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ようこそ。異世界へ! 掌の裕也

「和食ですか。良いですね。こちらの世界で食するなんて贅沢です。」


 ダイニングは大小二つあり、今回は小さい方を使う。先ほどまでいたリビングにもダイニングコーナーがあったし和室も食事はできるので食事が出来る場所は四つだ。小さい方でも教室くらいある。建物そのものを学校を改造したと思うほどだが日本家屋なのは確かだ。

 食事中は、女性陣が子供のころの思い出に花が咲いた。まあ、恥ずかしいことが中心だったことは当然として。当然ことながら裕也の子供時代の質問責めもあった。これは適当に答えることした。

 食事の内容はと言うと会席料理に近く美味しかった。食事を終えると居間に戻り、この異世界のことや館についてなど会話があった。その間に、裕也が何度か協力について尋ねたが、『無粋ですね』とか『明日の議題ですから』と言って答えてくれなかった。どうも、具体的な方策は決まっていないみたいだ。 

 クリス側も事実、具体的な方策は無く困っていた。市川裕也は悪い人ではない。だからと言って異世界側に協力するとは限らない。



「ご主人さま。これからの予定ですが夕食まで自由にとのことです。お部屋に戻り、お荷物の確認、当座の生活の不足分を補います。親睦会の有志からお茶会を誘われていましたがクリスお嬢様共々お断りいたしました。では、お部屋にご案内いたします」

 部屋は高級旅館の雰囲気に近い。和洋室でリビングとシャワーもあり世話係り用の小さな洋室も付随している。和室には異世界に同時に飛ばされた私物もあった。その他にスリーピース二着にモーニング、燕尾服も用意されていた。スリーピースはグレーのシングルと黒のダブルだ。シャツやネクタイも靴も。それにこちらの貨幣があった。アンナ曰く「服は伯爵として最低限のもので、名誉貴族の場合は領地が与えられないかわりに金銭が与えられる。」とのことだ。与えられのは直径三十ミリ程度金貨四十枚だ。金貨四枚が上級メイドの一ヶ月の給金とのことだから、物価が分からないが、給料二十万円として一枚あたり五万。その四十倍。二百万円相当だ。

一応、私物を確認してみる。大阪のファッションホテルで脱いでいた衣服類一式、スマートフォン、財布は当然として駅のロッカーに預けていたはずのカメラバックとスーツケースもあった。スーツケースの中にはノートパソコンとその周辺機器一式も入れておいたが、インターネットが繋がらないものの問題なく作動した。カメラも同様だった。

 その後、アンナが燕尾服の着方を説明したが、うまく出来なかった。癪だがアンナの着せ替え人形になるしかないと諦めた。異世界に転移する日は未定だが、この服も金貨も使う機会はあるのだろうか。そんなことを考えているとクリスがやって来た。


「もう、荷物のお整理は終わりましたか。」

「丁度、終わりました。まあ、入り口でお喋りも何ですし、入りませんか。アンナ、お茶の仕度を」

「はい。すぐに」

「いえ、もし時間があるなら夕食まで館をご案内しようと思って」

クリスは、少しでも早く異世界の事を知ってもらいたいのと純粋に会話をしたかった。

「ええ、良いですよ。この格好で大丈夫でしょうか」

裕也は手荷物からジーンズとTシャツに着替えていた。

「もちろん、良いです。それでは行きましょう」

「はい、お願いします」

もしも二人きりになれたら風俗の仕事の件を問うてみよう。それにはベアータとアンナが帯同するのが厄介だ。


 母屋の構造はカタカナの”コ”の字に近い。上が北になる。上側にリビングや居間などがあり、下の方に寝室と客室がある。それを繋ぐ様に右縦に玄関、台所、食堂などがある。お風呂は上の棒の左端にあたる。使用人は調理担当(コック)家政婦長(ハウスキーパー)が上級使用人となり、その下に二名の一般使用人が付く。看護婦ナースのような仕事で真弓。お世話係り(レディス・メイド)はベアータで、その下の行儀見習いでアンナがいた。これ以外に雑役として奴婢が三人。一応、全員と顔つなぎをした。まだ、庭師が四人いるが『会った時に紹介する』との事。その後、外に出てクリスは説明を続ける。

 母屋の南には会議を行った迎賓棟がある。ヴィクトリーヌとレイラ以外は迎賓棟に泊まっている。暫らく歩くと小さな円墳に社を無理に付けたような建物がった。円墳と言うより帆立貝古墳みたいだ。直径二十メートルで高さ三メートルくらいだろう。その周りを柵で囲み四隅と正面入り口には女性の衛士がいる。服装は女性SPぽいスーツ姿だが腰にセイバーや日本刀を帯刀している。

「ここが例の転移場所です」

クリスが来たのを知って詰所から責任者らしい女性が飛び出して来て、肩ひざを突く。

「クリス様。今般は如何様なご用件でございましょうか」

「いえ、別段、用件はありません。裕也伯爵を案内していただけです。仕事に戻って下さい」

責任者が詰所に戻るのを確かめると

「昼夜を問わず十人が警備しています。」

「すごい警備ですね」

「ええ、この屋敷の内側と外側を警備にそれぞれ同じ人数がいます。私たちの警護より転移場所を守る意味合いが強いですけど……。それにこの屋敷の井戸とかの重要な場所にも警備がいます」

「これだけ人数がいるなら、ここの秘密を守るのも難しいでしょう」

「衛士たちは秘密を知りません。この中に入ること者は限られています。私と五人の巫女とそれぞれの部下の巫女見習いです。巫女は朝夕ごとに祭壇の確認を行います。昼間には巫女見習いたちが巫女の指示で祭壇の以外の清掃を行います。巫女見習いも祭壇の中に入るのは禁じられています」

「実質、立ち入れるのは六名ですね」

「いいえ、公爵家以上の女性と皇帝陛下もです。それと私が許可した人が可能となります。単純に許可と言っても制限があります。次のレイラのところが最後です」

それで良いと思ったが、何かが足らない。そう肝心な電気の供給が謎だ。レイラが最後なら途中でその説明があるだろうが。電気が通っている場所は母屋と迎賓棟だけだ。電線は見当たらない。ならば……。

「ええ、そうしましょう。あっ、そう言えば発電所は屋敷の外なんですね」

「いえ、それもレイラのところにありますので」

笑顔で当然の事のように答えたクリスに脱力した。気負って損した。


「ここです。ここがレイラの研究棟です」

屋敷の裏にある幾つかある土蔵のひとつだ。

世話係り二人を屋敷にもどらしてから、一番大きな土蔵の中に入ると目を疑った。外より涼しい。これは土蔵の特徴だろう。だが、目を疑ったのは地上の世界のオフィスそのものだから。しかもコンピュータが置かれた机が六つあり、女性社員風の人がそれを使って作業している。

「クリス様、レイラ様は奥ですよ」

女性のひとりが顔をあげて気さくに声をかける。

「奥の部屋ね。大変でしょうけど、がんばってね」

「はい、ありがとうございます」

 奥の部屋に進む途中で作業中のコンピュータを見てみると横文字だ。今更ながら当然のように日本語を使っているが言語体系はどうなっているのだろう。目覚めた時にアンナたちに「日本語上手ですね」と言うと「当然のことです」と返されたので思い出した。パソコンの本体は自作のようだが、ノートもあり、こちらは日本メーカーのロゴがあった。

 クリスがノックするとレイラの秘書兼世話係りのノーラが出る。裕也とノーラは、面識はないがお互いのことはある程度だが分かっている。ノーラはルノワールの”岩に座る浴女”に雰囲気が近い。いわずもがなだが服は着ている。ダークスーツだ。

「レイラ様。クリスお嬢様がお見えです。中にどうぞ」

「あら、クリスちゃん来たの。まだまだ時間がかかるよ。ノーラ、お茶を」

レイラは乱れた髪を手で押さえながら指示を出す。

「いえ、おかまいなく。お邪魔したのは裕也殿を案内していたので」

「ふふん、状況の視察かな。それともお互いの距離感を縮めて例の計画に対応する準備かな。どちらにしても落ち着いてお話ししましょう

「そんなことは無いです」

慌てて首を横に振る。この三人はお嬢様としての付き合いより姉と妹の関係に近い。

「途中経過を報告したいしユウヤ伯のご意見も聞きたかったので丁度よかった」

読んでくださってありがとうございます。

感想は当然ですが、誤字などの指摘、ご意見があればお願いします。

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