十話 怪刀乱麻 1‐2
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死ぬのが怖かった。
愛されているとか愛されていないとか、そんなことはどうでもよかった。それよりも、私は忘れられて、死んでしまう方が怖かったのだ。
両親からの愛情は知っている。例えそれが歪んだものでなくとも、世間一般的に普通に子供に向けるべきものであっても、私が求めた愛情は、それじゃない。
もっと私を見て、もっと私を知る、そんな我儘な独占欲。
だから私は行動した。
みんなが私を見るために、みんなが私を知るために。
忘れられない思い出と、トラウマになるために。
「自殺だったんだよ」
首を傾げ、微笑みを携えた岬は、殺した犯人は被害者だと言い出した。
「彼は自殺した。自分で自分を殺したの」
「……自殺って、どうして?」
遺書もなく、動機もない。
事故なら解るが、ここで自殺という判断をするには、材料が少なすぎる。そんなことは岬も解っている。解った上で、自殺だと断言した。
「みゃーちゃんだって、本当は薄々感づいてたんでしょう?」
優しく笑う岬は、ゆっくりと近づいてくる。近寄ってくる。
彼の自殺。それを証明することはできるだろうか。でも、誰かを人殺しにするよりも、誰かに人殺しをしてもらうよりも、その選択は一番良いモノに思えた。
「ねぇ、みゃーちゃん」
甘い声が響く。魅惑の声色は、私を惑わす。間違った道へ、おいでおいでと。安心な経路に、こっちだこっちと。
「大丈夫だよ、みゃーちゃん。もっと私い頼っていいんだよ、みゃーちゃん。みゃーちゃんには私しかいないんだから、私だけなんだから、もっと私を見るべきなんだよみゃーちゃん」
「………」
「大丈夫、杭田がなんて言おうと、やってないのに証拠なんか持ってこれないんだから。みゃーちゃんは安心して……」
「岬は、さ」
首に巻かれた岬の手を握り、私は粘ついた感情を絡みつかせる、岬を見る。
そこにいるのは愛情の塊だった。歪んでいようがいなかろうが、それはれっきとした愛情で、私に向けられたもの。愛して愛して愛して愛して愛して愛してくれた証。正直に言えば、その狂おしいまでの感情は、恐怖だった。私はただの人間だ。特殊な力も想いもなく、ただただ世間一般の女学生。クールだとか私らしいとか、そんなものは世間体を気にした私の姿の一端でしかない。岬がいったいどんな私を求めているのかわからないけれど、聞かなければならないことが一つある。
私は岬の腕を引きはがし、再度問う。まっすぐ、岬の瞳を見つめて。
「どうして、自殺だと思うの」
もう一度、尋ねる。一度も話に上らなかった話題だ。誰もが事故に殺人と言ったのに、岬はあえて自殺を選んだ。その根拠が知りたかった。
岬は耳まで裂ける笑みを零し、溢れさし、私と会話ができるのが嬉しくてたまらないとでも言うように、言った。
「だって」
それはやはり、狂っていた。
笑顔なのに笑顔じゃなく、笑みなのに笑みじゃない。
狂気を孕んだ狂喜。
「そうなるように、あたしが仕向けたんだもん」
 




