花の影
「貴方との婚約は無かったことにしていただきたいのです」
自分にとって兄のようなフェリクスに、長年の婚約者だったリネットが最後に告げた言葉は、そんな言葉だったのだと言う。
いつも彼の横で、控えめな笑顔を浮かべていた、榛色の髪をした、フェリクスの元婚約者。
彼が病弱なロザムンドを優先し、何度となくリネットとの約束を反故にしても。
怒ったり、なじったり、悲しんでいる姿を、一度も見たことはなかった。
そうして淡い笑顔のままで、いつか姉と呼んだかもしれないその人は。
遠く離れた北の地へ嫁いでいった。
二人の婚約を壊した自分には。
そのことを嘆き悲しむ資格など、あるはずがないのだ。
王都の中心から少し離れた場所にある植物園は、王都に住まう者たちにとって、ごく身近な憩いの場であった。
王宮の庭園をも手掛ける腕利きの庭師達の手によって、一年中、 四季折々の花々を楽しめるようになっている。
ロザムンド……ローズの最近の日課は、この庭園での散歩だった。
先日また熱を出し、床を上げたばかりのローズにとって、この庭園はいささか広すぎるのは否めない。
けれど毎日違う場所を歩いてもまだ周りきれないのは、飽きることがなくて良いとも言える。
どの小道もよく整備されていて、けれど一年のほとんどをベッドの上で過ごすローズの萎えた足では、少し歩くだけでも重労働なのだった。
叶うなら今すぐに、植え込みの影にあるこのベンチの上に、この身を投げ出してしまいたい。
(それでも……屋敷にいるよりも、マシと言えばマシかしら)
ここ最近のヒース伯爵家の空気を思い出し、淡いピンクがかった金の髪を肩から払いながら、ローズはひっそりと溜息をついた。
今、あの屋敷で、ローズの居場所は自室のベッドの上にしかなかった。
けれど、それはもしかしたら、ずっとそうであったのかも知れない。
『ローズ、ここより南の縁戚の家に、療養に行ってはどうかな。あちらは王都よりも暖かいから、きっと身体の負担も少なくて済むよ』
王宮で舞踏会が開かれた日から、程なくした頃だった。
同じ日に熱を出して寝込んでいだローズの体調もようやく良くなり、久しぶりに自室の外で、フェリクスと茶を囲んでいた時だった。
その日の従兄弟の様子は、席に着いた時から、どことなくいつもと違っていた。
この一年、リネットとの婚約を失ってから、ずっと鬱々としていた彼の様子が、いつになく晴々と、すっきりとした表情をしていたのだった。
『君の主治医とも相談してね、道中は十分に休憩を取りながら進むように手配するつもりだし、ローズの身体を最優先にして、負担の少ない旅程を組むつもりだよ』
内心、静かに冷えていく思考とは裏腹に、身体は長年染みついた反応を示し始める。
『……お兄様は、私に出て行けと仰るのですね』
言葉と一緒に、自分の目に涙が浮かんで行くのがわかる。
それはもう自分にとって、長年染みついた、反射のようなものだった。
こうして傷付いた気持ちをそのまま言葉に乗せて訴えかければ、いつもならすぐに、この人の良い従兄弟は、申し訳なさそうな顔で謝ってくれるはずだった。
『すまないローズ。どうかわかって欲しい。これは君のためでもあるんだ』
その日のフェリクスは、やはり少し違っていた。
自分よりも黄みの強い金髪の青年の目に、いつになく強い光が宿っている。
(……お兄様は本気で、私をこの屋敷から出そうとしているのだわ)
ついにこの日が来たのだと、ローズは思った。
いつかはこんな日が来ると、わかっていたのだ。
フェリクスとリネットとの婚約が駄目になるよりも前から、ずっと。
ベンチに座るローズのスカートに、はらはらと白い花びらが舞い落ちてくる。
この国では珍しい、一つ摘んだ百日紅の花びらは、記憶の中のものと違って白い色をしている。
濃い桃色、淡い桃色、薄い紅紫。
ずっと昔、百日紅のころころとした花びらを、ボウル一杯に集めたことを、ローズはふと思い出した。
もう戻ることの出来ない、遠い、遠い幼い日の記憶。
この世にいない両親と、幸福だったロザムンドの小さな手。
花びらの形は、あの頃と寸分と変わらないのに。
自分はもう随分、遠いところへ来てしまったような気がする。
(私の居場所なんて……この世界にあるのかしら)
あの日、フェリクスから療養を勧められた日の夜に、またローズは熱を出した。
そうして数日後、熱が下がってみると、屋敷の様子が少し違っていた。
フェリクスが婚約を失った頃から、ローズに対して一層よそよそしくなっていた彼の母に倣うようにして、屋敷の者達が皆、その態度を隠さなくなっていた。
ローズがヒース家に引き取られた頃からそばに居て、自分に同情的な使用人もまだいるが、それでも、ローズがこの屋敷を出ることは、すでに決定事項だった。
そして主治医からは、旅のために、少しでも体力をつけるよう、散歩を勧められたのだった。
ふと、目の前に茂っている、見慣れぬ花が目に留まった。
いくつかの畝に沿って均等に植えられたその一角は、庭園の他の様子に比べると、まるで畑のように見える。
その畝の周囲にだけしっかりと、レンガで囲いがされているのも妙に目立っていた。
侍女が掛けてくれていた膝掛けを外して、ベンチから立ち上がり、そっとレンガ囲いのそばに寄る。
(何の花かしら)
白と薄紫色の小ぶりな花が、爽やかな初夏の風に揺れている。
「すまない、畝の中には立ち入らないでもらえないかな。根が痛んでしまうから」
若い青年の声が背後から聞こえて、ローズは顔を上げた。
振り返った先にいたのは、暗い髪色をした一人の青年だった。
日によく焼けた肌は、庭師か使用人のようにも見える。
けれどその身に纏っている衣服は、簡素だが仕立ての良いものだった。
ヒース伯爵家の侍女が何も言わないで控えているところを見ても、貴族であることは明白なのだろう。
目を瞬くローズが何も言えないでいると、そのまま近づいてきた青年が、畝のすぐそばにかがんだ。
「ほら、今からこの下に芋が出来るんだ。丁度この花が終わった頃にね」
そう言って青い葉を捲りながら根のあたりを見せてくれる。
それがこの青年、ベルンとの出会いだった。
「この畑は、特別に植物園に協力してもらって、芋の生育を試させてもらっているんだ」
ベルンハウト・リンデンと名乗った彼は、懐から小さな帳面を取り出すと、葉や花の様子を見ながら何かを書き付けている。
近くで見ると、青年と言うよりももう少し年若い、十七か、十六か……ローズと同じ位の歳かもしれない。
「貴方は芋の専門家なの?」
初対面の貴族同士なのに、畏まったところが一つもないベルンの口調につられるようにして、自然とローズの口調もくだけたものになっていた。
「半分は当たりかな。芋だけじゃなくて、僕は北の辺境伯家で、辺境に強い作物の研究をしているんだ」
「!……北の辺境……銀の、ヴォルフェン」
「そう、ヴォルフェン辺境伯は僕の義理の兄になる人だよ」
その地は確か、フェリクスの婚約者だったリネットの、新しい嫁ぎ先だった。
(ベルンはじゃあ、リネットお姉様の……新しい家族)
今やこの王都では、先日の舞踏会で初めて披露目となった、辺境伯夫人の噂で持ちきりだった。
それは辺境伯夫人となったリネットの、元婚約者であったヒース家でも例外ではなかった。
それは病床にあったローズの耳にさえ、入ってくるほどに。
「この芋はやっぱり、王都には向かないな」
ぼんやりとしていたローズの耳に、ベルンのそんな声が響いた。
「ほら、薄紫の花が、畝を跨いで広がっているだろう?白い花の苗と均等に植えたのが、随分追いやられてしまっている」
その言葉に、心臓がどくりと鳴ったのが分かった。
『辺境伯様のお隣に立って、大層お美しかったそうよ、リネット様』
『可哀想にねぇリネット様、控え目でお優しい方だったのに……ローズ様に追いやられなければ、今頃』
『そうよ、可哀想なのはむしろ、捨てられたフェリクス様かもしれないわよ』
『違いないわね。奥様だって、あれからずっとお嘆きだもの』
熱に魘されて起きた夜半に、夢うつつで聞いた使用人達の声が蘇ってくる。
(私のせいで……私がお兄様に、お姉様を蔑ろにさせたから)
薄紫の花に押しやられた白い花はそう、まるで。
あのリネットその人のようだった。
フェリクスがリネットに笑いかけるのを、疎ましく思っていなかったと言えば嘘になる。
『父の代わりに、これからは私がローズを守るよ』
子供の頃、事故で両親を失った後、ローズをこの屋敷に引き取ってくれたのは、父の弟であったヒース伯爵だった。
そしてその伯父が亡くなると、彼の息子であったフェリクスが、自分も父を失ったばかりであるのに、ローズの手を握りながらそう言ってくれたのだ。
だからローズにとって、フェリクスの手を握り返すことが、そのまま、この屋敷で、この国で、この世界で生きるための道に他ならなかった。
だから彼に婚約者が出来たからといって、その手を、簡単に離せるはずもなかったのだ。
(あの家に最初から、私の居場所なんかなかったとしても)
ヒース夫人が、ローズに対して、複雑な思いを抱えていることには気づいていた。
亡き夫の心残りだから仕方がないとしても、元々ヒース家の長男だったローズの父と、その子供であるローズに……飲み込めない思いがあることを。
それはいずれヒース家を継ぐフェリクスを想えばこそであると、ローズにもちゃんとわかってはいる。
そして両親の遺産が幾許かはあるにしても、後ろ盾のない自分を、決して息子の婚約者としては認めないだろうことも。
(私にはずっと、お兄様しか居ないのに)
だから、婚約者と出掛けようとするフェリクスに、度々「そばに居てほしい」と強請った。
ローズを守ることに使命感を持っている兄の、その矜持につけ込んで。
それは大部分が本当に、体調の悪さからくる心細さではあったけれど。
けれど、時には、
(いつも笑って許してくれるリネットお姉様の、その優しさにつけ込んだ)
でも、決して。
二人の仲が壊れれば良いなんて。
そんな風に思ったことは、ないつもりだった。
けれど結果的に、ローズのその振る舞いが、兄とリネットの運命を引き裂いたのだ。
「……可哀想ね。薄紫の花のせいで、こんな酷いこと」
あんなに可憐に思えた花が、どこか毒々しい色にさえ見えてくる気がする。
ぽつりと呟いたローズに、ベルンはきょとんとした顔をして、
「そうでもないよ、ただ単にこの苗が、そういう性質を持っている、というだけのことに過ぎない。それにこの生命力こそが、辺境の痩せた土地では役に立つんだ」
「……でも、それは植物だからだわ、人間だったら、こんなの迷惑でしかないわ」
人間のことなんて話題にはなっていないのに、何となく流し切れなくて、言い募ってしまう。
けれどそんなローズに、
「人間だって然程、植物と変わらないんじゃないかな。性格も性質も、人が生きる為に身に付けてきた“生存戦略”だという点では、植物と同じだと僕は思ってる」
さらりと告げられたその口調には、彼が心底、そう思っているのだと言うことが感じられた。
「生存、戦略」
「そう、それはその人や植物が、その環境で生き抜いてきた証だから。そのことには、良いも悪いもないと思うよ」
それはじゃあ……今のローズだって、そうなのだろうか。
どこまでも他人である伯母と、馴染めない親族と、すぐに倒れる身体で。
従兄弟の憐れみからくる優しさにつけ込んで、縋って、生きてきた自分も、そうやって生き抜いてきたのだと、そう言えるのだろうか。
(こんなことを言ってくれた人は、居なかった)
けれど、でも。
だったらどうしたらいいのだろう。
泣き喚いて、熱を出して、訴えても。
もうあの屋敷に自分の居場所はないことを、ローズもすでに分かっている。
ローズには、この、すぐに倒れる軟弱な身体しかない。
自分には、リネットのように家族も、友人も、自分でどこかに行くための体力もない。
学院に通うことも出来ず、満足に淑女教育も収められず、自分の婚約を探すことも出来ないこの身を抱えて、ただベッドの上で、天井を眺めているだけの日々。
憐れみでしかないフェリクスの愛が、欲しいわけではなかった。
可哀想だと思われる方が、生きやすかっただけだった。
「……どうしようもないわ……私の身体ね、すぐに熱を出すの。頑張りたいって思っても、今日こそは、って思っても。だから、どうしようもないのよ」
リネットから婚約破棄を告げられたと、フェリクスから聞いた、少し後のことだった。
伯爵家宛ではなく、使用人経由で、こっそりとローズの手元に届けられたのは、リネットからの手紙だった。
そこには、自分の婚約破棄の理由は、決してローズのせいではないと、ただ、それだけが簡潔に書かれていた。
そして同時に、ローズの快復を願う言葉だけが。
その時、もしかしたらこの世界で、ローズのために、心から祈ってくれていたのは、彼女だけだったかもしれないと思ったのだ。
どこか騎士道精神に酔っているような従兄弟や、義務感で家族となった夫人よりもよほど。
時にフェリクスに、ローズのため、茶会を切り上げるように勧めてくれていた彼女だったからこそ。
けれど、そんな彼女に一言だって詫びることすら、手紙の一通を送ることすら、ローズには出来なかった。
丁度流行り始めていた風邪から来る発熱で、寝込んでしまったから。
ベッドの中で、熱に魘されながら、ローズは泣いた。
こんな時にも不甲斐ない自分の体が憎かった。
だからこうして、自分が必死で生きてきたと自覚したところで、何も変わりようがない。
(これからも、“可哀想なローズ”のまま、生きていくしかないのよ)
目の前の薄紫の可憐な花が、侵食してしまった境界が覆らないように。
兄達の婚約だって、永遠に失われてしまった。
自らの空虚を見つめたところで、ただ、そこには、絶望に似た孤独があるだけだった。
「申し訳ない、僕は、その、人との会話が苦手で」
勝手に一人で沈み込むローズのそばで、なぜかベルンが、妙に慌てた様子で話し出す。
「その、こういう時に、上手く気が利いたことが言えなくて、でも、」
真っ直ぐに自分を見つめるベルンの目は、新緑のように美しい碧だった。
「植物の生育が上手くいかない時は、その環境を見直す必要があるんだ。水、光、風や温度、同じ芋科の植物でも、適した土壌が異なることはザラにあって」
何かを、懸命に伝えてくれようとする同世代の青年の姿に、そう言えば自分の周りには、日頃、年嵩の者しかいないことを、ふと思い出した。
「王都は、意外と気温の高低差が激しい気候なんだ。今みたいな初夏でも、朝晩は思いの外冷え込んだりね。だから君の身体にも、実はもっと、合う環境があるのかもしれない」
その言葉に、ローズはその目を瞬いた。
「……もっと、南の方とか、ってこと?」
「暑さはそれはそれで負担になるから、必ずしも合うとは限らないけどね。でも君は見たところ、僕と同じくらいの歳だろう?まだまだ成長期だし、骨と筋肉が出来上がるのは今からだから。それに何より、試してみなければわからない」
人間も、植物もね。
そう言って、不器用そうにベルンは笑った。
「試してみる、なんて」
この軟弱な身体に、そんなことが可能だろうか。
「勿論出来るさ」
間髪入れずに答える青年に、何となく、反抗したい気持ちが湧いてくる。
「そんなこと……わからないじゃない」
「だって君は、植物と違って自分の足で歩けるし、馬車にだって乗れる。それにこうして、言葉を話すこともできる。だから試してみればいい、自分で、この芋の苗みたいに」
そう力強く言い切るベルンの言葉に、どこまでも彼には、植物を通して、世界が見えているのが分かって、
「貴方みたいな人……初めてだわ」
思わずローズの口から漏れた呟きに、ベルンが、急に頭を抱えて項垂れた。
「ごめん……リアに、婚約者に、いつも叱られるんだ。初対面の相手に、植物の話ばっかりするのは駄目だって」
何となくベルンと、その婚約者のやり取りが目に見えるようで。
ローズは思わず、笑ってしまった。
こんな変わった婚約者を持つ、辺境伯家のご令嬢はどんな少女だろう。
それともあの地には、ベルンみたいな青年が、ごろごろいたりするのだろうか。
(リネットお姉様が花開いた、ヴォルフェン)
使用人達の口に上っていた、新たな辺境伯夫人の噂は、どれも夫妻を褒め称える華やかなものだった。
それはかつて、この屋敷を訪ねてきてくれていたリネットの姿には、容易に結びつくことのないものばかりで。
そしてそのどれもが、
(幸せそうだったと、皆、そう言っていた)
リネットがその幸福を見つけた辺境とは、どんな所なのだろう。
遠く、この王都から離れた、雪深い過酷な地で、彼女はどんな風に暮らしているのだろう。
「いつか……、私も行けるかしら、辺境に」
そんなこと、今まで一度も思ってもみないことだった。
「やめたほうがいい」
自分の中で膨らみ始めていた何かが、ぺしゃりと、萎んでいくのがわかった。
そんなローズに気付かないまま、目の前の青年は、
「今の君だと、ヴォルフェンの寒さは身体に悪過ぎるよ。出来れば脂肪はもっとあったほうがいいし、時期ももう少し、夏の盛りの方がいい。義兄上も、リネット様のお身体をずっと心配しているくらいなんだ。辺境で生まれた女性にだって、真冬の寒さは毒になるくらいだから。あっ、もし身体を鍛えるなら、僕よりも婚約者の方が役に立てると思うよ。彼女は僕よりもずっと、人間の身体に詳しいから」
ぽかんと口を開けたままのローズに気付いて、ベルンがはっと口を噤んだ。
「ごめん」
「……ううん。いつか、夏に。ちゃんと、健康になってから」
言ってもいいのだろうか、こんな夢みたいなことを。
「その時は勿論、歓迎するよ。リア達にも紹介する。君が嫌じゃなければ、芋畑も見てほしい。この何倍も、薄紫の花がずっとずっと遠くまで続いていて、すごく綺麗なんだ」
破顔したベルンは、心底嬉しそうに、そう言ってくれたのだった。
行けるだろうか、この身体で、行きたい場所に。
なれるだろうか、可哀想ではない、自分に。
そんな未来を、自分が、描いてもいいのだろうか。
(まずはお兄様に、南行きの話を聞いて、それから)
願わくば、いつか。
あの優しい人に、また会える日が来るだろうか。
(会ってもらえないかもしれないけれど)
この後悔は、決してリネットに許しを乞うためのものではない。
自分のこんな独りよがりの想いなど、彼女の幸福には、なんら関係のないものだろうから。
(でも、もうあんな風に、白い花を壊したくない)
誰の憐れみを強請るようなこともせずに。
ただのローズを、愛してくれる人に出会う未来もあるだろうか。
ローズは足元の、懐かしい百日紅の花が降り注ぐ自分の影を見る。
白い花びらが敷き詰められた地面に伸びるその影は、ローズからただ真っ直ぐに、伸びているのだった。




