エピローグ
※本編最終話(8話)とエピローグを同日公開しています。
先に8話をお読みください。
「ひとりになりたいの」
巫女姫は言った。
召使たちはその意を受け、無言で部屋を後にする。
人影が完全に消えるのを待ってから、彼女は引き出しを開けた。
手に取る。
鏡の中には、純白の婚礼衣装を着た女がひとり。
髪は複雑な形に結い上げられ、一房、首元に垂れる。
それを首にまわし、留めた。
足音が近づいてくる。
人払いした部屋に、断りもなく入り込んでくる男の影。彼もまた、白い婚礼衣装だったが、足取りはあくまで軽い。
巫女姫と呼ばれる女は、振り返らずに口元を綻ばせた。
美しい花嫁を見た男は、一瞬目を見張る。
何かに気づくと、つかつかと歩み寄ってきた。無遠慮に伸びた素手が、彼女の首筋を這う。
「まだ持っていたんだな」
男の指の動きを受け、鏡の中で、首元の石がきらりと反射した。
磨かれていない、緑の混じった青。
絢爛豪華な巫女姫の婚礼衣装の中、不釣り合いなほどにみすぼらしい石。
真新しい白い紐に支えられている。
誰かにもらった誕生日プレゼント。太陽が最も高い日。
「うん」
ルーリはひとつ頷いた。
鏡の中のゼファウスは、苦笑を浮かべた。
「そうか」
石は弄ばれ、揺れる。
「誕生日おめでとう」
鎖骨に触れる熱と、体内の熱が呼応する。際限なく動きそうな彼の手に、軽く一撃を加えて、彼女は立ち上がった。
「そろそろ行くか」
花婿は、自らの指に白い手袋を滑らせる。
花嫁は、自らの指の白い手袋を整えた。
同時に、足を踏み出した。
鐘が鳴る。
笑顔の下で、指が絡まる。
瞳に映った青空は一瞬。
歓声が鳴り響いた。
白い手袋。
その下で、爪は食い込み、肉体は痛いほどにお互いを求め続けた。
白い鳥たちが羽ばたいて、光の中へと消えていった。
――完――
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
いつか番外編を書くかもしれません。
そのときはまた、お付き合いいただけたら嬉しいです。
本作は2026年6月21日(夏至)に合わせて公開しました。




