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誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#20 ドント・ストップ・アス・なう
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ドント・ストップ・アス・なう②


「ダンデライオンさんです! おめでとうございます!」


 宣言がされ、くす玉が開き、カラフルな色紙がパラパラ落ち、あたしにかかる。それから遅れて喝采が。外の雨はとっくに過ぎ去ったのに、体育館には歓喜の雨が降りそそぎ――あたしの心を、喜びのしずくが濡らしたんだ。


「うおおぉっしゃあ! やったぞ、アイコ! おまえまだ居れるんだな。まだ俺とバンドやんだな。いくぞ、大会!」

 誰よりも早くコーキ君が叫んだ。壇上で一匹で吠える黒獅子に、あたし唖然。いてて、コーキ君の長い腕のせいで、あたしは半宙づり状態。引っ張りすぎだってば。


「コーキはしゃぎすぎだよ。痛いなぁ、ボクの手ちぎれる。治療費だしてよね」

「嬉しいんだろコーキちゃんは。ケンちゃんとまだ一緒にいれるからね」

 あ、リュウ君の今の言葉で「勝った」って実感がわいてきた。あたしたち、勝てたんだよね「フリージア」さんに。やったよ……やったんだ。


ビバ・ラ・ビダァ(美しき生命ぃ)!」


 コーキ君に遅ればせながら、あたしもテンション爆発! 我ながら意味不明なことを叫んで、二人と手を繋いだままステージを走りまわる。ひょおう! やったぜえ! ほぉおお!


「おいおい、痛いよケンちゃん。オレの残った指も全部もげるぞ」

「あ、ごめんっ。嬉しくって。でも、リュウ君も嬉しいでしょ。弦音さんが、こっち加入だし」

「うん、公約通りオレらがもらうよ。これで五人で大会に――ええ~、マジか……」


 あたしはリュウ君の目線の先を追う、そこにはいつもの冷徹な女王の仮面を脱ぎ捨てた、ひとりの女の子がいて、涙を駄々洩れさせてた。


「やだ……燈ちゃんと梓とスイちゃんといれないなら、バンドなんかしない。意味ないもん。私、ギターなんかやめる。もうヤダ、みんなキライ」

「弦ちゃん、いいよ。ワタシ十分シアワセだから……ありがとう、いままで」

 泣き止まない弦音さんを、燈さんが抱きしめる。その二人を梓ちゃんが外から包む。まるで姉妹な仲良し三人組。横幕から見てる、高橋先生(ソウ君の姉君)と松田先生も号泣してるし。

 なんなんだろか、このムード。あたしすっかり、落ち込みモード。勝ったっていうのに悲しくなってきた。あたしらが悪者ですか。


「なんか、フリージアさんに申し訳ないね」

「愛ちゃんもそう思った? ボクもなんか泣けてきた」

「なんだ、泣きやがってアイツ。おう、よく見るといい女だ――がっ!?」

 はい、コーキ君に本日三度目のキック。どこを蹴られたかは推して知るべし。

「リュウ君あのさ、あたしがこんなこと言うのもなんだけどおっ!?」

 あたしより少し背の高いリュウ君に向き直すと、目も口も真一文字のカエル男がいて、鼻からため息をついてる。ガラスの前に立たせたら、一瞬で曇りガラスが出来ることうけあいです。彼女達を見て、冷めてるのか、あきれているのか。非情な男だ。やっぱり演奏技術と人間性は比例するものじゃないんだな。


「なにやってんだよ、橘さん。バカバカしい」

「うるさいな。アナタみたいなチェリーガイにわからないでしょ。ワタシたちの気持ちなんて」

「いやいや、童貞は関係ないでしょが」

「黙っててよ、ドーテー成人さん」

「すげえパンチ効いてるな、()()()()って」

「しっしっ。素人ドーテー成分が飛沫感染するから、黙って。即刻ドーテー星帰れ」

「童貞成分は空気中に舞いませんし、女子には発症しませんから。オレへの罵詈がだんだん悪化してるんですけど、橘の燈さんよ。わたくしめは素人童貞どころか玄人童貞でもありますんで。完全無欠の全方位童貞ですんで。病気リスクゼロの超優良物件ですんで!」

「はあ? 不良物件の間違いでしょ。伊沢さんは前世でなにやっちゃたのかな? 女神様の下着でも盗んだんじゃないのかな。きぃんもっ!」

「けえっ! 万年二次元陶酔女がやかましいわい。燈ちゃんこそいいカゲン、そのアニメTシャツ捨てなさいよ。プリントされた男の髪が、黒からグレーになってるぞ。キタねっ!」

「あっ、ナイトハルト様の悪口だけは許さないからね、()()()()()でも! 最初にピアノの独奏って……あなたのリサイタルじゃないんだから、構成ミスもいいとこでしょ。だいたい、バンドでグランドピアノって! 電子ピアノとかシンセでいいじゃん! PAさんメチャクチャ大変そうだったし」

「おぅおぅ、言ってくれるね素人さんが。全然タッチが違うんだよぉ~ん。ぜってぇヤダぁ~。オレはキーボーディストじゃなくてピアニストなんですぅ」

「ワガママかぁ!? いいよ剣崎さん『ダンデライオン』なんかヤメちゃって、こっち来なよ」

「ケンちゃんに近寄るなっ、デカ女!」

「はん。カワイイ剣崎さんを取られまいと、カエルのナイト様は一人でワタシたちと戦うつもりだったわけ? ふん、かっこつけてんじゃないよ。超イカス。イカ臭い。イカっす~」

「アカリンこそ、ベースでウインドミル奏法なんぞかっこつけやがって、リズムガタガタだったでしょが。あんなもん、ただのパフォーマンスだからね。フリージアさ~ん、今回の戦犯はおたくのオタク部長で~す。間違いありませ~ん」


「コラァ、カエルゥ! つぶされたいか、あぁ?」

「やるかぁ、ゴキリンが……あ、いや、橘さん」


 リュウ君がしゅんとして、黙り込んだ。それ見て、燈さんも口閉じる。

 ずいぶん()()()()そうだね~、二人とも。どういうことかな?

「ねえ、アカリンどういうことですか。ひょっとして二人は恋人?」

 弦音さんがまばたきして、長いまつ毛からしずくを飛ばした。げっ、その発想はなかった。


「なわけないじゃん、バカだねトイトイは。コイツなんて、ただの友達、いや、クラスメートだし」

「そうそう。こんなバージンこじらせ女と恋人なんざ、死んでもごめんだ」

「なにおう」

「そっちこそ」

 阿吽の呼吸で会話のぶつけ合いをする二人を見て、あたし話が読めてきた。テラテラのスキンヘッドを光らせる電球頭のティーチャーに向き直すと、ダンディズム溢れる笑顔だ。うさんくせっ。

「まっちゅ――松田先生、今回のライブって、ヤラセだったんですかね」

「そうじゃないぞ剣崎、まぎれもなく真剣試合だ。今回のライブの話はな、ある日伊沢に相談されて決まったんだ。お前らには黙っておけって釘刺されてな」

「いやいや松本、オレはアカリンと対バンの話しかしてないですから」

「ええ~、たっちゃんってば、いまさら逃げないでよ。そっちだってノリノリだったじゃん。部長二人と顧問二人の四人で打ち合わせしてさ。ねえ、(スイ)ちゃん」

「弦音とケンカしたって、燈に相談されてさ~、さすがのアタシも焦ったぜ。で、これはもう『芽生えろ友情! 同好会脱出大作戦』しかねえ。って事になってな。おい、勘違いすんな。脚本は伊沢竜也(たっちゃん)橘燈(アカリン)だぞ、な?」


「……うぇい」

 言ってあたしたちに背を向け固まる二人。こっち見ろや。


「ねえ、アカリンちょっとこっちに立って。伊沢さんも」

 弦音さんがカエル男とゴキブリ頭女をステージの崖っぷち(リビング・)ギリギリに立たせた(オン・ジ・エッジ)。それから他のメンバーにアイコンタクト。よっしゃ以心伝心です。コーキ君とソウ君と梓ちゃんもうなずく。


「まあね、もともと文化祭の一興だし。ホントに賭けるわけないじゃん、ワタシの愛しいトイちゃんを、こんなイカカエル野郎になんてさ」

「あっ、アカリンのウソつき。負けたら最初から、約束を反故するつもりだったんだな。こっちはケンちゃん取られまいと必死だったのに。きたね、さすがゴキブリ女」

「怒らないでよ、たっちゃん。かわりに弦ちゃんのおっぱいを、今度ね?」

「……考えときます。へっ、勝利の女神は最初から二人いらないんだよ。ケンちゃん一人でオレらは十分だ。だってキミこそオレたちの()()()()なんだから」

 いまさらへりくだって早口でゴマするな。あたしは聞く耳もちません。よし、目下にパイプ椅子確認終了。オーディエンスの方たちはいませぬ。アイムレディです、キラークイーン様(早乙女弦音)


「ふざけんなぁっ!」


 弦音さんの掛け声とともにあたしと他四人で、部長二人を蹴とばした。どこまでも飛んでいきそうな二人は、まさしくカエルとゴキブリそのものでしたとも、ええ。


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