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六話 生損狂想


      φ      φ


 緊急の全校朝礼が始まり、死者を悼む追悼式が行われた。

 その後の授業はなくなり、私達は教室で簡単なホームルームをしたあと、解散となった。

 教室を見やれば、他クラスの生徒ということもあってお通夜のような沈鬱とした空気はなく、午前中で帰れ、また明日も休みとなったことで、少しばかり浮かれている生徒の姿も見える。仲が良かったか知り合いだったからしい生徒は、表情が明るくないのは当然だった。

 そして、隣に座る船波さんも、それは同様だった。

 好きだった人が死んだのだ。気落ちするもの仕方ない。私はなんと声をかければいいのか解らず、解るはずもなく、船波さんが友人に元気のない声で何かを言い帰っていく後ろ姿を見送ることしかできない。

 今日は部活動もなしになったので、続々と生徒は帰宅していく。

 学校の人間が死んだとしても、友人や知人でもない限りそんなものだ。

 それに、事件性のあるモノではなく、不幸な事故だとしたら尚更だ。

 船波さんの想い人は、昨日の放課後に亡くなった。階段の下で倒れているところを見つかり、病院に運ばれたが到着した時にはすでに死亡していたらしい。打ち所が悪かったのだろう。運が悪かったなと、思いながらも、少しばかり羨ましいなとも思う。

 こうやって死んだら、後々嫌でも記憶に残り続ける。この社交性が薄い私でさえ、彼を知ったのだ。こういうやり方もあるんだなと思った。

「みやちゃーん、一緒に帰ろー」

「ん、いいよ」

 岬がニコニコと手を振りながら教室に入ってくる。

 そうだ、後で来栖のところにも行かなくては。結局、悩みを解決する前に全てが終わってしまった。ただ、それでもあいつを利用すれば、私は私の望みを叶えられるかもしれない。

 誰もが私を覚え続ける、そんな記憶を刻み付ける真似が。

 それは今、たまたま思いついたことがあるので、それの協力をさせるのもいい。

「あれ、どうしたのみやちゃん? なんだかご機嫌だけど?」

「え、そ、そう?」

 何でもないと誤魔化しながら、顔の緩みを抑える。気が付かないうちに顔がにやけていたか。でも、階段の転落で死んでしまった彼には悪いが、彼は不運だったが、私にとっては幸運だったかもしれない。

 彼が死んでくれたお蔭で、私はみんなに、覚えて貰えるかもしれない。

 一生忘れさせない、それも半永続的に語り続かせることができるあることを、思いついた。

「ふふっ……」

 思わず零れた声。自然に漏れてしまった声に、私は慌てて口を塞ぐ。

 気をつけなくては。

 これからやることは、私の一世一代の、大舞台なのだから。

 岬と喋りながら考えをまとめ、来栖をどう利用しようか思考を巡らせながら歩いていく。

 私が今考えていることが、どれだけ最低なことなのか理解せず気づかずに。

 知らず知らずのうちに、私は線を超え始めていた。

 超えてはいけない、境界線を。


      φ      φ



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