今日も頑張ってるよ。
誤字などのご指摘ありがとうございます。修正しました。
クレア・エリソンが断罪され、地方の修道院に追放されてから三か月ほどが経った。
結局王子は自身の今までの行い――強引に男爵令嬢を婚約者にしながら教育も行き届かず、結局婚約破棄になった――を理由に継承権を破棄した。まあ元々彼は第二王子だし、王太子に子供が生まれれば「継承は若い世代へ行うもの」という風潮のある我が国なので、そちらのほうが継承順位が優先されるから、広い目で見れば大きな損害があったわけでもないだろう。
しかしそれでもやはり王族の中からこのような失態を起こしたことに関する混乱は幾らかあった。それもいずれは沈静化するのだろうけど。
それに伴って、私の冤罪も公に晴らされた。国王陛下から正式な謝罪が書面で送られたのだからびっくりである。
けれど私は結局学院に復帰することはしなかった。だって面倒だもの。
あの時のメンバーにもそれぞれ法律に基づいた刑罰が執行された。
王子は王族から正式に籍を抹消された。爵位も与えられず、現在は魔術院の資源発掘事業で危険の多い現場に従事しているという。
宰相子息は王宮で与えられていた職を失い、さらに王宮を出禁になった。この国の研究機関の多くは国営であり、そちらのほうのブラックリストにも名前が載ったらしい。知識労働者としての教育しか受けてこなかった彼が、これからどのように生きていくのかは私にはわからない。さらに宰相は自主的に宰相職を辞任。当主も長男に譲り、地方に隠居することにしたという。
ほかの者たちもそれぞれ職を失い、王宮を出禁になった。爵位を失った家もあり、平民に下った。かのジョーンズ男爵家の長男は今では行方知らずだと風の噂で聞いた。
ちなみに当たり前だがエリソン男爵家も廃された。
「なんというか、嵐みたいにやってきて、そして去っていきましたね」
私は今回の事件をそう評した。慌ただしい日々だったよ、まったく。
「そうかぁ?ま、はた迷惑っちゃはた迷惑だったがなぁ」
私が入れたコーヒーを飲みつつ、カップケーキをパクついていたデュークさんが暢気そうに言った。
現在、私は通常業務に戻っている。あれから冷凍庫・・・つまりレイバコは無事完成し、私の当初の目的通り食品輸送の面で活躍している。今は新たな真道具の開発に取り掛かっている最中だ。
それぞれのデスクが並べられ、その上には書類やらメモやらが雑多に置かれている。デスクワークを行うときは皆この部屋を使っている。開発の時は地下実験場か、もう少し広い部屋を使っているよ。
「内容自体はバカバカしかったが、こうして王宮を揺るがす惨事を解決出来たんだ。よかったんじゃないか?」
服についたカップケーキの食べかすを神経質そうに払いながら、全くそうは思っていないだろう皮肉な口調でアーネストさんは言った。彼はこれが通常運転である。
私もカップケーキをもふもふ食べながら、あの騒動に再び思いをはせた。本当にいろいろあったもんだ。
クレア嬢はあの後、精神に支障をきたしたらしく、修道女として神に従事するというよりは患者のような扱いを受けているという。同情しているわけではないが、彼女の最後の姿――結局私に罵詈雑言を浴びせることに終始した――を思い出すたびに、他の道はなかったのだろうかという苦い気持ちにさせられる。
選んだのは彼女だが、同じ転生者としては妙に物悲しい気持ちにさせられるのだ。
そう、ちょっぴりセンチメンタルになっていたところに、課長が入ってきた。
「ああ三人とも、お疲れ様」
今日も整ったロマンスグレーの髪に、穏やかな笑顔がステキな課長は言いながらカップケーキを手に取った。私はひょいと立ち上がってコーヒーを入れる。ドリップや粉がないとコーヒー一杯入れるのも結構大変なんだぜ。
「今現場の責任者に会ってきたところなんだけど、だいたい予定通りに進んでいるみたいだよ」
「わぁ本当ですか!」
コーヒーを入れる手を思わず止めて私は声を上げた。
実は、私個人に対する賠償金があの時のメンバープラス国王から支払われたのだ!
ぶっちゃけ個人に渡す額ではない。だってあの選りすぐりメンバーズの個人資産がほぼそっくりそのままに、国王は国王でやはり私にはあまり騒いでほしくないのかけっこうな額を頂戴しました。
これだけあれば遊んで暮らせるどころか、ちょっとした大貴族の総資産よりも下手をすれば多いぐらいの額である。
「ああ。これでエンバコとレイバコの大量生産化は目途が立ったよ」
課長はにっこりし、私もつられてにっこりする。
実は、私は生活に困ってはいないので、賠償金はそっくりそのまま民間真道具開発課へ投資としてぶっこんだのである。名義は我がシルヴェスター公爵家ということで。
その資金で我が課はエンバコとレイバコの生産工場をただいま建設中。ほかの貴族たちも本格的に投資に乗り出し、恐らく資金面で困ることはこの先ないだろう。
私はこれからも、この国の発展に、――この国の優良なる市民のために貢献していきたい。本当に、デュークさんも言ったけど、あのまま学院を卒業していたら得ることのできなかった未来だ。
四人でコーヒーを飲みつつ現在開発中の製品に関して論議していたが、不意にちゅどーん、という字面はコミカルだが笑えない音が地下から響いてきた。
「あーあ、まーたやったか」
そう呆れたように言いつつもデュークさんは白衣を羽織って立ち上がった。実験の後処理は基本彼の仕事である。怖いし危ないから、頑丈な人にやってもらったほうがいいのだ。うむ。
「やっぱりあの術式は相性が悪かったのかもな。試しにやってみると言っていたが・・・」
仕事にはまじめで真摯なアーネストさんも立ち上がって地下室へと向かう。私もまだまだ勉強中の身なので、少しでも実地を見学させてもらおうと、よれよれの白衣を翻して二人の後を追った。
今日も明日も、日進月歩で、元悪役令嬢は頑張ります!
これにてティファニーのお話は完結です。皆さん、お付きあいいただきありがとうございました!(*´ー`*)
活動報告に謝辞やらなんやら書いておりますので、よければどうぞ。




