女子が全員妊娠してたら大変なことになりますので、色欲を喰うということにしておきました。

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