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不老不死にはわからない  作者: ある
第二章 誰かになる、そのまえに 「魔法訓練」

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 心の底で、何かが――音もなく泡立ち始めていた。


 弟の肩が震える。目の奥が、熱を帯びた光に揺れている。


(なんでだよ……)


 ずっと、自分は「すごい」と言われてきた。

 他の子がまだ魔法を学ぶ前から、もう使えていた。

 炎も、水も、土も。どれも直感で、体の一部みたいに動いた。


 そして思ったのだ。「俺には、魔法がある」と。


 兄は、魔法の才能がなかった。けれど言葉で、行動で、妹や家族や、時には自分まで守ってくれた。

 その背中はいつだって、誰かの前に立っていた。


 「守る人」――弟にとって、それは兄の姿そのものだった。

 だから、魔法が使える自分は、兄以上に「守れる」と思っていた。そう信じたかった。


 だが今、目の前にいる“存在”は――

 そのすべてを、何もかもを、「当たり前のように」凌駕してきた。


 (ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな……っ!!)


 怒りが、恥が、焦りが、渦を巻く。

 魔力が、それに呼応するように泡立ち、溢れ出していく。

 身体の内側が、熱い。重い。ぶつぶつと、小さく泡が弾けるような感覚が指先を走る。


「くそっ……お前のせいで……!」


 叫びと共に魔力が噴き出した。

 地面がひび割れ、空気が軋む。

 炎、水、土――三つの属性が、混ざり合い、ぶつかり、共鳴し、暴走する。


「――だめだ、制御できないっ……!」


 弟の足元から複合魔法が暴発する。

 赤く煮えたぎる蒸気が音もなく膨張し、熱波となって空気を焼く。

 稲妻のような閃光が迸り、草原の一帯が不気味に揺らぎ始める。


 その先は、町。家。妹。父と母。


 存在の瞳が静かに細められた。

 そして、今まで抑えていた力を、解き放つ。


 彼女の周囲の空気が、一瞬で変わった。

 緩やかだった風がぴたりと止まり、代わりに大気が彼女を中心に渦巻き始める。


「お願い、弟さんを守って。君なら、できる」


 短く、静かな言葉だった。

 男は一瞬目を見開き、それからうなずいた。


「ああ、やってやる」


 存在が前に出る。

 その指先から、魔力が解き放たれる。だがそれは、破壊でも攻撃でもない。


 風と水と光を混ぜたような霧が舞い、暴発する複合魔法のエネルギーを包み込んでいく。


 炎は、力を失い、土は砂と化し、水は粒子となって霧散した。

 全てが、塵となり――風に還った。


「……終わりよ」


 存在の足元で、地面が静かに元の色に戻る。

 しかし、吹き荒れる塵と熱はまだ周囲に残っていた。


 そのとき、男が弟の前に立った。

 彼の手が、無意識に動いた。心の底から、守りたいと願ったその瞬間――


 風が生まれた。


 それは柔らかく、しかし確かに力強い風だった。

 塵を押し流し、灼熱を和らげ、弟と自分を包み込む。


「……兄貴……」


 弟は、その背を見つめた。

 才能もない兄貴が、自分の前にいる。自身を優先すべき、守られるべき人である兄貴が。

 それでも、一番最初に、自分を守った。


 心の奥が、じわ、と熱を帯びる。


 (なんだよ、それ……ズルいだろ……)

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