入学準備
「では、殿下、男性陣は此方へ。
マリア様、ソフィア様は彼方へ。」
奥にある立派なドアを指差すトルソー。
いかにもVIP専用って感じね。
殿下に公爵家、辺境伯家と続けば当然か。
お店の人可哀想。テーラーメジャーを持つ手が震えてる。
ホクホク顔のトルソーとの対比がっ。
この人って本当に大物だったんだ。
「ソフィア様、行きましょう?」
「マリア様、私に様など不要ですわ。
どうぞソフィーとお呼び下さい。」
美少女の様付けは慣れない。
「ソフィー、まぁっ!
愛称で呼んでよろしいのですか?」
「勿論ですわ。」
「嬉しいですわ!
私のことはマリアと。」
「ええ、マリア。」
花が咲くように笑うとは、この事だわ。
カメラさえあれば!
私、マリアがアイドルだったら、全力で貢ぐ自信がある。
いや待てよ。
別に今でも貢げるわね、むしろ財力もある!
手始めに髪留めでも贈ろうかしら。
トルソーなら喜んで紹介してくれるわ。
「―――ィ、ソフィー!」
「――はっ。ごめんなさい、マリア。
何かしら?」
「スカートの丈が選べるみたいなの。
ソフィーはどうする? お揃いがいいわ。」
お揃い、
なんて素敵な響きなの。
くるぶしのちょい上くらい?
それだと長すぎるかしら、
やっぱミドル?
「ぜひ、そうしましょう。
ミドル丈はいかが?」
「ミドルですか?」
「ええ、これぐらい。」
自分のドレスをふくらはぎの中間まで上げて見せる。
「あら、それだと脚が見えてしまうわ。」
「見えるとしても少しですし、裾捌きも要らないから
楽だと思うの。」
「それは良いわね!
でも、貴族の娘が良いのかしら……」
なるほど。
基本的に貴族の女性は素足を見せたがらない。
町娘は普通に膝丈やミドル丈も履いてるから、
それと被るのはマズイってことかしら。
うーん。
制服の生地って堅いから、ドレスみたいに裾蹴れないよね。
私としては楽な方が嬉しいけど。
「殿下達に聞いてみましょうか。
すみません、仮留めでこの丈にして下さる?」
「かしこまりました。仮縫いでなくてよろしいのですか?」
仮縫いだったら時間かかるし、お針子さん大変じゃない。
「構わないわ。ピンで留めちゃって。」
「うん、ありがとう。
それじゃあ殿下達を呼んで下さる?」
「はい。」
――――コンコン
「皆様をお連れしました。」
「入って。」
殿下、リオン、ジル、ユーリ、アルがぞろぞろと入ってくる。
あれ、アルも仕立ててもらったの?
「どうしたの、ソフィア。」
「お呼び立てして申し訳ありません。
この姿では、店内に出られなかったので……」
仮留めしてもらったスカートをちょんと摘んで見せた。
「似合っているが、少し短くないか?」
「そうなんです、殿下。
少し短めはいかがかと思って。
こちらの方が何倍も動きやすいのです。」
「ふむ。動きやすい方が良いとは思うが、
しかし、その……」
あら、みんな頬を赤くしちゃって初過ぎない?
ミドルよ、ふくらはぎの中間よ。
「私は良いかと思ったのですが、下品でしょうか?」
「そんな事は決してない!
だが少し心配だな。」
殿下の言葉にうんうんと頷く、ジルにアル。
君達は、私の父親か何かか?
「いいんじゃない?ソフィアは気にってるんでしょ!」
リオンは賛成派なのね。
もしくは何も考えてなさそう。
残念な子だから………
「しかし、リオン。
グランディア学園は共学だ。
それに先生方は伝統を重んじる。」
ジルは予想通り堅いわねー。
だったら、丈選べるなんて言わないでよ。
「仰る通りですわ、ジル様。
ただ、領民が通う学校では、膝下丈が主流と聞きます。
15歳になったら、共に通うかもしれません。
でも多くの者は、貴族に怯えながらの学園生活になるでしょう。
きっと、貴族貴族していない生徒が街を歩いていたら、
苦手意識が薄れて、入学希望者が増えるかもしれませんわ!」
いやー、何を言って居るんだろうね。私。
意味不明だわ。
でも、歩きにくい制服なんて絶対嫌!
何でこれで歩けてるのよ、この国の人は!
「……それはつまり、
殿下と同学年であるソフィア嬢が、
率先して、貴族と平民の溝を埋めようと考えているのか?
殿下の器量の良さを国民にアピール出来るようにと。」
ん?ジルさん?
どうしよう、意味不明なのは私だけじゃなかったわ。
「えっと、あの?」
「ソフィア嬢っ、もう既に君は、
この国の将来を憂いているのか。
素晴らしい、やはり君はリオンの言う通り、
お姫様みたいだ。」
え、何。
王子達は何に感動しているの。
「ソフィー、ごめんなさいっ。
私ったら、あなたがそこまで考えていたなんて
気付けなかったわ。
私もこの丈にするわ!一緒に着ましょう?」
えっ、マリア
何で泣いてるの?
カオス、カオスだわ。
「あ、アルっ。」
助けて!
「さすがお嬢様でございます。
お嬢様がいらっしゃれば、マクロレンス領は安泰ですね。」
アル、あなたって子は……
どんだけ私が好きなの、私も大好きよ、マイエンジェル!
「そういえば、ソフィア嬢。
君が継ぐのかい?」
「さあ、まだそういった話は何も。」
「そうか。では優秀な後継が居れば、
君は……例えば領地を出て、王都で暮らす可能性もあるという事だね?」
どうしたの、アレン王子。
まだ私10歳よ。貴方もだけど。
「現状、マクロレンス領にはお嬢様しかおりません。
その可能性は限りなく低いかと。」
急に寒気が。
どうしてかしら、天使が恐い。
てか、相手は王族よ?貴族どころじゃないわ。
アルがこのまま天寿をまっとう出来るか
不安になってきたわ。
「いや、アダム殿も奥方もまだ若い。
むしろ可能性は高いと思うが?」
王子、もうその辺で。
アルも無言で睨まないの!
不敬罪になるわよ!
どうすんのよ、これー!
「んまあっ!ス・テ・キ!
さすがマクロレンス辺境伯のご令嬢ねっ。
私、張り切っちゃうわ!
ささっ、ミドル丈で決まりですわね。
はい、皆さーん。
殿下達のお帰りよー!お見送りしてっ。」
トルソー!貴方は神か!
助かったわ、やるじゃない!
「そ、そうですわね!
採寸も終わりましたし、帰りましょう!
ねっ、ソフィー。」
パチンとウインクしてくるマリア。
げきかわっ!…じゃなかった、
「ええ、そうねマリア!
よく分からないけど、
とりあえず丈も解決した?事だし。
あまり暗くなると護衛の方も大変だわ。」
「そうだな。目的は済んだし帰るか。
――――ソフィア嬢。
マリア嬢と仲良くなったんだな。」
まさかマリア狙い?
ダメよ、マリアは私が愛でるんだから。
「?はい。」
「俺も呼んで良いか?」
「はい?」
「愛称で呼びたい。」
それは本人に聞いてもらわないと何とも。
「はあ……」
「ダメか、ソフィー。」
え、私⁉︎
わざわざ確認なんて要らないのに。
「ええ、構いませんわ。」
「そうか。では俺もアレンと呼んでくれ。」
はい、王子様のデレ顔頂きましたー!
顔面が輝いてるわー。
うん、でも普通に
「いや無理です。」
「ぷっ」
こら、アル。
笑っちゃダメでしょ。
「……何故だ。」
「殿下を呼び捨てなどあり得ません。」
「構わん。」
「無理に決まってるでしょ。バカ王子。」
あ、ヤバ。
―――――シーン……
「そうか、バカ王子か。
アレンと呼べば聞かなかった事にしてやろう。」
「申し訳ありません、アレン、、さま。」
あああぁ。
「ふん、まあ良いだろう。
学園が始まったら楽しみだなぁ?ソフィー。」
ちっとも楽しみじゃありません。
ゲーム始まる前に終わった気がします。
パパすまん。
―――――――
――――
「アル、ごめんね。
もしかしたら、怒られちゃうかも。」
宿の部屋で顔面蒼白のお嬢様が言う。
バカ王子発言を気にしているんだろうが、
心配要らないと思う。
あの場で咎められなかった時点で問題ない。
それにしても、殿下とリオン様は、
何故驚かなかったのだろう。
その場に居た、他の全員が驚いたのに。
むしろ殿下は愉快そうにしていた。
やっぱり、パーティーで何かあったんだ。
お姫様ってのも気になる。
あの日、殿下はお嬢様とだけ踊ったと噂で耳にした。
非公式とはいえ、王妃様主催のお茶会にも呼ばれている。
他の貴族に目を付けられないわけがない。
もう既にちらほらと噂が出てきているから心配だ。
アレン・ヴァン・グランディア殿下の婚約者は、
ソフィア・マクロレンスだ、と。
「大丈夫ですよ、お嬢様。
殿下は気にされていません。」
それに、ジル様の動きも気になる。
「ほ、本当?」
不安そうに瞳を潤ませるお嬢様は、
とても可愛らしい。
「ええ。
それに、万が一何かあっても、
僕だけはずっとお嬢様の側にいます。」
「アル、ありがとう。
約束よ?」
「はい、約束です。」




