許しを請うために、私は歌う。
「本日、女神エラ・スタンは寿命を迎え、ウィションに戻られました。次の女神は、ユイ・リーヴが継ぐことになります」
番人の無機質な声が、淡々と事実を告げる。
私は檻の中で、折りたたんだ膝を組んだ腕でこちらに引き寄せて、顔をうずめる。
ホロとエラ。
大好きな二人を失った。
二人を裏切った私が、そのことを悲しんでいいのだろうか。
多くの人を裏切った。
女神様も、そのお姉様も、ティアナも、クレハさんも、アイラさんも、エラも、ホロもいない。
トレイさんと、リターナとヌドクはいるけれど、でももう、どう接すればいいのかわからない。
私は首謀者だから、一生をここで過ごすことになってもいい。
だけど他の三人は巻き込まれたようなものだから放してやってほしい。
そう何度も訴えたが、皆、聞こえないふりをするばかりだった。
「リターナは」
静かな空間に、冷たい声が響く。
私は声がしたほうに視線をやる。
「戦闘のせいで記憶をすべて失ったことになっていますが、僕は違うと思います。一番信用していたあなたに刺されたことが、ショックだったんだと思いますよ、女神様」
「……」
ごめんなさいでは済まされないことだ。
あそこで刺せば、もう一度刺されることはないだろうと思った。
なんとか急所を外して刺せば。そのときに気を失ってくれれば。命まで取られることないだろう、と。
実際、命だけは助かった。
だけど、これでよかったんだろうか。
リターナはもう、自分と一緒の檻に入っている人が自分の肉親だとは思っていないし、自分がなぜここにいるのかも、ここがどこなのかも、そもそも自分が誰なのかもわかっていない。
これじゃ、死んだのと同じなんじゃないだろうか。
「……トレイさんはどうなんですか」
「俺? 俺は……そうだなあ……」
突然振られて驚いたようだが、考えるように黙る。
そして。
「ヌドクも、シスちゃんも、自分の立場とかそういうの関係なく吐き出していいんじゃないのかな」
「え?」
「は?」
「いや、苦しそうだったからさ。ヌドクは? なんかないの?」
「……」
沈黙。
このまま会話は終了するのかな。
そう思ったら、ヌドクが口を開く。
「リターナのことは、絶対に許せません。僕の一番守りたかった人をこんな風にされたんですから。でも、僕はあなたを恨むことができない。ただ、酷く悲しいです。姉のように慕っていた人に裏切られたんですから。……どうして、言ってくれなかったんですか?」
すがるような声色に、思わず何も言えなくなる。
「……」
「シスちゃんは?」
優しい声。
「私、は……」
どういえばいいのか。
思うままに言えばいいのか。
「私は……ここにきて、ホロに出会って、ああ、彼女こそ女神にふさわしいな、と思ったの。だから、なんとか彼女を女神にしようと思った。言わなかったのは……それが皆への裏切り行為だとわかっていたから」
「……あなたがどう思おうと、僕たちには、あなた以上の女神はいないんです」
「……」
そうか。
一度女神たちに見捨てられた彼らにとって、私は唯一の女神だったんだ。
「……歌ってください。あなたの歌が聞きたいです」
「それだけで、よろしいのなら」
いくらでも歌おう。
彼らに許しを請うために。
静かに息を吸い込んで、紫色の石の音に歌を編み込んでいく。
猫目をへにゃりとさせて笑うリターナ。
ほめると少し自慢げに笑うヌドク。
どこか困ったように笑うティアナ。
優しく微笑むトレイさん。
八重歯を覗かせて笑うホロ。
仕方ないな、と笑うエラ。
これまでであった人が、頭の中を巡っていく。
私は、なんのために歌姫になったんだろう。
私は、なにを守っていたんだろう。
私は……なにかを守ることができたんだろうか?
私の歌声が、闇に消えていく中で。
遠くで、幼い歌声がかすかに聞こえた気がした。




