021 旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。
「二人とも、折角のハンバーガーが覚めてしまうではないか! 早く食べるぞ」
隣に座っていた一矢が、私と中松の目線バトルを止めてくれた。
「そうね、ごめんなさい。いただきます」
合掌して、トングでバンズを取り分けた。うーん、グリーンバンブー(実家)なら、バンズは手づかみ争奪戦だけどねー。
本当にここは上品。ああ、私もちゃんと慣れなきゃ。
大口開けてハンバーガーなんか食べれないから、きっとナイフやフォークを使うんだろうなぁ。
案の定、一矢は上品にハンバーガーをフォークとナイフで食べようとしているから、ちょっと待って、とその手を留めさせた。
「ここにいるのは三人だけだから、今日だけは庶民流に美味しいハンバーガーの食べ方でやってみない? ナイフやフォークは使わずに、ナプキンに包んで食べるの。こうやって」
バンズに出来上がったパテをソースを絡めて挟んで、マヨネーズを入れ、レタスとトマトともうひとつのバンズでサンドし、ナプキンで包んだ。「はい、一矢」
「う、うむ」
戸惑いながら、一矢がハンバーガーを受け取った。
同じものを二つ作り、ひとつは中松に渡した。
「こうやって食べるのよ」
ナプキンに包んだハンバーガーに、遠慮なくかぶりついた。「わっ、美味しいー! 一矢も中松も食べてみて! 今日だけは伊織流で、みんな無礼講よ。ポテトチップスも手で食べてね」
「伊織様・・・・」
呆れたように中松が私を見た。やれやれ、とため息をつかれたので、お説教が飛んでくるかと思ったのに、中松は私に習って、豪快にハンバーガーにかぶりついたの!
驚いて目を見張った。大きな口を開けて食べるのに、中松ったら、食べ方が美しい。
「一矢様、伊織様、大変美味しゅうございます」
さっと汚れた口元をナプキンで拭い、どれ、とポテトチップスにも手を伸ばしてくれた。
「良い塩加減ですね。とても美味しいです。手作りのポテトチップスは、初めて食べました」
中松が・・・・あの鬼が・・・・私の作ったポテトチップスを食べて美味しいって・・・・!
「そんなに美味いのか」
一矢も同じくハンバーガーにかぶりつき、ポテトチップスを手で食べた。
「うむ、美味いな!」
「でしょでしょっ。もっと沢山食べてね」
やーんっ。それにしてもイケメン二人が揃ってハンバーガーやポテチを食べる姿って、いいわあああ。
ニセ嫁修行を引き受けて、良かったぁ! 役得ね、と思ったのはこの時だけだった。
引き受けた事を後悔する事になるのは、これからすぐの事――
※
「ぜ――――っっっっっったいに着ないから!」
「絶対に着ないとは何事だ! 一体誰の為にこんなに沢山の水着を買ってやったと思っているのだ! しかも自分で選んでいたものではないかっ!!」
「選んでないし!」
「伊織が手に取っていたではないか!」
「だからあれは、選んでたんじゃなくてたまたま手に取って見ていただけ!」
「だったら何故もっと早く言わないのだ!」
「言ったでしょーがああああっ! 私の話も聞かずに勝手に盛り上がって買ったのは、一矢の方でしょおおおお――――っ!!」
「私は何も聞いていない!」
「言った!」
「聞いていない!」
「言ったって!!」
「聞いていないと言っている!」
「この、わからずや!」
「それはお前の方だ!」
はい。すいませーん。このやり合いじゃ、何の事で怒って喧嘩しているのか解らない人の為に説明しまーす。
今日の夕方頃、例の百貨店でバカみたいに大量購入した水着が届いたのね。
そんでそれを、お風呂に入る時に着用せざるを得なくなったんだけど、露出がなるべく少ないものを選ぼうとしている私の傍にやってきた一矢が嬉しそうに「お前の選んだものが早速見たい、今日はこれにしてくれ」と、あの露出狂が着るような真っ赤なドエロ水着を渡してきたのよおおおお!
隠すところどこよ!?
そんなドエロ水着、貧相な私が着れるワケないでしょーがああああ!!
それを、断固拒否しているところっ。
「一体何の騒ぎですか」
バスルームでぎゃあぎゃあ騒いでいる私達の声を聞きつけた鬼が飛んできた。
この鬼は絶対に一矢に服従しているし、絶対に私の味方なんかしてくれない。
来なくていいのにっ。
「一矢がこれを着ろって、しつこく言うから断っているの!」
ドエロ水着を広げて見せると、流石の中松も絶句してしまった。
憤慨している一矢に、中松が何やら耳打ちした。見ると、怒っていた一矢の顔が少し青ざめ、それは良くない、と呟いた。
鬼! 一体一矢に何を吹き込んでいるのよっ!!
「伊織」一矢が私に向き直ったので、戦闘態勢で迎えた。「その水着はまた今度にしよう。然るべき時まで、私が大切に預かっておく。貸せ」
パッ、と一矢に持っていたドエロ水着を取られてしまった。
えっ。何? それ、着なくていいの?
もしかして助かったの!?
ていうか、然るべき時って何よ?
一難去ってまた一難がそのうち来る、という事かしら。
「伊織様」今度は中松が私に向き直った。「一矢様に粗相がないようにお願い致します。二度とこの様な醜い喧嘩はお止め頂きますように」
鋭い目線。あー、きっつー。怖ーいぃ。本物の鬼みたいーぃぃ。
「解りました」
思いきり中松を睨みながら答えた。今の私は、恐ろしい飼い主に全然懐かない子犬がキャンキャン吠えている絵面のように思えた。
「それでは、失礼致します。どうぞ、ごゆっくり」
中松は私の様子を気にした風でもなく、さっと私の横を通り抜けようとしたその時――
『貸し、ひとつだからな』
耳元で低い、中松の声がした。
えっ、と中松を見ると、一矢が背を向けているのをさっと目で確認し、普段見せない不敵な顔で私に向かって笑いかけ、その場を去って行った。
な・・・・何アイツ!
鬼だから二重人格者とか!?
乱暴な俺様口調だったし、やっぱり一矢が居る時だけ、猫かぶりなんだわっ!
いやっ。猫じゃなくて羊ね! 執事なだけに・・・・――じゃなーいっ!!
ダジャレを言っている場合じゃないのっ!
なーにが『貸し、ひとつだからな』よ!
偉っっそうに!!
今の中松の態度が、かなり私の逆鱗に触れてしまったらしく、腹が立った。
ああ、そうか。今のでよく解った。あのいけすかない嫌味ないけず男が、私は大嫌いなんだ!
やっぱり土下座させなきゃ気が済まない!
絶対に絶対にぜーったいに、何としてもニセ嫁修行を大成功させて、あの男をひれ伏せさせてやるんだから――っ!!
「伊織、水着はお前の好きな物に任せる。私は準備が出来たから先に入っておくぞ。お前も早く入って来い」
一難去ってまた一難――は、今だったのか――っ!!
ドエロ水着は着なくてもよくなってほっとしたのも束の間、一矢の背中を洗うニセ嫁としての仕事がまだ残っていたんだった・・・・!!
ジーザス! 好きな男のニセ嫁なりきりのお仕事は、中々大変でござーますわよおおおお――――っ!!
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