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022 水着を着たとて、お風呂場は緊張するざます。

 

『伊織―? まだ準備はできないのかー?』


 お風呂場の方から、一矢のやや反響した声が聞こえた。


「あ、はいっ、ま、待って! まだ着替えが出来ていないのっ! 今、水着を選んでいる所だから! 沢山買ってくれたから、迷っちゃって!」


 中松に腹を立てていて、肝心の着替えを疎かにしてしまった。仕方なく今日買ってもらった水着の山から選んだのは、中松が選んだ花柄のワンピース水着だった。

 ・・・・とりあえずこれにしましょう。

 着ると、似合っていた。露出が少ないから、上品なお嬢様が着るような感じになった。


 一矢が待っているから大急ぎで風呂場へ行き、昨日と同じ様に背を向けて私を待っている彼の傍に行った。


「あ、あのっ、おま、お待たせしました」


「準備はできたのか?」


「あ、う、うん」


「じゃあ、今日は私がお前の身体を洗ってやろう」


「やっ、そんな、い、いいよっ。じ、自分でやるからっ・・・・」


 背中を向けていたが、私がやって来たので振り向いた一矢と目線が合った。かなり鋭い目線をしている。真っ赤になった顔、変じゃないかしら。貧相な身体だって、思われたりしないかしら。

 困ってオロオロしていると、一矢の方がふっと鋭い目線を解き、優しく微笑んでくれた。「可愛いな、その水着、よく似合っているぞ」


「あっ、そ・・・・そうなんだ・・・・ありがとう」


 あれ?

 お風呂だから一矢は眼鏡を取っているのに、どうしてそんな似合っているとか、解るんだろう?

 一矢、極度の近眼で目が悪いハズなのに、どうしてそんなにくっきり見えているの・・・・?


 気のせい・・・・?


「眼鏡が無いからあまりよく見えなくて、大体の雰囲気しか解らんが、ちゃんと洗ってやるから安心しろ。昨日、背中を洗って貰ってとても気持ちよかった。伊織も慣れない事を頑張っているだろう。私が労ってやるから、遠慮するな」


 あ、見えてなかったのね! 雰囲気ね。雰囲気。ラジャ!

 だったらちょっと安心だけど、旦那様ニセ、背中洗いは、恥ずかしいのでニセとして遠慮したい案件ですーぅ。

 早く座るように言われたので、仕方なく一矢に椅子を譲ってもらい、そこに腰かけた。


「み、水着、着てるから・・・・洗えなくない?」


「うむ。だから、できれば脱いで欲しいのだが」


「いやっ、無理っ、無理だから!!」


「だろうな」


 ふっと唇の端を持ち上げ、そのままでいいから後ろを向いていろ、と一矢が優しく微笑んでくれた。あ、赦してくれたのかな?


 身体を洗う専用のスポンジに乳白色のボディーソープを垂らし、泡立てたものを背中に塗り、優しく擦ってくれた。

 中松が選んでくれた水着は、前はワンピースタイプで上品、露出は少ないけれど、ホルターネックになっているから背中は剥き出しになっているんだ。その部分に一矢が触れてくれて、ドキドキが止まらなくなってしまった。


 美しく長い指。綺麗な手。水洗いばかりしてささくれた私の汚い手とは大違いだ。


「伊織。中松は厳しいだろう。辛い修業だと思うが、弱音も吐かずによく頑張ってくれているな」



 背中を一矢の手が滑る。嬉しいけどくすぐったい。



「あ・・・・一矢の迷惑にならないようにしなきゃって・・・・今までやった事もないような事ばかりで、失敗が多いから中松にすっごく叱られちゃうけれど、でも、引き受けた以上は頑張るから!」


 張り切って答えた。私は料理しか取り柄が無いから、お嬢様に変装するには無理がある。でも、一矢の為に頑張りたいっていう事だけは伝えておきたい。



「・・・・伊織なら、そう言ってくれると思っていた。しかし、慣れない大変なことを頼んでしまってすまない」


「いいよ。幼馴染のよしみでしょ。私が借金で困っているのをすぐに助けてくれたんだから、一矢が困っているなら、私が助けるのは当然じゃないの」


「ありがとう・・・・心強いな」


「婚約発表して、縁談来なくなった?」


 ニセ嫁を引き受けて、それが無くならなかったら私のやっている事は無意味となってしまうので、聞いておいた。


「ああ。お前のお陰で、毎日毎日届いていた見合いの書類がぱったり来なくなったから、お陰で助かっている」


「それは何よりね。さ、次は私の番よ」



 なんか、ニセ夫婦同士だけど、お互いを思い合っていい感じじゃない?

 このまま本当の夫婦に・・・・なんて無理かぁー。

 身分の高低差が凄すぎるものね。このお屋敷で本物の嫁としてやっていく自信は、私に無い。期間限定だから、頑張れるのだ。



「その交代の前に、伊織。私と約束してくれないか」


「ん? 何を?」


「誰にも、触れさせないでくれ」


「・・・・何を触れさせなければいいの?」


「お前自身を、だ、伊織。契約中、お前は私のものだ。誰にも触れさせるな。いいか、絶対だぞ?」


「・・・・言われなくても、そんな事しないよ」


 ため息を吐きたくなった。

 一体、私が誰の事を好きだと思っているのよ!

 人の気も知らないで!

 そんな事いちいち言わなくたって、一矢以外の男とどうこうなるなんて、私の中には無いから!

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、6/20 12時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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