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028 本物の令嬢より、完全邪魔者認定を受けました。

 今回、中松がスムーズな縁談になった経緯を説明する為に、シナリオを立ててくれたのだ。


 何の身分も持たない私と一矢を結婚させるためには、私が一矢の幼馴染で、昔からお互いを思い合うからこそ婚約した、と、そうする事にした。納得はして貰えないだろうが、財産も身分も地位も無い私と一矢が婚約するには、それ相当の理由が必要なのだ。何とも脆いシナリオだろうかとは思う。私は本当の事だけれど、一矢はそうじゃない。


 でも、演じて貰わなければ困る。今日はその、練習の日なのだ。


「やあ、一矢君。よく来てくれたね。そちらのお嬢さんが噂のシンデレラガールかね?」


 シンデレラガール・・・・。まあ、そういう扱いよね。まさかとは思うけど、ニセ嫁とは思われていないわよ・・・・ね?


辰雄たつおさん、彼女はシンデレラガールではありませんよ。私が本家と犬猿の仲だという事はご存じでいらっしゃるでしょう。彼女は私が大変な思いをしている幼少期から今日こんにちまで、ずっと傍で支えてくれたのです。彼女以外、私は他の女性と結婚は考えておりませんでした」


「そうか」


 幾分納得のいかない顔を遠慮なく見せた彼の思惑が、私にも伝わってきた。

 一矢を懇意にしていた本当の理由――それは、一人娘をあてがうために、今日まで一矢に取り入ろうと努力してきたのだ。それを、私が横からかっさらった。彼の中で私は悪の存在とも言えよう。

 

「それより私の妻となる女性を紹介しよう。まだ正式ではないが、辰雄さんにはいつも良くして頂いていたので、いち早く知らせておこうと思った次第だ。伊織、こちらが三条辰雄さんだ。ずっと三成と懇意にして下さっている取引先の方だ。一応、義理姉の親戚筋になるのだ。義理母の遠縁の方だ」


 一歩下がって一矢の後ろに隠れるようにしていた私が、一矢の隣に並んだ。お腹に力を入れ、優雅に微笑むことを忘れず、自己紹介をしてニセ令嬢としての責務を果たした。

 悪だと思われても、構うものか。私にはそんなに関りの無い人だし。言ってもニセ嫁は当面の間の話だからね。ニセ嫁勤めの間なんて、たかが知れているだろうし。やっかまれても、別にいい。

 だからこそ、ニセ嫁契約婚が解消された後でも、何の関係性も無い庶民の私を選ぶ一矢の気持ちは解った。私なら、今後の会社取引なんかに関わる事は無いし、無害だから。



「伊織さんとやらに、娘の花蓮かれんを紹介しなくてはいけないな。娘は一矢君を大変慕っていたから、伊織さんの存在を聞いて、肩を落としているよ。慰めてやってくれ」



 えええー、それ、私に言っちゃうぅ?

 どんだけー。

 上流階級、怖いわぁー。

 早くグリーンバンブーに帰りたいよぉー。



 切り返し方は、また中松に教えてもらう事にする。下手に喋れないのでニコニコしていると、娘をここに呼んでくれ、と、三条さんが先程玄関で出迎えてくれた初老の執事に伝え、花蓮さんというお嬢様を呼びだした。現れたお嬢様は、高級で上品な召し物――薄い水色のパブスリーブ、首元にリボンが付いたシルク素材のワンピースに身を包み、大変美しい容姿をしていた。腰まである赤みを帯びたウェーブがかった艶やかな髪をきちんとセットし、つぶらで目が大きく、鼻もつんと小ぶりなのに上を向いていて、全体的に美しく整っていて愛らしい。一矢を見た途端、ピンクのバラの如く頬を染め、目を潤ませた。

 しかしその横にいる私の姿を見た途端、目力が増して嫉妬の炎が見える。一瞬だったが、中松に鍛えられたお陰で私はそれを見逃さなかった。



 うわー。私、完全邪魔者認定―。


 きっついわぁー。



 まあ、これがニセ嫁たる仕事の大変な所よね。頑張るしかない。

 愚鈍なフリでそういう視線には気が付かない体で、ニコニコしておいた。


「一矢様が久しぶりにわが家へいらっしゃったから、花蓮は嬉しゅうございます。どうか、ゆっくりしていらして下さいな」


 かー。めちゃくちゃ上品!

 育ちがちがーう! 私とは大ちがーいざまーすよぉー。


 

「花蓮とは久しく会っていなかったな。すまない。会社が軌道に乗って来たものだから忙しく、折角の夕食の誘いに応じる事が出来なくて悪かった」


「そうですわ。花蓮、一矢様が来て下さるのを、首を長くして待っておりましたのよ」


 わー。私の入る隙無いー。どうしたらいいのぉー。

 そんな私が困っていると思ったのだろう。一矢が花蓮さんに私を紹介してくれた。


「花蓮。こちらの女性は緑竹伊織さんだ。幼馴染で、私が妻に選んだ女性だ。是非、仲良くして欲しい。とても良い女性だから、花蓮も気に入ると思う」


「まあ」花蓮さんは口元を手で覆い、私につつつ、と近寄った。ぎゅうっと両手を握られ、お嬢様とは思えない程の力を掌に受けた。



 痛いって! 結構怪力ね。恨みが籠っているわ。



「初めまして。三条花蓮と申します。一矢様には私が幼少期から親しくさせて頂いており、大変慕っております。どうぞよろしくお願いいたします。緑竹様は、どちらの財閥のお方?」


「花蓮、彼女の家柄はそういう類では無い。今は三成家に入る為に花嫁修業をして貰っている。どうだ、とても綺麗な女性だろう。私が幼い頃から、その・・・・好いていた女性だ。今回、プロポーズを受けて貰ったから、大々的に婚約発表をすることにしたのだ。先ずは懇意にしている三条家に挨拶を、と思って今日は来たのだ」


 はあー。饒舌ですこと。幼い頃から好いていた、なんてよく言えるわね。一回も聞いたこと無いし、そんなの。

 紹介されて憂鬱な気分になるって、どうよ。

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、6/22 12時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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