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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第三章

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第十七話 【クエスト8 : 中間試験に立ち向かえ ②】

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ユーリくんの家で勉強会スタート。

男子一人暮らしの部屋に踏み込む凪紗さんと柚希くんですが――。

どうぞお楽しみください。

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三人で坂道を上り、僕の家の前に着いた。


「……え」


凪紗さんと柚希が同時に声を上げて家の外観を見上げた。


「ユーリくん、ここ?」


「うん」


「一軒家……? 一人暮らしで……?」


「うん」


(ナビさん、そんなに珍しいの?)


『現代日本において高校生が単身で一軒家に居住するのは極めて稀なケースです。通常は家族と同居、もしくは一人暮らしの場合はアパートが一般的かと』


……そうなのか。元の世界では地方の小さな領主の娘をモンスターから助けた時にお礼として屋敷をもらったことがあるが、あれはこの家の二十倍くらいあった。あれに比べたらここはずいぶんコンパクトだと思っていたのだけれど。


「……やっぱり結城くん、噂通りいいところの家柄なんだね」


柚希が納得したように呟いた。


「いや、そういうわけじゃ……」


「やっぱり海外のお金持ちのご子息説、あるよね」


凪紗さんが目を輝かせている。違うんだけど説明が難しい。


「……とりあえず入ろう」






*****






玄関を開けてリビングに通した。


「わー、広い! ……ていうか男の子の一人暮らしなのにめちゃくちゃ綺麗じゃない?」


凪紗さんがリビングを見回している。


「ユーリくん、もしかして他の女の子とか家に上げてたりしないよね?」


「してないよ」


「……本当に?」


「本当に。そもそも物が少ないから散らかりようがないんだ。掃除も自分でしてるし」


物を整理するのは昔からの癖だ。勇者時代は膨大な量のアイテムを管理していた。ポーションや薬草や武器の手入れ道具。戦闘中に必要なものがすぐに取り出せないと命に関わる。アレンはまだましだったがリーナは壊滅的に整理ができなくて、結局ナーシャと僕が二人分の荷物まで整理する羽目になっていた。


……懐かしいな。


「ご飯とかはどうしてるの?」


「自分で作ることもあるし、たまに……母親が来てくれる時もあるよ」


「へえー。ユーリくん、わたしより絶対家事できるじゃん……」


凪紗さんが若干落ち込んでいる。


「あ、そうだ! ねえユーリくん、勉強の前にユーリくんの部屋も見せてよ!」


「え、別にいいけど……」






*****






二階の自室に案内した。リビングと同じくすっきりと片付いている。ベッドと机と本棚。窓からは海が少しだけ見える。


「ここがユーリくんの部屋……」


凪紗さんがベッドの前に立ってじっと見つめている。


「ここがユーリくんが毎日寝てるベッド……」


「……凪紗、ちょっと発言が変態っぽいよ」


柚希が冷静にツッコんだ。


「え!? そ、そんなつもりじゃ……!」


机の上には教科書とノートが開いたまま置いてある。毎晩の復習の跡だ。


柚希は部屋の中をさりげなく見回していた。何かを確認するような視線。でも何も言わなかった。


その横で凪紗さんがベッドの下を覗き込んでいる。


「……凪紗さん、何してるの」


「い、いや! 男の子の部屋に来たらこういうのチェックするのが定番かなって!」


「いつの時代の定番なの、それ」


柚希がまたツッコんだ。


「何もないじゃん。つまんない」


凪紗さんが不満そうな顔をしている。


『マスター、凪紗様もおっしゃっていることですし、次回コンビニに行かれた際には成人向け雑誌をーー』


(必要ない)


『仕様です』


「さ、さあ! そろそろ勉強しようか!」


柚希が二人の手を引っ張ってリビングに戻った。






*****






勉強を始めてから数時間が経った。


窓の外はもう暗くなり始めている。


「……もう無理。頭に何も入らない。パンク寸前」


凪紗さんがテーブルに突っ伏した。


勉強は試験範囲を一通り確認しながら問題集を解く形式で進めた。分からない問題や理解が曖昧な概念が出てきたら柚希が解説する。僕は理数系に強いので数学や化学は僕が凪紗さんに教える場面もあった。


テーブルの上にはプリンの空き容器が三つ。全部凪紗さんのだ。「糖分が必要!」と言いながら僕の買い置きを次々と開けていた。


「結城くんの家、デザートがいっぱいあるんだね」


柚希が少し驚いた顔をしている。


「うん。この世界の……いや、日本のデザートは本当においしいから」


……危ない。今少し変なことを言いかけた。


「時間も経ったし、今日はこの辺りで終わりにしようか」


柚希が提案して凪紗さんが勢いよく顔を上げた。


「あ、そうだ。わたし今日、お母さん帰り遅いから妹にご飯作ってあげなきゃいけないんだった。そろそろ帰らなきゃ」


「じゃあ駅まで送るよ。二人とも暗くなってるし」


「大丈夫だよ! ゆずと一緒に帰るから」


凪紗さんがひらひらと手を振った。


「家も貸してくれてデザートまでごちそうになって、これ以上甘えたら申し訳ないし。ね、ゆず」


「うん。本当に今日はありがとう、結城くん」


二人が揃ってそう言ってくれて少し心配だったが無理に送ると逆に気を遣わせてしまう。


玄関でスケジュールを決めた。一週間に三回、一日おきにうちで勉強会。


「次来る時はわたしが夕ご飯作るね! 勉強の後にみんなで食べよう!」


凪紗さんが張り切って宣言した。


「いいの? 凪紗さんに負担かけちゃうんじゃ」


「全然! ユーリくんに場所もデザートも提供してもらってるんだから、これくらいさせて!」


「……ありがとう。楽しみにしてる」


素直に嬉しかった。誰かが自分のためにご飯を作ってくれる。昔を少し思い出す。


「じゃあ明日、学校で。ありがとう二人とも」


「うん! またね、ユーリくん!」


「またね、結城くん」


二人の後ろ姿を見送ってから玄関の扉を閉めた。


静かなリビングに一人。


……さっきまでの賑やかさが嘘みたいだ。







*****






【視点:水瀬 柚希】


駅に向かう夜道を凪紗と二人で歩いた。


「ユーリくんの家、広くてよかったね。でも一人であの家に住んでたらちょっと寂しくないかな……」


凪紗がぽつりと呟いた。


「……凪紗、気づいた?」


「ん?」


「結城くんの家、写真が一枚もなかった」


凪紗の足が一瞬止まった。


「リビングにも、結城くんの部屋にも。自分の写真も家族の写真も、何も飾ってなかった」


「……言われてみれば」


「一人暮らしだとしても、普通は家族の写真くらいは置いてあると思うんだけど」


凪紗は黙って歩きながら考え込んでいた。


「……家のことで何かあるのかな。ユーリくん、家族の話ってほとんどしないもんね。お母さんがたまに来るって言ってたけど」


「うん。……僕、結城くんと過ごすようになってから気になってることがあって」


「なに?」


「結城くんってさ、すごく優しくて明るくて、みんなを助けてくれるけど……時々ふっとすごく遠い目をする瞬間があるんだ。何かを思い出してるような、懐かしんでるような。……なんだか、すごく寂しそうに見える時がある」


凪紗は何も言わずに頷いた。やっぱり凪紗も感じていたんだ。


「……凪紗がさ、次は夕ご飯作るって言ったの、もしかして」


「……うん。一人であの家でご飯食べてるのかなって思ったらさ。なんかほっとけなくて」


凪紗らしいと思った。


「ゆず、わたしたちもっとユーリくんに良くしてあげよう。ユーリくんにはたくさん助けてもらったし」


「うん。僕もそう思ってた」


結城雪里。あの人は僕たちのためにたくさんのことをしてくれた。


学校に行く勇気をくれた。颯太の前に立ってくれた。怪我を恐れずに僕を守ってくれた。


だから今度は僕たちの番だ。結城くんが何を抱えているのか全部は分からないけれど、助けてあげられることがあるなら何でもする。


それが友達だから。






*****





――そう決めたものの、結城くんに直接聞くべきかはずっと迷っていた。


何か事情があるのは間違いない。助けてあげたい。でも家族のことだから踏み込んでいいのか分からない。直接聞いても大丈夫なのか。


……今はまだ、もう少し近くにいて、結城くんが自分から話してくれるのを待とう。


そう思いながら迎えた次の勉強会の日。


学校が終わって三人で結城くんの家に向かった。坂道を上り玄関に着く。結城くんが鍵を開けてドアを引いた瞬間。



「ユーリくーーーん!!」



中から金色の髪が飛び出してきた。


――え。


若い女性が結城くんに飛びついた。金色の髪をハーフアップにまとめてカジュアルな私服を着ている。見た目は二十代前半くらい。綺麗な人だ。


「久しぶりー! 会いたかったー! 寂しかったんだからねー!」


「な、なんで今ここに……!」


結城くんが慌てている。結城くんがあそこまで慌てるのは珍しい。


隣を見ると凪紗がその光景を見て完全に固まっていた。






*****






☆ 〜つづく ☆


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