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不老不死にはわからない  作者: ある
第二章 誰かになる、そのまえに 「魔法訓練」

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存在の魔力

 町外れの草原は、昼下がりの陽射しにゆるやかに揺れていた。

 背の低い草が風に撫でられ、そこに二つの影が向き合う。


 弟は腕を組み、顔をしかめながら存在を睨みつけていた。

 その足元には、すでに火の魔法陣が刻まれている。


「いいか、手加減とかしなくていいからな。俺、全力で行くから」


「ええ、じゃあ……始めましょうか」


「二人とも、はしゃぎすぎないでね」


 男は下がる。

 存在の返事が落ち着きすぎていて、弟はむっとした様子で構えを取る。

 そして、片手を前に突き出すと同時に、火球が弾けるように放たれた。


 その軌道は鋭く、途中で裂けるように三つに分裂する。狙いも速度も、少年とは思えぬほど正確だった。


 だが――


 存在は微動だにせず、手のひらを軽くかざしただけだった。

 次の瞬間、火球は風に融けるように霧散し、何もなかったかのように消える。


「……っ、いま、相殺したのか?」


「正確には、“流した”の。火って、圧が掛かっている間しか燃え続けられないのよ。あなたの火球、外側ばかり強くて、内側が少し脆かったわ」


 弟は歯ぎしりしながら、次の構えに入る。今度は、地面から突き上げるように石の槍が飛び出す。

 存在は足元の動きを読んで、ひらりと横へ避けた。石が砕け、塵が舞い上がる。


「土は反応が鈍いから、焦って詰めると隙ができるわよ」


「うるさいっ……!」


 今度は水。手のひらに霧を凝縮し、氷の槍に変える。

 弟の動きは鋭い。連続で繰り出される水魔法の刃が、次々と存在に向かう。


 だが存在は、ただ静かにそれを避け続けた。まるで踊るような足運びで、一本も当たらせない。


「水は、感情の中でも“揺れ”が強く出るの。だからあなたが迷ってると、形も揺れるわね。見て、少しずつブレてきてる」


「黙れよ……っ!」


 弟の呼吸が荒くなる。動きに焦りが混じり、次の魔法が暴発気味になる。

 それを見計らったように、存在が動いた。


 足先に魔力を集め拡散、一瞬で距離を詰め、弟の背後に立つ。


「……っ!? いつの間に……」


 弟が振り返った時には、存在の手がそっと彼の両手の上に添えられていた。


「焦って力を出すと、魔力が拡がってコントロールを失うわ。あなたの火は、まだ“荒い”」


「な……っ!」


「勝負あり、かな」


 弟の瞳が見開かれ、頬がかすかに紅潮する。

 恥かしさ、悔しさ、驚き、怒り……それらすべてが一気に押し寄せる。


「……ふざけんなよ……! なんでそんな簡単に……! 俺は、ずっと練習して……兄貴にも負けたくなくて……!」


 声が震える。魔力も、揺れている。

 その時、弟の中に沈んでいたものが、ゆっくりと泡のように浮かび上がり始めていた――

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