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八話 合縁奇援 1-3


      φ      φ


 ひとしきり泣いて落ち着いた。いざ冷静になってみると、恥ずかしさで死にたい気分だった。よりにもよって来栖の前で号泣してしまったのだ。感極まっていたとはいえ、来栖なんかに諭されたのだ。まぁ一生懸命に、不器用に慰めようとしてくれたのは嬉しかったけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。私はソファーの上で体育座りして、膝の間に顔を埋めていた。

「おい、パンツ見えてるぞ」

「……えっち」

「お前らガキと一緒にするな。小娘のパンツで興奮するほど……枯れたのか、俺は」

「知らないわよ」

「いや、俺はまだ若い。おい、もうちょっとパンツを見せろ」

「……バカじゃないの?」

 見え透いた優しさや気遣いじゃない分、こちらも気が楽だった。私は膝に顎を乗っけて、一応スカートと脚で隠して、来栖を見る。来栖は煙草を咥えて頬杖をついていた。

「それで、お前はあの似非探偵に何を言われたんだ」

「ねぇ、前も言ってたけど、あの人なんなの?」

 油断ならない、信用ならない人物ということは今日のことで理解できた。どうも二人は以前からの知り合いのようだけど、会話を聞いた限り、良好な関係ではないことくらい解る。何か因縁でもあるのだろうか。

「あんた、あいつとなんかあったの?」

「大したことはない」

 来栖は煙を吐き、どこか遠くを見る、昔を思い出す目をした。哀愁の漂う眼差しに一瞬どきりとしたが、まだ心が不安定なのだろう。来栖なんかにドキドキしてしまった自分が悔しい。

 来栖は深く煙草を吸いこみ、そして吐き出しながら、感慨深げに言った。

「あいつがロリコンで、俺は年上が好みという話だ」

「……え、意味が解らないんだけど」

 そんな懐かしむような瞳で語っていい内容には思えなかった。なんで急に来栖達の女性の好みを教えられなければならないんだ。

 私の混乱を余所に、来栖はさらに過去の話を進める。過去編突入な感じだ。

「あの小僧は今二十二、三歳くらいだったか。俺と奴が出会ったのは三年前の冬だ。当時、あいつは胸が不要なものだとガキ臭いことを言っていた。何も解っていないガキだったが、どうやら何も成長していないらしいな。昔、俺が胸の大きい女のいる店に連れて行ってやったことがあるんだが」

「ねぇ、その話、長い? トイレ行ってきていい?」

 お前が聞いてきたんだろうが、と文句を垂れるが、私が期待したのはそんな男の子によくある下らない下ネタじゃなくて、もっとこう、ロマンとか悲劇とかそういった類の昔話だったのだ。大体、胸の大きい店ってなんだ。未成年を連れて行っちゃいけないような店じゃないか。

 不潔な物を見る眼を向けていると、来栖は心外だと言いたげに首を振る。

「勘違いするなよ小娘。俺は健全な店に連れて行った。知らないか、最近テレビでも出ていたが、チアリーダーみたいな制服を着た店で」

「お願いやめて。これ以上あんたの評価を下げさせないで」

 結局下心、スケベ心じゃないか。

 男なんてみんなバカでスケベな奴ばっかりだ。胸がなんだというのだ。ブラジャーは高いんだぞ。男は下だけ用意すればいいかもしれないけれど、女の子は大変なのだ。胸に夢や希望なんか詰っちゃいない。だって、そうしたら私には夢も希望もなくなってしまう。泣きたい。

 また涙が出てきそうになり、一度泣いてしまうと涙腺が緩んでしまう、私はごしごしと袖で拭くと、改めて杭田から言われたことを来栖に話した。

 一つ、思い出した。そういえば、来栖は杭田と似たことを言っていたことに。

「ねぇ、あの探偵に、私が犯人だって言われたんだけど、あんたも似たこと言ったわよね」

「お前が犯人とは言っていない。そもそも、俺は探偵じゃない。適当なことを言っただけだ」

「最悪ねあんた……。でも、言ったじゃない。私が犯人だったら都合がいい、みたいなこと」

 みんなが私を、犯人にしたがる。その理由が解らない。何か悪い事をしたのだろうか。しようとはしたが、でもそれは来栖によって止められたし、誰かを傷つけるような真似、していない。そもそも、誰かを傷つけられるほど近くに人がいないのだけれど。

 それに、来栖は適当とか言っているけど、殺人かもしれないと言ったのだ。その根拠が知りたかった。

 来栖は少しばかり私を見て考える仕草をするが、まぁいいかと言って続けた。

 今回の事件の、あらましを。

「お前の話を聞いて、最初に感じたのが都合が良すぎるという点だ」

「どういうこと?」

「たまたまお前が相談を受け、たまたまお前が協力を頼まれた日に、たまたま死んだ奴がいて、たまたまお前が第一発見者となった。どれか一つでもなければ、お前は事件と無関係でいられた、ということだ」

「それは……」

 それは、その通りかもしれない。

 偶然も重なれば必然なんて言うけれど、船波さんに相談されなければ、船波さんに協力しなければ、私は彼が死んだ日に学校に残らなかったし、彼の死体を発見することはなかった。

 でも、それだと、その言い方だと。

「あんたは……何が言いたいの」

「解っているんだろ」

 私だってバカじゃない。バカだバカだと言われて少しばかりもしかして私ってバカかもしれないと思ったけど、来栖が言いたいことくらい、解る。

 理解できる。

 でも、それだと。

 ぎゅっと、無意識に拳を握る。

 今、私の前に、答えが出てきたのだ。

 来栖は煙草をもみ消し、私の思いついた、考え付いた結論を口にした。

「お前に相談をした奴、船波七海が全ての発端の可能性がある、ということだ」



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