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029 巷で噂の悪役令嬢、初めて見ました!

 

「花蓮とは久しく会っていなかったな。すまない。会社が軌道に乗って来たものだから忙しく、折角の夕食の誘いに応じる事が出来なくて悪かった」


「そうですわ。花蓮、一矢様が来て下さるのを、首を長くして待っておりましたのよ」


 わー。私の入る隙無いー。どうしたらいいのぉー。

 そんな私が困っていると思ったのだろう。一矢が花蓮さんに私を紹介してくれた。


「花蓮。こちらの女性は緑竹伊織さんだ。幼馴染で、私が妻に選んだ女性だ。是非、仲良くして欲しい。とても良い女性だから、花蓮も気に入ると思う」


「まあ」花蓮さんは口元を手で覆い、私につつつ、と近寄った。ぎゅうっと両手を握られ、お嬢様とは思えない程の力を掌に受けた。



 痛いって! 結構怪力ね。恨みが籠っているわ。



「初めまして。三条花蓮と申します。一矢様には私が幼少期から親しくさせて頂いており、大変慕っております。どうぞよろしくお願いいたします。緑竹様は、どちらの財閥のお方?」


「花蓮、彼女の家柄はそういう類では無い。今は三成家に入る為に花嫁修業をして貰っている。どうだ、とても綺麗な女性だろう。私が幼い頃から、その・・・・好いていた女性だ。今回、プロポーズを受けて貰ったから、大々的に婚約発表をすることにしたのだ。先ずは懇意にしている三条家に挨拶を、と思って今日は来たのだ」


 はあー。饒舌ですこと。幼い頃から好いていた、なんてよく言えるわね。一回も聞いたこと無いし、そんなの。

 紹介されて憂鬱な気分になるって、どうよ。

 

「まあ・・・・それでは、三成家も衰退してしまうのではないでしょうか? 花蓮なら、一矢様を全面的に支え、今後ご活躍される一矢様のバックボーンとすることが出来ますのに」


 アンタの力じゃねーだろ。・・・・と、心の中で突っ込んでみたり。

 令嬢って、勘違いしている女が多いと思う。自分の力でやるなら、それはもう凄い事だけどね。


「花蓮、色々考えてくれてありがとう。しかし、もう決めた事だ。家庭を持つ以上は、必ず自身の会社を大きくし、成功させる努力をする。しかし、三条家の助けも必要だ。今後とも変わらず懇意にして欲しい。どうか、よろしく頼む」


「一矢様・・・・」


 花蓮さんは目に涙を浮かべて、一矢を見つめた。「花蓮は、ずっと・・・・幼い頃から、一矢様をお慕いしておりました」



 ひいー。ごめんなさいー。早速令嬢泣き落としを目の当たりにしちゃったよぉー。

 ニセでーす、って言ったらやっぱり怒られるよねぇ。胸が痛んだ。

 

「花蓮の気持ちは嬉しいが、それは私が兄の様に接していたから、憧れに近いものがあったのだろう。お前は私にとって妹みたいな存在であったから、つい、兄の様に振舞ってしまった事は侘びよう。すまなかった。でも、花蓮は素晴らしいレディ―だ。私なんかよりも、もっとお前に相応しく素晴らしい男性に出会える筈だ。見分を広めるといい。籠の中の鳥である必要は無いのだ」


 はあー。普段の一矢を知っているから、笑いを堪えるのに苦労した。

 こんな一面もあるのね。おべんちゃらが巧くて、饒舌。まあ、世間を渡り歩かなくてはいけないのだから、このくらいは朝飯前、か。

 ご令嬢を深く傷つけないように、しっかりとお断りするそのスマートさ。天晴だわ。


「解りました。一矢様のご結婚、祝福させていただきます。どうか、お幸せに」


 花蓮さんが微笑んだ。本物の花の様に美しい。一矢によく似合っている。下品な私よりもずっと、お似合いだ。ニセ嫁を語って申し訳ない。


「一矢様、わたくし、伊織様とお話してみたいわ。よろしくて?」



 ゲー。嫌な予感しか無いんだけどぉー。



 

「伊織、どうだ? 花蓮と少し話してくれるか?」


 ひいー。さっき手を思いきり握られて、多分ちょっと赤くなったと思うんだけどぉー。

 こんな事やってくる令嬢と話すなんて、イヤダぁー、とは言えず。


「はい、喜んで」



 何を話すんだよー。



「花蓮のお部屋にいらして、伊織様。一矢様との思い出の写真が沢山ありますの。アルバム見ながらお喋りしましょう」


 いやーぁ。

 心の叫びとは裏腹に、速攻で部屋を連れ出されてしまった。跡が残るくらい強い力で腕を掴まれた。ゴテゴテのネイルを施した鋭い爪を立ててるし! 痛いって!!


「こちらが花蓮の部屋ですわ。どうぞ、お入りになって」


 失礼致します、とお辞儀をして部屋に入ろうとした私の足を、彼女が引っ掛けた。

 思わずつんのめって、派手に転んでしまった。



「あらぁ、ごめんあそばせ」



 ちょっと! 全然ごめんって思ってねーだろがああああ!



「いいえ。そそっかしくて、よく一矢に叱られてしまうの。ごめんなさい」


 さっと体制を整え、戦闘態勢ならいつでも受けて立つぞ、と身構えた。


「時に貴女、財閥でも無いと先程おっしゃいましたけれど、よくそれで一矢様に釣り合うとお思いになられたのですね。神経を疑いますわ」



 こっちこそアンタの性悪神経を疑うわ!

 はりきって喧嘩したら、一矢が恥をかいてしまうから、ぐっと堪えた。


 これが巷で噂の悪役令嬢というヤツか。初めてお目にかかったぞ。

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、6/22 18時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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