034 旦那様(ニセ)のお姉さま登場ざまーす。
三成家との繋がりや、人気のある一矢自身と関係を持ちたいからだろう。一矢が好きならまだしも、一矢の持つ地位や財産目当ての見合いは、彼自身がうんざりしているのは知っていた。本当に大変だと思う。だからニセ嫁に仕立て上げた私を使って、それをけん制したかったのだろう。お金持ちというのは、色々大変だ。
そんな一矢に挨拶するべく、フロア内にあるラウンジに何人か集まっているらしいと聞いた。一矢は既にそちらの方に向かって来客の対応をしているらしい。私も顔を出しておいた方がいいと思って、中松と美緒に断ってそちらへ行くことにした。
マスコミの方も来るとか。本当に緊張する。見てくれは令嬢っぽくなったけれど、喋ればすぐニセってバレそうだ――と、そんな風に思いながらラウンジへ向かおうと思って歩き出した私に、ごきげんよう、伊織様、と声を掛けられた。花蓮様だった。
身構えていると、向こうから頭を下げて謝罪された。「先日は失礼を致しました。本当に申し訳ありません、伊織様。無礼を致しました事、お詫び致します」
「もういいのよ。花蓮様の言う事は本当の事ですわ。一矢に相応しくないと思っているのは、皆様以上にこのわたくし。誰にも負けないのは、彼を大切に想う気持ちしかございません。お気持ちはお察し致します。どうか、あの時の事はお気になさらないで。もう済んだことではありませんか」
きちんとした令嬢として、話ができているかしら。鬼に叩き込まれた言葉遣い、間違っていないか心配だ。
「三条の・・・・」花蓮様が声を震わせながら言った。「三条との関係が悪くならない様に計らって頂いたのは、伊織様と伺いました。あんな無礼を働きましたのに、三条家の事をご配慮頂きました事、父に代わってお礼申し上げます」
ああ。この前掛かってきた三条氏からの電話、中松から内容を聞いたら、一矢が本気で怒って三条とは今後取引全面停止、とことん追い詰める、みたいなことを言い出したから、絶対止めて、そんな事をしたら三条家で働く人がみんな困る事になる、どうしてもやるなら速攻離婚するから、と私が怒った事ね。一矢ったら・・・・三条氏の耳に入れたんだぁ・・・・。
「一矢様が、伊織様を大切になさる気持ちが解りました。今までの気持ちにすぐ折り合いがつくとは思えませんが、おふたりを応援できるよう、今後は努めたいと考えております」
「まあ」驚いた顔を見せ、その後笑って感謝の気持ちを伝えた。「ありがとう」
花蓮様、ごめんなさい。私、ニセなのに。
貴女の気持ちを踏みにじる、最低の女なのに。
応援なんかしないで、憎まれていた方が良かった。
胸が、こんなにも痛い。
「あら、花蓮さんじゃないの。ごきげんよう」
声が掛かったので二人で振り向くと、一矢の義理のお姉さま、杏香さんが立っていた。一矢と全然似ていない。まあ、腹違いでもここまで似ていないのかというほどだ。だから可愛がれないのかもしれないわ。
嫌味で高慢なだけで、全然美しくない。一重の目はきつく狐のように吊り上がっていて、長い髪の毛をまるで銀座のママのようにきちーっとセットしていて、ガチガチに固めている。お風呂で取るのが大変そう、というのが印象。グッチのめちゃくちゃ高そうなスーツに身を包んでいて、全身隙が無い。
ううう・・・・この人嫌い。もう一人のお姉さまの柚香さんも同じような雰囲気で嫌い。一矢を幼い頃から酷い目に遭わせてきたのだもの。
でも、私を本家にも紹介して顔合わせがあるものだから、招待せざるを得なかった。まあ、一番の目的は本家に堂々と申し入れする事だからね。呼ばないわけにはいかない。本家だけに出向くと何をされるか解らないので、敢えて人目の多いホテルを選んだのよ。
「杏香様、ごきげんよう。お久しぶりでございます」
「花蓮さんも気の毒ねぇ」
杏香さんが頬に手を当て、ため息をつくように言った。私みたいな無血統女に一矢を盗られてしまって、みたいな嫌味が続くのだろう。流石にこの場では言われなかったが、雰囲気で解った。こんな時、どんな顔をすればいいのか、中松に教えてもらっておけば良かった。
まあ、中松なら涼しい顔をしているだろう。何を言われても気にせず、堂々とするのがあの男だ。私もそうする事にした。
「伊織さん、でしたわよね。丁度良かったわ。お祝いを渡したいのだけど、一矢に渡しても受け取らないと思うから、貴女にお渡しするわ。高額なものだから、部屋に置いてあるの。一緒に来て下さらない?」
「あ、はい。承知致しました。ここを離れるので、中松に一言声をかけて来ますのでお待ち頂けますか?」
うええー、行きたくないよおおー。でも嫌って言えずに承諾した。
「すぐ済むからいいわよ。いちいちあの嫌味男にいわなくても。それに私、待たされるのは嫌い」
「は、はい・・・・」
杏香さんでも中松は嫌味男認定なのね。その部分については話が合いそうだ。
「花蓮様、それでは失礼致します」
私はお辞儀をしてその場を離れた。杏香さんに連れられ、一般のものとは違うエレベーターに乗り込んだ。
高速エレベーターは、あっという間に別世界へと私達を運んでくれた。
「今日はこのホテルに部屋を取ったのよ。可愛い義弟の婚約パーティーだし」
一矢を可愛いなんて思った事、一度だって無い癖に!
意地悪の限りを尽くしている事、私は知っているんだからね!!
「わざわざありがとうございます」
こちらも丁寧にお礼を伝えておいた。嫌味に嫌味を返す必要なんか無い。それにそんな事をして杏香さんの怒りを買えば、矛先は全て一矢に向いてくる。それは避けなきゃ。
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