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私の事が全然好きじゃない婚約者に、今日こそ婚約破棄だと言ってやる  作者: 木の実山ユクラ
第1章

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会議


災害超級の魔物ともなれば、被害を受ければ町の機能が停止し、大量の被害者が出る可能性がある。まさに大災害レベルの脅威だ。

この災害超級の認定がされる魔物は10年に一度くらいしか出てこないのだから、隊長クラスの騎士たちでも自ずと険しい顔になってしまう。

飛竜部隊隊長として軍議に出席していたクライスも、ひりついた緊張感をひしひしと感じていた。


沈黙を破ったのは、何も喋らない騎士団長に代わって立ち上がった副団長だった。


「敵は厄介、かつ、状況が悪いのもまた事実。曲がりなりにも組織化しているとなれば魔物でも決して侮れぬ。まして増殖を止めない無限の大群相手となれば、有限である我々が押し負ける可能性もあろう。しかし我々騎士は、いかなる敵であろうとこの王国の土を守り、勝利すると誓う。策を練るぞ」


副団長がゆっくりと、円卓を見回す。

円卓に座る隊長の何人かは賛同の声を上げたが、殆どは黙って眉根に皺を寄せたままだった。

クライスも、同じように難しい顔をしていた。


もちろん、魔物に王国を蹂躙させる気はさらさら無い。騎士団の誇りにかけて、王国と民には指一本触れさせない。

しかし、北の大地に広がるサモエラ樹林を壊滅させ、大河川では無いものの一つの川であるダーウェラ川を干上がらせる程に大量になった蝗の魔物の群れに、数で確実に劣る騎士はどう戦うべきなのだろうか。

戦力は、足りているのだろうか。

単純に突撃して力任せに戦っては勝ち目がない。

クライスと同じことを考えた他の隊長も少なくなかったようだった。



「それでは次は私が」


報告の役目を終えた隊員に代わり、特殊偵察隊の部隊長が前に出てきた。

彼は手に持っていた大きなものを、円卓にバッと大きく広げた。


「まず現状を整理しましょう。こちらをご覧ください」


円卓には大きな大陸地図が広げられた。

隊長は厚い生地の羽織の内ポケットから取り出したいくつかの駒を、地図の上に手際よく並べていく。

駒は魔物や、王国と同盟国の戦力を表しているのだと一目で分かった。

隊長全員が円卓を囲み、顔を突き出してその地図を覗き込む。


「やはり戦力差はあるな」

「もうこんなところまで来ているのか」


予想通り大量の魔物の駒は、思ったよりも王国の近くに置かれていた。


腕組みをして地図を睨みつけていた隊長の一人が、まず先陣を切って作戦を提案した。


「鍛造部隊に大砲でも造らせたらどうだ?そうすれば魔物がどれほどいようと、何とかならないか?」


話を振られた、鍛造部隊を指揮下に持つ兵装部隊の隊長が首を振った。


「却下だ。大砲一門の製作に、少なくとも一週間はかかる。人手が足りない。それより魔道砲術部隊の一斉掃射で消し炭にできないのか?」

「無理だ。大群を押し留める弾幕を展開するには倍の隊員が必要だ。今の魔道砲術部隊じゃ、訓練兵を総動員しても足りない」

「じゃあ超精密射撃は?魔道砲術部隊にはいるだろう、谷の反対側から魔物にヘッドショットを決めるスナイパーが」

「対少数なら自信はあるがな。対多数では機能しない。それより槍術部隊や重装部隊はそのパワーでどうにかできないのか」

「おいおい、無尽蔵の敵兵だろう。それなら俺たちももっと頭数が欲しい。策もなく突っ込んで、女王蝗に辿り着く前に一人残らず犬死になんてごめんだ」


大型の武器を専門に作成する巨装鍛造部隊も、攻撃の要の魔道砲術部隊も、一糸乱れぬ隊列で敵を圧倒する槍術部隊も、鉄壁の守りを誇る重装部隊も、いつもなら我先にと先陣を切りたがるのに、今回ばかりは首を横に振るばかりだ。


「……」


クライスも無言で、眉に皺を寄せることしかできなかった。

倒しても倒しても無限に湧いてくる魔物を相手に、戦えば疲弊する人間の騎士たちは、果たしてどう策を弄せば良いのか。


そんな中、地図を睨んでいた隊長の一人が、スッと手を挙げた。

それぞれ無秩序に意見をいう中で律儀に上がった手に、皆が注目する。手を挙げた人物は、クライスの隣に座る重装騎兵部隊の隊長だった。

彼は名前を、ガルヴァン・シュタールと言う。どうでもいい話だが、クライスとは同じ頃に隊長に昇格した縁もあり、割とよく喋る間柄だ。


ガルヴァンはまず、皆の前で改めて特殊偵察隊の部隊長に確認した。


「先ほどの話にもありましたが、女王蝗が無限に兵を産み、群れを組織化している、と言うことで間違いないですよね」

「はい、間違い有りません」

「では女王蝗を叩けば、あとは掃討戦という理解で合っていますか?」

「女王蝗を叩くことが出来るのであればあとは掃討戦でしょうが、現実的に不可能です」

「どうしてでしょう?」

「この女王蝗は、群れ全てを全滅させてからでないと辿り着けないような強固な守りの中にいます。女王を倒したければまず、無限に湧いてくる兵を全滅させなくてはいけません」

「ふむ」

「それに女王蝗は別格の強さがあるものと思われます。ただの蝗の魔物とは格が違います」

「ええ」

「ですから我々はまず、増殖する兵を殲滅する策を立てるべきです」


淡々と答える偵察隊長の言葉に、ガルヴァンは頷いた。

しかしガルヴァンの頷きは、同意の頷きではなかった。


「しかし増殖する兵を殲滅し、一気に女王蝗を叩くには、王国の戦力は足りません。僕は、まず女王を倒すことでしか我々に勝機は無さそうだと考えます」


ガルヴァンの返答に、クライスを含めた円卓の面々は首を傾げた。


「女王を先に倒す事ができるのならそれに越したことはない。だがなガルヴァン、女王の守りは強固だ。まず兵を全滅させなきゃ女王には到達できないんだぞ?」


隊長の一人が意見する。

ガルヴァンはゆっくりと頷きながら、しかし意見は変えなかった。


「ええ、理解しています。しかし増殖より速い速度で兵を殲滅するより、まず初手で女王蝗をどうにかして倒して、有限になった兵を殲滅する方が余程勝利の可能性があると思いませんか」

「それはその通りだが、初手で女王蝗を倒す手立てなんてないから我々は悩んでいるんだろう」


円卓の隊長たちは、口々にガルヴァンに意見した。

黙ったままのクライスは、反対を受けていいるガルヴァンの隣で、それぞれの隊長たちの顔をゆっくりと見回す。


確かに、ガルヴァンの案は今こうして、皆を困惑させている。

だがクライスの知るガルヴァンはいつも冷静だ。彼の立てる作戦は合理的なものが多く、現実的だ。

もしかしたら何か隠し球があるのでは、とクライスは隣で涼しい顔をしている友人を見て思った。


クライス以外が諦めムードの円卓で、ガルヴァンが静かに言った。


「僕に案があります」


ガルヴァンは十分に間を取った後に続けた。


「僕は士官学校時代、昆虫系の魔物について調べていました。奴らの雌は特定の匂いに吸い寄せられる特性があります。その匂いのする物を食べるとより強い卵を産めると分かっているからでしょうね。蝗の雌が好む匂いも分かっていますから、女王もきっとその匂いには敏感な筈です」

「……匂いで女王を誘き出して処理する、と言う作戦だな」


クライスは思わず合いの手を入れた。

ガルヴァンは少し嬉しそうに微笑むと、しっかりと頷いた。


「ご名答です、クライス。女王を誘き出して誘導し、王国騎士団の精鋭で作ったキルゾーンに誘い込み、一気に叩くのが僕の提案する作戦です」

「なるほど。女王を誘き出して誘導する部隊と、火力部隊が必要な作戦な訳だな」

「はい、その通りです」


……悪くない案だ。だが。


クライスは唸った。


「可能性はある策だが、俺は問題点があるように思う」

「そうですか?聞かせてください、クライス」

「まず、大群の奥まで進んで、女王に匂いを嗅がせて誘き出す危険な誘導部隊は誰がやるんだ?しかもその匂いがする物を食べようと襲いかかってくるんだろう。女王蝗が一心不乱に向かってくるなんて、命がいくつあっても足りないだろう」

「名指しで死んで来いと言うのと、正面から突っ込んで皆で死のうと言う事の違いはなんでしょうか?無限湧きする兵を相手にするのも、命がいくつあっても足りないと思いませんか。ならば犠牲は少ない方がいいでしょう」

「……」

「ああ勿論、誰かにいなくなって欲しいわけじゃあ有りません。これが、最大多数の民と王国を守る最善な策だと考えただけで」

「それは分かっている。……ちなみに、ガルヴァンが考える誘導部隊の適役は誰だ?」


クライスの問いに、ガルヴァンは更に真剣な顔になって、小さく息を吐いた。

そして、ピッと立てた人差し指を、地図上にある飛竜の駒に当てた。


「僕が考える誘導部隊の適役はクライスの隊、飛竜部隊です」

「そんな気がしていたよ」

「勿論、重騎兵隊が出来る任であれば僕が先陣を切っていたでしょう。だけど空中からなら、大群の中から女王蝗を見つけられる。女王蝗が跳ねて喰らいついてきても、飛竜隊の機動力なら上手く躱せる可能性も高いでしょう」

「なるほどな」

「ええ。でも寧ろ、あえて女王蝗を避け損なってくれても良いかもしれません。喰らい付かれたまま、女王蝗をキルゾーンまで引っ張り出してくれたら良いのですから」

「……」

「ああ勿論、生き餌になって死ねと言っている訳では有りません。皆が安心安全な策があるのなら、誰が何と言おうとその策を採用するのですが、大群に対して最小の犠牲で戦うには、こうするしか」


……ガルヴァンはやはり合理的だ。

餌になる一人の犠牲だけで女王蝗を倒せるのならば、王国は守られるし、余計な仲間の犠牲も出ないだろう。


……もしもこの策を採用するしか無くなって、飛竜部隊がこの任を任されるしか無くなったら、俺がやるしかないか。


クライスには隊長を任されるだけの実力も判断力もある。騎士になったとうの昔に、命を懸けて国と人を守ると覚悟だって決めた。そして何よりクライスは飛竜部隊の隊長だ。

もしそれが最善だと円卓が決定したのなら、絶対にその大役を果たして見せると言うつもりだった。

だが、一瞬メリエーヌの顔がチラついて、クライスは押し黙った。


メリエーヌにこの作戦を伝えたら、彼女は何と言うだろう。

気丈に「君はピンピン帰ってくるだろうから心配はしていないよ」とでも言って送り出してくれるのだろうか。


……でも、ヘマをして死んだら?


女王蝗を引き付けつつも攻撃を避けて生還すればいいのだが、もしも女王蝗を躱し切れなかったら?もしも強靭な顎や足での攻撃を受けてしまったら?


……俺が死ぬことは、百歩譲って良しとしよう。でも、メリエーヌはどうなるんだ。


いつもサバサバとしているけれど、ああ見えてとても情深い女性だから、メリエーヌはきっと悲しむ。

悲しんで悲しんで、食事も食べられないようになるかもしれない。「すぐ帰る」と言うクライスを嘘つきだと言って一生恨むかもしれない。それに第三とはいえ王女だから、クライスがいなくなればまた別の誰かと結婚することになる。



「クライス、この作戦について君はどう思う?」


ガルヴァンが静かに問うてくる。

しかしクライスは何も言えなかった。


騎士は国を守るためにあり、クライスはその仕事に誇りを持っている。

いつだって危険が付きまとう仕事だと言うことも承知している。その覚悟はできていた筈だ。

しかしクライスには、こうしてほぼ犠牲になる事が確定しているような役を、二つ返事で快諾できるような強さは無かった。

クライスは、メリエーヌと過ごす筈だったこれからの年月が無くなってしまうかも知れないと考えると、一瞬躊躇した自分の弱さを認めざるを得なかった。


「クライス」


再び呼び掛けてきたガルヴァンに、意を決したクライスは小さく頷いた。


「ああ、問題ない。もし決定が下されれば、飛竜部隊はこの任を問題なく遂行できる」


何度も言うが、騎士団は国の存亡と人々の命を預かっている。

必ず適切に相手を測り、最小の犠牲、最善の策を以て、迅速に魔物を食い止めなければならない。

その為には、危ない役などやりたくないなどとは死んでも言えない。


しかし葛藤の末に言い切ったクライスに対して、今まで黙っていた騎士団長が片手を挙げて制した。


「ならん!」

「団長?何故ですか?」

「この作戦の決定は、同盟国に援軍を要請してからだ」

「同盟国?しかし同盟国の援軍などたかが知れています」


クライスは眉根を寄せた。


王国が長く信頼関係を築いてきた同盟国はいくつかあるものの、武力に自信のある国は思い当たらない。

そればかりか、自国も同盟国も纏めて守っているのが王国、という位置付けになっている。

魔物が発生する魔穴が多い北に面した王国が、同盟国中では一番武に秀でていると言っても過言ではないのだ。

だから、他の同盟国に援軍を仰いだところで、焼け石に水程度の戦力増強にしかならない。


「今までの同盟国であれば援軍などたかが知れているだろう。しかし今は帝国がいる」

「え?帝国とはまだ条約の締結もされていない筈では……」

「いや、話は進んでいるのだ」

「しかし帝国は何を考えているか……」

「帝国も曲がりなりにも国として機能しておる。話は出来る筈だ。儂はあの小僧が根っからの暴君とは思っておらん」

「しかし」


クライスは食い下がった。

騎士団長は器が大きすぎる。あの皇太子が根っからの暴君でないとは到底思えない。

それに何より、友人のエルフリートがボロボロにされて、そのエルフリートの婚約者のエレーユまで酷い仕打ちを受けたことを考えると、皇太子は正直手は組みたく無い相手だった。


「帝国はまだ信用なりませんし、そもそも時間が有りません」

「分かっておる!しかし時間の無い時程焦る勿れ。採れる策が絞られて来たのであれば、最大の模索をし、最善の策を採るのだ。儂は、高潔な騎士団を誇りに思っておる。平和が犠牲の上に在る事は否定せんが、騎士もまた、守られるべき王国の民で在る事を忘れてはならん」


クライスの反対も虚しく、騎士団長はその巨体を支えていた大きな椅子から立ち上がった。


「儂は陛下の意見を聞いてこよう」


そう言い残し、団長は副団長を伴って軍議室を出て行った。

クライスたち隊長格の面々は騎士団長を見送って、自らも席を立った。



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