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誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#15 篝火にくべて
33/51

篝火にくべて③

 夜になって、今日の活動は終了……疲れた。いろいろあったな今日は、ため息をつきベッドに横たわり目をつぶる。でも不思議と充実感で――満たされている感じ。まるで、子供のころ休日の前夜のような、明日が待ち遠しい気持ち。

「なにニヤニヤしてんの? キモいよトイちゃん」

「うわっ、出たっ!」

 ベッドの傍らで燈先輩が私の髪の毛を三つ編みにしながら、奇異の目で見つめていた。ノックぐらいしてくださいよ。遅れて梓も入ってくる。

「何しに来たんですか」

「ガールズトークだよ。はい、ネタちょーだい」

 女の子ネタなんて、なにも無いです。私たちにとって一番縁遠い話題ですけど?

「トイトイ、誤解なきよう。先生から預かったパソコンで、高橋先生の学生時代のライブDVDを見よう。ということになりまして」

 梓がノートパソコンを机の上に置き、起動する。私まだなんも返事してないんですけど~? マイペースなアズアズちゃん。ちゃっかりイスもセットしてるし。


 パソコンのことなんか、てんでわからないのでボケっとしながら後ろで見る。おそらく最初の操作画面なんでしょうけど、ごちゃごちゃしたマークが所せましと並べられたものが表示された。パソコンってこんなに複雑なのかしら。

「汚いデスクトップだね~。持ち主のズボラさ出てる」

「いくらなんでも、これは酷いですね。まったくファイルが整理整頓されていない……」

 二人がその持ち主を小バカにしている。なるほど、高橋先生のガサツな性格が反映されてのこの画面か、納得。よく見てみると学校関連のものが大半か。先生って意外と仕事してたんですね(今までバカにして失礼しました)。

 でもその並びの中には『ゲーム攻略』と書かれたタイトルもちらほら。先生……結婚はしばらくムリですね。

 さらに目を凝らすと、そこに気になる名称のものが。

「この『夏休み合宿計画』って言うのは、私たちの?」

「今回の合宿についての、予定でしょうか」

 梓がパソコンにつなげた子機を操作して矢印を動かし、そのファイルとやらに乗せる。

「見ちゃダメだよ、二人とも。そうゆうのは無粋っていうの。センセーはワタシたちを信頼してパソコン貸してくれたんだかんね」

 燈先輩が梓を制して、矢印が離れていく。ああん、中見たかった。無粋だったとしても。

 でも、私たちを律した先輩も部長らしくてステキに思えた……ほんの少しだけ。

 それからパソコン画面に目をやると、端っこまで飛んだ矢印の下に『三年生テスト』と名前がつけられたファイルが。「あっ」と、つぶやいて固まるアカリン。


「私たちを『信頼』してるんですよね、先生は」

「え、なんのこと?」

 さっきの発言はなかったことにして子機をカチカチ押す、ダメ先輩。この人をカッコいいなと思った、さっきの自分の間抜けさを呪う。

 それから中身が現れ「アカリンはバカ」という文字で画面が覆いつくされる。下に移動させても、無限に続いているもよう。

 わざわざこれの為に作ったんですか高橋先生。とんだ甘い罠(チープ・トリック)だ。

「やられた~。センセーのバカぁ!」

 燈先輩が地団駄踏んだ。うるさい、どっちもバカです。

 梓はうつむいてお腹押さえ、ブロンドの髪を細かく揺らしている。ツーバスでも踏んでるのかしら?

「とりあえず見ましょう。そのDVDとやらを」

 脱線爆走している現状を立て直そうと、私が提案する。気を取り直した燈先輩がパソコン横のボタンを押して、トレイが出てきた。ん? なにか先客がいる。

「ま、破廉恥です」

「うお、エロい」

 なるほど、ディスクの柄でその内容がすでに把握できる。どう考えてもいかがわしいDVDであろうコレ。高橋先生……あなたは、なに鑑賞してたんですか。まったく。


 ちなみに題名は『乱れ女教師3 ~シャイなボクと課外授業~』……先生、欲求不満?


「見ちゃお」燈先輩がディスクをそのままにパソコンに戻し再生が始まるようだ。えっ、女三人で見るんですか。恥ずかしいし、不潔です。梓も嫌だよね?

「は……はじめて、見るぅ。わたくしドキドキしますぅ」

 アズアズってば興味津々だし。大人の階段上っちゃう気満々なお嬢様に、私は落胆。次いで再生開始前から緊張していそうな梓の手を、燈先輩がそっと包む。なんなのっ、この状況はっ。

「大丈夫だよアズアズ。きつくなったら再生止めるし。こういうのは最初にシチュエーション説明があって始まるものだから。『行為』はクライマックスに取っておくのがセオリーだから」

「……詳しいのはどうしてですか? アカリン先生」

「ワタシの弟、リビングのプレーヤーにこの手のヤツしょっちゅう忘れてくんだよね~。で、ワタシが録画したアニメ見ようとした時、いつも気づくんだ。黙ってスルーしてもいいんだけど……ムカつくからアイツが取りに来るまで大音量でたれ流すのがマイブーム」


 こんなのが姉なんて、かわいそうな弟さん。よかった、私一人っ子で、と思っていたら、突如男と女の官能的な叫びがパソコンから聞こえて、部屋中に反響。

 ねえ、さっきの話はなんだったの? アカリン先生。

「あ、途中再生か。ワタシ失念しておりました。うひゃ、これ激しいね~、センセーのエッチ~」

 反省も感想もどうでもから止めて~。たぶん最高潮のシーンですここが~。やだぁ、男の人の『ナニ』かが、画面いっぱいに映し出されてるぅ。モザイクかかってるけどぉ。

 燈先輩がパソコンに手を伸ばすと、梓がそれを制した。ちょっとなにしてんのぉ、アズアズってばぁ。私の全身から汗が噴き出てるのぉ、せっかくお風呂はいったのにぃ。

「見る。わたくし、最後まで――見る」

 アズアズがそう言いきって、燈先輩が無言で破顔し、サムズアップ! いやぁ、誰か止めてぇ、と声に出さずに懇願していたら、廊下側からドスドス音。


「おまえら、なに見てんだぁ! 色ボケガキどもぉ」

 先生が部屋に入ってきて、手に持っていた竹刀で私たちの頭を打ちぬく。私は被害者なんですけど、今回の件に関しましては。

「痛ったぁいなぁっ! 元々はコレをセンセーが見てたのが悪いんでしょ~」

 まだ再生を続けているパソコンを指さし文句を言うアカリン。まあ、一理ある……かな?

「うるせえっ、ガキどもにはまだ早いんだよっ!」

「自分が一番、おこちゃま体形のくせしてぇ! エロティチャー!」

 余計な口を叩いて、さらに追加の攻撃を食らうアカリン。そのうめき声と一緒に、パソコンから出るつやっぽい声がシンクロする。なにちゃっかり共演してるのよ。

「これは、先生が購入されたものなんでしょうか?」

 梓が先生に質問する。それ、いま必要な情報? とりあえず再生やめようよ。

「…………ちがうもん」

「じゃあなぜ、ここにこれがあるのですか?」

「瀬名から押収したヤツなの! 身だしなみチェックの時にアイツがカバンに忍ばしてたから、しかたなく」

「再生も『しかたなく』なのでしょうか?」

「アズアズがいじめるのぉ」わめきながら部屋から飛び出る先生。正論並べるんじゃなくて、オブラートに包んで逃げ場を残してあげなさいアズアズ。それが大人よ。

「瀬名さんはこんなの見ないし」梓がつぶやく。いやぁ、ぜったいご覧になられると思います、あの男とその仲間たちは。と、私は口に出しかけるが、ギリギリせき止める。


 パソコン画面に視線を移すと、満足げな男と女がベッドで横たわっている場面で、すぐにスッタフロールに切り替わった。ぐだぐだやってたら、クライマックスからエンディングまで通し再生しちゃったじゃない……。

 味の無くなったガムを吐き捨てるように、自動的にトレイが排出された。

 触りたくはないけどディスクを取り外し、投げ捨て、いまだに頭を抱えて床でのたうっている燈先輩の服で指を拭き、本命のDVDをセット。

「アズアズ、お口直しに再生して」



 バルコニーで夜風に当たりながらジュースを飲み、火照った体を冷ます私たち「フリージア」いや、圧巻のライブ映像でした。高橋先生とその仲間たち、カッコよかったです。学生時代のものだから画質と音質はいまいちだったけれども。

「カッコよかったね~、スイちゃん先生」

「はい、瀬名さんよりも」

 あら珍しい、何かにつけて瀬名さん、瀬名さん、うるさいこの子が。

「また瀬(・)名(・)さ(・)ん(・)か。アズアズ~、彼に好きって言っちゃいなよ」

「いえ……好き、とかじゃないんです。瀬名さんって有名な方のご子息でして」

 え、あれが? あの超バカ、下品バカ、金髪バカ男が? だが梓の話を聞いているとかなり複雑な育ちらしい。妾の子どもで、父親の自殺未遂か……アイツ、大変だったのかな。

「そんな境遇でも立派にしているその姿に、わたくし憧れまして……だから親の反対を押し切って、この高校に入って、お近づきにと」

 なるほどね。梓みたいな家の子が、こんな中の下ぐらいの高校に来たのが疑問だったけど、そういうこと。でも、そこまでして近づきたいって〝好き〟ってことじゃないかな。

「で、アズアズは重音部に入ろうと?」

「はい。でも新歓の、あの『ハートポーズ』が正直、申し上げると……ちょっとイヤでした。重音部入ったら……やらされそうですし。あれは瀬名さんでもカッコ悪かったです」

 ああ~、激ダサ振り付けの、あれね。アズアズに超共感。あなた絶対やらされる、間違いなし。


「それに、たった二人で演奏する燈先輩と弦音先輩の姿も凛々しくて、この人たちみたいに、強い女性になりたいって……思ったの。二人ともお綺麗でした」

「だってさ、弦ちゃん。照れちゃうね~」

「あの時、アカリンのベース外れてましたけど」

「トイトイの独りよがりギターに引っ張られたんです~」

 梓の目じりが下がり、口が大きく開かれ、暗い森に底抜けな笑い声が響く。

「変な先輩たちですね、本当に。この部に入ってよかったです。思い出になりました」

「「えっ、どういう意味?」」私と燈先輩の質問がハモる。

「わたくし高校やめるかもしれないんです。父が知り合いの方と籍を入れろって。そうすれば、会社の利益につながるとか……わたくしなんか道具としか思われてないんです」

「うーわ、サイアク。親だったら子供の将来ぐらい選ばせろって。ね、トイトイ」

 何も言えなくなる。だって親の言いなりなのは私も同じだから。

「この前、その方と二人でお食事して。四十歳くらいの人なんですけど……『結婚するまではバージンを守れ』っておっしゃって。わたくしの頭を触ってきました」

 その光景が脳裏をよぎるのか、耳元を掻きむしる梓。私も気色の悪い大人たちに嫌悪感が湧いてくる。

 林田家にはペンションを借りている義理があるけれど、それとこれとは話が別。あのバーベキューセットも、娘の美しい高校生生活最後の記念にってことか。ムカついたので、肉は全部食い尽くしてやる! どっちみち全部食い尽くす予定だったけど!


「登場人物全員クソだね。クソキャラのフルコースです!」


 燈先輩の伸びやかな声と裏腹に、どぎつい言葉にびっくり。あなた「クソ」はないでしょ。

 汚い言葉づかいを正すべく、私は口をはさむ「アカリン確かに――」

「でも一(・)番(・)ク(・)ソ(・)なのはアズアズだかんね」

「はい」返事をする梓。え、あなた認めるの、それ。

「自分の人生は全部、自分が選択したの。誰かに言われたことだとしても、最後にそれでいいと決定したのは己自身なんだから」

 おお、燈先輩が説法を解かれている。ありがたや~。私、惚れちゃいますよ?

「そうですね。わたくし含めて全部ク(・)ソ(・)です!」

 げ、梓が感化されてる。改めるのは思考だけでいいのに。この子がいいなら、それでいいけど。

「って、先週アニメでイケメンが言ってた。惚れちゃうよね~」

 おげえっ、忘れたころにアニメ来たコレ。オタク(橘・燈)襲来! 総員退避!


「アカリンは、ほんとにマニアさんなんですね」

「だってワタシの原点だから。バンド始めたのも子供の時見たアニメの影響だし」

 あれまあ~、そうだったんですか~。なるほど~。いいはなしですね~。

 アニメ先輩(アカリン)は聞いてもいないのに語りだす。それは女子軽音部の日常を描いた作品で、放送当時大ヒットしたらしい。知らないけど。どうでもいいけど。

「ちなみにワタシの名前の『燈』もアニメからとったらしいよ。お父さんが好きなヤツから」


 親子二代でアニメの呪縛がっ! 罪深し、アカリンパパ。


「わたくしステキだと思います。『燈』なんて、明るい先輩にピッタリです」

「でへへ、ありがと。でも『梓』もいい名前だよね。弓とかに使われる、いい木って意味なんだっけ? アズアズ自身もそうなりますようにってことかな」

「そうなんですけど、違うんです。……わたくしの本名は林田・アルテミス・梓なんです」

 なにそれどういうセンス? 梓の親の顔が見てみたい。あ、ろくな親じゃないのか。

「ああ、アルテミスが森と弓と月の女神だからってことか。ま、カワイイからオッケー」

 アカリンのみこみ早い、さすがアニメオタクさん。だから、高橋先生のゲームで使われてた梓の名前が『森・弓月(もり・ゆづき)』なんだ。

 ま、由来はともかく。いいな、二人ともかわいい名前で。私は自分の名前嫌いだから、なおさら羨ましい。

「それと『弦音』ちゃんもいい名前だよね。お父さんがギターやってたから、娘にもってことかな?」


 なんでわかるんですか、誰にも教えたことなかったのに。〝絶対〟知られたくなかったのに。人の心にづかづか入ってきて、無神経な燈先輩め。

 今までの私だったらスルーしていたこの話題。だけど、今は自分から飛び込む気になった。二人に私を知ってほしいと思ったから。そうすればもっともっと、この「フリージア」が一つになれると……そう願って。


 たどたどしい説明で、ちっぽけな私の、みじめな人生遍歴を明かしていく。ギターが嫌で嫌でたまらなくて、でも父には逆らえなくて、みかねた母が出ていって、家から逃れるために音大入試を画策して、そのための実績作りとして有名な「桜ヶ丘高校・女子軽音楽部」に入って。

 しゃべりながら自己嫌悪に陥る。私はいつも自分のことばっかり。二人はこんな私をいつも気遣ってくれているのに……高橋先生もか。訂正しよう〝三人〟は、だ。


「「マジ、クソ」」


 私が語り終わると同時に、二人が吐き捨てる。

「いいよ、トイちゃん。そんなオヤジほっとけば」

「トイトイも大変だったんですね。わたくしも頑張りますから、ぜひ反抗しましょう」

 なんだかわからないけど、私、肯定される。

「でも、トイちゃんがプロのオーディション受からないなんて、ワタシ信じらんない。だってビジュアルだけでもいけそうだし。ギター弾ければなおさらでしょ。そもそもエロいプロデューサーに色目使えば一発合格間違いなしじゃない?」

「……だから私、嫌なんです。品定めするような男の人の目線が耐えられなくて。オーディション受けたふりしてサボってました」

 たぶん練習中、父に体中を触られたのがトラウマなのかな。ギターへの憎悪といっしょに『男』への拒否反応が育っていった。私の暗黒中学生時代。

「そっか……ならライブも嫌だったんだ。みんな弦音ちゃんに注目するもんね。あれがカックイかったのにな~。……じゃ、ギターやめちゃえ。ありゃりゃ、梓ちゃんもいなくなってワタシの最後の部活終了か~。いままで楽しかったな。アニメ以上に青春してた、最高に」

 言いながら燈先輩が苦渋顔して、肩を落とす。そんなの全然、貴女らしくないよ。


 いつもみたいに――笑っていてください。私の大事なセンパイ。


「私、ギターやめません! だって、部活大好きだから。二人といつまでも一緒にいたい。この先だって……ずっと、ずっと、みんなとバンドやる」

「わたくしだってやめません! 絶対に学校に残ります。あんな変態オヤジとの婚約なんて自分の力で破談にします」

 私と梓がほぼ同時に叫んでから、燈先輩が黙って抱きついてきて、私と梓の頭を抱え込む。あ、お母さんに抱きしめられたころの記憶が呼び覚まされる。

 懐かしくて、優しい。今は暑いけど、それが心地いい。

 抱きしめ返して燈先輩の腰に回した手が、ドラムダコの出来てる梓の堅い指に、触れた。


「じゃあ『ダンデライオン』には負けないかんね! 二人とも!」

 しばらくして体を離し、上気した顔の燈先輩が宣言する。……こうでなくちゃアカリンは。

「とうぜんです! 瀬名さんでも、愛ちゃんが相手でも、誰でも、わたくしたちは勝ちます」

 いいね梓。理想は超えてこそ意味がある。やろう、私たちで。

「あんな、バラバラな奴らに負ける要素ないですよ。私たち『フリージア』が」

「そうそう、あんなドーテー部長率いるやつらなんかに負けないよね。あ、でもトイちゃん触ってたね、カエルさん。スコアごと指をバーンと叩いちゃってさ~」

「げ、そう言えば。私、肉親以外で触れた男、あの童貞カエルが初めて……」

「そんな、あちらのカエ――じゃなくて伊沢部長さん、可哀そうですよ。ど、どどっ、どてい、どうていとか、みんなして言うのは」

 アズアズ、無理に言わなくていいから。

「ウブだね、アズアズは。そんなんじゃトイちゃんの貞操がカエルさんに奪われちゃうよ」

 こらこらアカリンそんな話は一切ないでしょ、ねつ造しないの。負けたら、あくまで移籍するだけ。どうせ、私たちが勝つから関係ないけど。

「先ほどのDVDのような行為を、トイトイがカエルさんと……断固阻止です」

「うほっ。アズアズの発想エロくね?」

「アカリンうるさい。アイツとだけは〝絶対〟ない」

「でも、いい意味で男らしくないから彼は。トイトイの男嫌い脱却には都合いんじゃない?」

「やだ」

「またまた、まんざらでもないでしょ~? ほら、カエルさん、声とかいいじゃん」

 ありえない。やめろ、アカリン。あなたが相手してあげて。

「だったら『春斗』のがましだし」

「誰それ?」

 ふふん、あなたが意中のナイトハルト様の別名だとは知るまい。


「あらあら、お二人とも青春真っただ中ですね」

「ふん、アズアズが一番真っただ中でしょ。本当は『剣崎の愛ちゃん』より『瀬名さん』の方が欲しいんじゃない? トレード相手、今からでも変更する?(女じゃないけど)」

「な、なにをおっしゃりますやら、トイトイさんは。わたくしは、先ほど申し上げた通り――」

「じゃあ私、瀬名に告白する。付き合ってくださいってね」

「え、瀬名くんがいいの? トイちゃ……いや、ワタシも告る。『付き合ってくだしゃ~い』って!」

「ダメです! ダメ、絶対! わたくしが先に、光樹君へ想いを伝えるのっ!」

 あはは、アズアズその調子。そのままの勢いで変態オヤジも、自分のオヤジも乗り越えちゃいなさい。私、いつでも相談に乗るからね。


「お前ら~、いつまで青春してんだ~。虫入ってきてんぞ~。アタシだけ除け者にしやがって……おっし、明日のランニングは今日の倍な!」

 高橋先生がノンカロリービールを手に持ち、バルコニーに半身をのぞかせていた。セリフとは逆になんとも穏やかな表情をしている。気の抜けた返事をして、私たちは部屋へ戻る。

 きっとこんな風に、文化祭も、関東予選も、全国大会も、将来も、超えていくんだ。みんなで手を取り合って。明日へ――


 と、キレイにまとめたが一週間予定の合宿はわずか三日で打ち切られ、私たちは日常生活に戻る羽目になった。原因は私がドラムを破壊したため。

 でも、言い訳になってしまうけど、きっかけは梓の暴走のせいだ。

 二日目の夕飯後にしばらくしてから、梓の様子がおかしくなり、「さらばベルリンの日よ!」と叫んで、彼女はベルリンの壁片をガラスケースに叩きつけ、月の石も森の中にぶん投げた。

 高橋先生は「タコマッツ死すべし!」と絶叫しながら、西洋甲冑を竹刀でボコボコにし、それに触発されて、私もドラムを竹刀で叩いてまわり、バスドラムには直で蹴りも入れた……うっすらと、覚えてる。

 その結果、ドラムのヘッドは破れ、テンションボルトは四方に飛散し、スタンドは折れ、ドラムセットは垂れた花の集まりとなったのだった。

 極めつけにアカリンは、ちゃっかり回収したスマホでアニメ見てたし……あれ? アカリンが一番まとも!? そんなバカな。

 いや、アカリンめ、何か(サムシング・)飲み物のなか(イン・マイドリンク)に盛ったな、そうに決まってる。じゃなかったら、私たちの奇行の説明がつかないもの(証拠がないけど)。

 帰りの車内でニヤニヤしながらアニメ鑑賞してるアカリンを睨みつける。

「どしたトイトイ? 怖い顔しちゃって。本当に壊すしか能がないね~、コミュニケーション能力ない後輩を持つと、先輩は大変だよ~。大事なのは、対話だかんね」

 車には、ニコニコのアズアズ。しぶしぶのスイちゃん。ヘラヘラのアカリン。イライラの私。

 後方にはボロボロのドラムとベコベコ甲冑……それに竹刀。


 私がやることは一つ!!


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