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砂川見聞録  作者: ぢだぱぢぴぢぱぢ
7話「砂川、流す」
187/336

[7-3]村田和佳

 「紫上会の人間から金でも揺すり取ってみせろ」砂川さん、揺すられます。まだ3節だけどいきなり飛ばします7話でございます。


【和佳】「……………………」


 門の前で直立。誰かを待っている感じだ。


 ……何か、この光景ちょっとデジャブ。確か会計にも彼処で待ち伏せされた記憶があるけど、今私が抱いてる印象は、どちらかというと赤羽大牙に近い。


 つまり、めちゃ嫌な絡まれ方をするんじゃないか、と。


【和佳】「……!」

【ババ様】「確実に鞠を見たの。今も見てるの」

【鞠】「確定か……」


 あれは確か、奴の妹だった筈。


 多分、あれをまた主張してくるんだと思うけど……どう足掻いても夏休み終わるまでは学園には行けないし、新聞部も無くなってるんだから夏休み中に学園へ行く意義も無い筈。


 一体私に何を云うつもりなのか……覚悟《あきらめ》を据えて、真っ直ぐ行く。


【和佳】「…………」

【鞠】「……私に用がある、ということでいいんですよね。えっと――」

【和佳】「和佳です、村田和佳……」

【鞠】「紫上会会長の砂川です。それで……用件は」


 大体予想はついてるんだけどね、一応そちらから云ってもらおう。怖い顔をしている。


【和佳】「…………お金を――」


 …………ん?


【和佳】「お金を、ください」


 ……んん? んんん?


【鞠】「あれ……私の思ってたのと全然違う……」

【ババ様】「おお、噂のぎんこーごーとー、ってやつじゃな! 初めて見たぞ!」

【鞠】「違います、銀行じゃないですし此処」

【和佳】「え……?」


 っと、いけないまた人前でやってしまった……だって距離的に誰よりも響くんだもんババ様の声。


 しかし、銀行ではないにしても、これってつまりは強盗あるいは恐喝をされているようなものだ。こんな脆弱な迫力の悪者も滅多に居ないだろうけど。


 勿論、怖くないし、屈するつもりもない。ただ……


【和佳】「ッ…………」


 ちょっと、この子の顔が、気になった。


【ババ様】「……怖がってるようじゃ。鞠、何かしたんじゃないかのー」

【鞠】「…………」


 思い当たる節がないわけではない。だけど、それと今の発言との関係性が今イチ見えてこない。


 何にせよ、今この大通りでしていい会話じゃない。下手すると紫上会の信用にダイレクトアタックな話題なので、周知されるような事態だけは避けなくてはならない。


【鞠】「……附いて来てください」

【和佳】「え? あ、はい……」


 学園に入る。




――[Stage]空き教室




 紫上会室……はダメだから、何処か空いてる教室を使うことになった。丁度出勤してた堊隹塚先生から鍵をもらい、A等部校舎の2階の多目的室を丸々占領。此処は授業で複数クラス一斉に書道やるときに使った覚えがある。つまり結構広い。


 ……C等部はどんな授業をしているのか、学級の雰囲気どうなのか、とかあんまり把握してないんだよね。紫上会の支配範囲は紫上学園、すなわちC等部も当然のことながら含まれている。それを考えれば私はそれらを把握しておいて損無いわけなのだけれど、ABとは違ってCは専門教諭がカリキュラムやら行事やらしっかり組み立てていて、それに目を通して実質自動承認みたいな流れがあるので、C等部と紫上会の直接的な繋がりは実は薄い。


 ……この子は多分、此処のC等部に属しているのだろう。


【和佳】「…………」


 こんな暗い顔をさせているのは、此処のカリキュラムだろうか。彼女のクラスだろうか。


 ……いや、それよりもあの場所だろう。


【鞠】「先ほどの要求の、詳細な説明を求めます」

【和佳】「ぁ……は……はい……」

【ババ様】「めっさ怯えられとるの。優しく優しく」


 眼球からアドバイスが飛んできた。


【鞠】「……怯えなくていいです。今のところ、貴方に危害を加えるつもりは更々ありません。何か事情があるのでしょう。私は、あの家が関係していると予想してますけど」

【和佳】「ッ――」


 大きく反応を見せた。ビンゴかな。


 取りあえず話を聞こう。


【和佳】「……それは……」

【鞠】「…………」

【和佳】「……ッ……」

【鞠】「…………」

【ババ様】「話聞けそうにないぞ鞠よ」


 うん、そうだね。ノープランだったのか、それとも云えないのか。


 とっくに冷静さを失っている。まあそれを云うなら校門で待ち伏せしてた時からだろうけど。そんな少女をガン見し続けるほど私のメンタルは強くない。


 溜息……は抑えておいて、アルスを自立し、アプリを開く。それから……


【鞠】「久々に着けるなぁ……」


 できれば二度と使いたくはなかったんだけどね。先輩の予感は悉く的中するんだから、早速全部、使ってしまった。


 イヤホンを装着する。


【鞠】「……云えるようになったら、云ってください。片手間失礼しますが、私はちょっと作業してます」

【和佳】「ぁ……はい……」

【ババ様】「何やっとるんじゃ?」

【鞠】「音源を聞いてるんです」

【ババ様】「おお、都会では常識のいやほんあるきってやつじゃな! ほんと失礼じゃのー!」


 ところどころ変な知識習得してるババ様だった。


【鞠】「そういえば、ババ様は音をどう知覚してるんですか」

【ババ様】「二心同体じゃからな、鞠の身体が受けた刺激はワシにも共有される。ということでガッツリ男の声が聞こえるの。加えてババ様特有の霊素センサーが周囲に拡散してるから、鞠よりも色々気付けるものはあると思うのじゃ」


 霊素センサーって何。私の身体から一体何を拡散してるの。


 結果的に危機回避に特化した、と思ってていいのかな。まあそれは一旦置いといて……。


【ババ様】「……ん? これ……和佳の声かの? 和佳は黙りこけてるというのに、変じゃの」

【鞠】「録音ですから」

【ババ様】「ろくおん」


 ていうか独り言しまくってる私。どうでもよくなってないかな? もうちょっと自重した方が良いと自分でも思う。でもどうしても応答しちゃうんだよな、身体は嘘つけない的な何か。


【ババ様】「……男が、和佳に指示をしとるの」

【鞠】「――紫上会の人間から金でも揺すり取ってみせろ」

【和佳】「ッ……!!」


 なるほど。


 大枠で見れば、やっぱり予想通りだったというわけだ。まさかそんな変化球を撃ってくるとは思わなかったけど。


【鞠】「村田鑼雄(らおす)、現在無職、というかずっと無職な人ですね。母親と違って家に居ることが多い。そして……」

【ババ様】「――!!」


 音源が、次の場面に移っていた。


【鞠】「子どもに体罰を科すことを、躊躇わない教育係ってわけですか」

【和佳】「ど……どう、して……」

【鞠】「録音時間からして、1時間ほど前の音源。恐らく……貴方が私を狙うために登校した時間軸で、彼は貴方の姉を蹴っています」


 音は遠いが、父親の罵倒が聞こえる。


 女子の悲鳴……苦しむ音が、断続的に響く。


 先輩のお友達ならこの音源でテンション上がるんだろうけど、私はただただ不快にしかならない。たとえ、蹴られてるのがアイツだったとしても……、


【和佳】「そんな――どうして、だって和佳――」

【鞠】「貴方が私……紫上会の誰かからお金を貰う等して収入を得たら、姉への暴力を控える……そういうことでしょう?」

【和佳】「ッ…………」


 まあ彼女に問うまでもないのだけど。父親が実際にそう云ってたんだから。


【ババ様】「……都会では、子どもはそういう仕事をするのか」

【鞠】「いえ、これ犯罪です」

【和佳】「!!」

【ババ様】「犯罪。それは知ってるやつじゃ。では……何故父親は娘に犯罪するように云ったんじゃ? おかしいじゃろ」

【鞠】「そうです、おかしいんですよ。犯罪を指示する父親の意図が分からない。お金に困ってるんですか、貴方の家は」


 よし、またやらかした独り言を自然と会話に繋げた。


【和佳】「ッ……ッッ……!」

【鞠】「……はぁ……」


 話が進まなくてイライラしてくる。私、仕事したいんだよね。


 ということで強引な手に出る。鞄からあんまり使わないお財布を取り出し、ちょい懐かしい紙を机に置く。


【鞠】「取りあえずコレを渡します」

【和佳】「え……?」

【ババ様】「何じゃコレ?」

【鞠】「小切手と呼ばれるものです。簡単に云えば、銀行にこれ持って行ったら書かれてる金額分、現金と交換してもらえるんです」


 とあるコンクールで貰ったやつだ。


 持参人に渡せって書いてるだけなので、私が事故届を踏まない限りは村田家でも交換できることになる。


【和佳】「ひ、ひゃく、まん……」


 あのコンクールはちょっとお金かけすぎだなって思った記憶がある。


【鞠】「……これを、貴方に渡します。まあ、単純な寄付では絶対うちの人間に怒られるので、形式としては貸しです。必ず近いうちに、村田家から金額分を回収します」

【和佳】「な……何で……」


 多分、「何で貸してくれるの」って意味だろう。


【鞠】「代わりに――答えなさい。貴方の家は、そんなに貧しいんですか? あとそれから、どうして貴方は姉を早く復学させたいと願ったのかもついでに」


 これを拒否する立場に、この子はない。流石にそれくらいは分かってくれるだろう。


【和佳】「…………」


 軈て……俯いたまま、少女は口を開く。


【和佳】「お姉ちゃんが……死んじゃう……」


 小切手とか絶対紛失する派です。

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