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「ううん。友達が経営する喫茶店の新メニュー、頼まれちゃってね。秋限定のスイーツを依頼されたの」
「これなら人気出るって! さすが母さん、スゴイね」
「ありがと。紅茶も飲んでみて」
「うん!」
紅茶は少し赤い色が濃く、けれど飲んでみるとサッパリしていた。
「この風味は…リンゴとレモン?」
「当たり♪ スイーツの甘さが引き立つよう、ちょっと酸っぱめにしたの。リンゴは秋の代表的な果物だし、友達の実家がリンゴを作ってて、毎年大量に送ってくるらしいから、使ってみたの」
「アップルパイとかは?」
「それはもう友達の方で作ってあるから。結構美味しいのよ? 秋の新メニューとして出しているから、今度家族で食べに行きましょう」
「うん! 楽しみ」
笑顔で食べ続ける。
母の友達が経営している喫茶店は、家から歩いて二十分の所にある。
今度ミホと一緒に行ってみよう。
食べている間に、ふと母の視線に気付いた。
穏やかながらも、どこか曇っている笑顔。
「母さん、美味しいよ?」
「うっうん…。ありがと。…ねぇ、カナ」
「うん?」
「すぐに決めなくて、良いんだからね?」
「? 何を?」
「その…いろんなこと。将来のこととか」
「ああ…」
昨日、姉と話しているところを、どうやら聞かれていたらしい。
キッチンとリビングは扉一枚、向こうの距離だからな。
「菜摘と菜月は『もう自分にはそれしかない』って自ら暗示をかけているような感じで今の職に就いたようなもんだし。あたしはあの二人のように、カナがなる必要なんてないと思っているから」




