17.修羅場?
話は少し前に戻って日曜の夜。当たったテーマパークチケットを誰と一緒に行こうと迷っていた時のこと。電話が鳴る。ユウちゃんからだった。
「どうしたの?急に電話なんて。」
「いや…あの…別に電話じゃなくて良かったんだけど…。声が聞きたくて…。」
電話口でも照れているのが分かり頬が緩んだ。年上だし、迫力のある美人なんだけど、なんだか可愛いんだよね、ユウちゃん。
「それで?電話じゃなくてもいいんだって言うんだから、用事もあるんでしょ?」
俺は優しく聞く。
「あ、実は…友人からコンサートのチケットをもらったんだが…急に行けなくなってしまって。いや、本当は一緒に行きたいんだけど、私の都合が悪くなってしまって…。水曜日の夜なんだが…その…チケットもらってくれないかな?」
どうやら手持ちのチケットの都合が悪くなったから譲りたいということのようだ。演目は俺が好きだと言っていた映画音楽のクラシックコンサートだった。好きだと言ってたからそれを俺と一緒に行くつもりで用意したのかもしれない。やはりやることはイケメン。俺、見習いたい。
「水曜日?だったら行けるかも。でもユウちゃんは行けないんでしょ?もらっちゃっていいの?」
「いいんだ。どうせ行けなくて無駄になるなら誰かと行ってもらった方がいい。」
残念そうながらも、相変わらず剛毅な発言をしているユウちゃん。他の女の子誘ってもいいって暗に言ってるのは気づいているんだろうか。俺がモテることも知ってるから気づいている方が有力。
「それで、チケットを渡しに行きたいんだけど。いいかな?」
「うん。大丈夫だよ。」
「わかった。今から行く。」
そう言って、ユウちゃんはうちまで車で来た。俺は駐車場を持ってないので、邪魔にならないところに停めて車の中で話す。相変わらず化粧っ気のない顔にラフな格好だったが、もう俺の目にはイケメンではなくて乙女に見える、不思議なもんだ。
「仕事途中で抜けて来て、その…ちゃんした格好じゃないし…化粧もしてないのだが…。」
やや恥ずかしそうにして言った。日曜だけど、仕事だったのか。忙しいんだな。そう思いながら
「そうやって照れてるところが可愛いんだよ。忙しいのにわざわざありがとう。」
そう笑顔でいうと、ユウちゃんはもっと照れてた。ユウちゃんは俺にチケットを渡すと、
「少しでも顔が見れて嬉しかった。」
とユウちゃんはニカっと笑った。
「そうだ。このチケットのお礼に…。土曜日、空いてる?」
「土曜日?…………なんとか空ける!!」
今、ものすごい気合いを感じた。どうにかして予定空けるんだろうなと少し苦笑しながら、
「一緒に行こう?」
俺はテーマパークのチケットを見せる。なぜ持ってたか謎だったんだ。ユウちゃんを誘うためだったか。俺のために取ってくれたと思われるチケットをガラポンで当てたチケットで穴埋めって…とも思ったが、ユウちゃんはあくまで友人からもらったと言っていたのだし。そう思うことにした。
「…初めてだ。」
「?」
「男性とテーマパークなど行ったことがない…。」
「え?!」
デートで行きたくないという人もいると聞くし、そういう人と付き合っていたら機会もなかったのかもしれない。結果として良かったのか。
「じゃあ、ちょうどいいね。俺がその初めてをもらうよ?」
そう言って笑うと、ユウちゃんは顔を赤らめて
「なんとしてでも予定を空けるから!!」
ユウちゃんは両手を握り拳にして気合いを入れていた。可愛いな。俺もちゃんと予定を空けておかないと、と思いながら、ユウちゃんは仕事中抜けて来ていたのでキスだけはしっかりとして、そのまま車を降りて別れたのだった。
その後、俺はゆうちゃんに連絡して、水曜日の予定を聞いた。もう学校も休みに入りかけているので、予定は空いてたらしい。ゆうちゃんはこちらから誘ってもらったことに相当喜んでいた。俺には他に気になっている人がいることになってるし、こないだの据え膳まで断っている。デートに誘ってもらえたことで、俺がゆうちゃんに傾いて来ていると思えたのだろう…と勝手に考えた。あくまで俺の妄想だ。
ユウちゃんからもらったチケットでゆうちゃんを誘うなんてどうかと思うけど、もう俺の願いがハーレムの時点でどうなんだということなので、そこは目を瞑った。しょうがない。そこはしょうがない。
ーーーーーー
俺は仕事帰りに会社近くの繁華街にいた。と言うのも今朝の涙目事件(仮)を受けて、少し欲望を発散する必要性のあると思った俺は、催淫の効きそうで、可愛い子がいないか探していた。所謂ナンパである。ナンパなんぞイケメン以外がしたら石投げられると思っていた俺が。俺もだいぶアグレッシブになったものである。
でも、そんな都合のいい子には中々出会うこともなく。道行く女の子に声すらかけられなかった。俺、オートモードが作動しないとチキンだしな!!それにオートモードが作動しないってことは外れるってことだから。と言い訳してみる。あはは。はぁ…。
「ねぇ。」
後ろから知った声が聞こえる。
「トウマ!?なんでここに?」
驚いてなぜとか聞いてしまった。
「あぁ、この子と知り合いだったわね。そういえばそうだったわね。」
意味がわからず、トウマの目を見るも、やはり熱い眼差しが俺に注がれているだけであった。
「…その………怒ってないのか?」
こないだ置いてぼりにした事だ。
「こないだ?あぁ。この子とケンカでもしたの?大丈夫よ。この子、そんな事忘れてるから。」
全く話が見えない。依然ハテナがたくさん出ている状態で突っ立ていると、
「それより、しばらくタツキといちゃいちゃしてない状態であんたの声を聞くと…やっぱり身体が熱くなるわ…?」
そう続けてキスしようとして来たので
「わ、ちょっと待った!人の少ないところに行こう!」
どこで誰が見ているかもわからない。トウマにばったり会ったのだ。ゆうちゃんあたりに会ってもおかしくない。俺は慌てて人通りの少ない場所へと移動しようとしたのだが、繁華街なのでむずがしい。しょうがなく、近くのカラオケボックスで話をすることにした。
「トウマ、俺よくわからないんだけど。」
そう切り出すと、トウマはニコニコしながらいう。
「この子トウマって言うのね。名前があんまり可愛くないわね。」
ブツブツ言っているので、早く事情を話すように目で促すと、
「まだわからない?私よ、リリスよ?」
「誰?リリスなんて知り合いいないぞ。」
「名前聞かなかったのあんたじゃないのよ!」
怒り気味のツッコミが入る。なんとなくタツキさんの名前が出たことや話し方で予測はついたけども。
「分かってるって。残念淫魔だろ。にしてもなんで…トウマなんだよ!?」
「この子なら胸も大きいし、顔も悪くないから、タツキのお眼鏡にもかなうかなって。それにこの子、弱ってたのよね。私に身体を貸せば私と一緒にいられるわよって言ったら簡単に貸してくれたわ。女の相手って本当は趣味じゃないけど、タツキのためだから我慢したわ。」
大きな胸を張ってドヤ顔をする淫魔。弱って居たトウマは悪魔の囁きに耳を貸してしまったという事だろう。身体が乗っ取られるとも知らずに。俺は頭痛を覚えて頭を抱える。
「俺のせいかよ?」
「いいえ、あんたのせいなんかじゃないわよ。私が仕事が出来るからよ?それで、この身体でならいちゃいちゃして問題ないかあんたで試そうと思って。」
項垂れている俺の顔をすくい上げるようにキスする。俺の腕には柔らかな山が押し付けられた。ヤバイ…。俺は顔を背けて抵抗をする。抵抗などする必要がないという意識が顔を背けるだけというささやかなものとするが、俺の中の何かが依然として警鐘を鳴らしているのだ。無視はできない。
「やめろよ…。」
「その割には嫌そうじゃないわ。ほら、身体は正直ね?」
どっかの官能小説のような台詞を吐いた淫魔は俺を見て笑みを浮かべる。よりにもよって今日。本当に身体が正直な反応を示してしまう。どうやらタツキさんと俺以外の相手もしてきたことで、淫魔も淫魔らしくなったようで、俺と同じように声に催淫効果がついているようだ。頭がクラクラして来た。俺はなんとか思考を立て直そうと自身の息を整えながら言う。
「その身体のままなら…タツキさんに紹介するのは無しだ…。その身体持ち主とは因縁浅からぬ仲なんでね、タツキさんに紹介することはできない。その身体のままなら、自分で気づいてもらうんだな…。」
「イジワルね…?でも、あんたとするだけなら、この身体でもいいんじゃないの?」
淫魔は俺の耳元で囁くとふぅっと息を吹きかける。どうにか淫魔を止めないと。俺は回らない頭をフル回転させる。
「…するにしてもここはマズイ。移動するためには少し…落ち着かないと…。」
「そういうものなの?初めてからそういうところに行けばよかったじゃない?」
「無理なこと言うな。俺はおまえだと知らなかった訳だし、その身体の持ち主とは…その…喧嘩してたわけだし。」
「仕方ないわね…落ち着いたらさっさと移動しましょ?」
落ち着いたら外でどうにかトウマから出て行ってもらおう。俺は冷静に考えられるように太ももをつねりながら、息を止めたり、落ち着いて呼吸するように努めた。淫魔は喋りもせず、俺を相変わらず熱っぽい視線で見つめている。
「収まるもんも、収まらなくなるからヤメろ。…今日は色々事情があるんだよ!」
「あら、怖い、怖い。」
そう言って肩を竦める。2つの塊がゆさっと揺れる。だからヤメろって言ってるのに。ようやく落ち着いたところで外に出て、歩いていると淫魔が
「あら??」
と言って立ち止まった。視線の先には…ゆーちゃんだ。ゆうちゃんじゃなくてゆーちゃんにばったり会ってしまうとは…気づかれませんようにという願いも虚しく、あっさりゆーちゃんは俺に気がついて近づいて来た。
違う意味でだいぶピンチな気がして来た…。
読んでくださってありがとうございます!今回少し時系列的におかしくなってしまいました。すいません。普段は書き溜めて、おかしくなったら書き直して…というスタンスでやってるので、貯金がないって言うのに慣れてないです。延命措置のツケですね。
しかし、更新スピードを落とすのもなんとなく嫌なので…。うーん。やはり無茶だったかな。




