020 鬼、拾いました。そしてドS執事(中松)×御曹司(一矢)の始まりです?
パテを丸めて仕上げてしまい、後は焼くだけにした。グリルを使って焼くけれど、生から焼くと火が通るのに物凄く時間がかかるから、今回は時短なので先にフライパンでしっかり裏表を焼き、熱したグリルにバンズとパテを一緒に入れて仕掛けた。
その間に手作りのポテトチップスを揚げた。ハンバーガーなら本当はポテトフライを作りたいのだけれど、冷凍のポテトフライなんかこの家に置いてないから、生のジャガイモを薄くスライスして、素揚げした。カロリー気にしなかったら、バターと塩をまぶしたり、メイプルシロップ絡めたり、バター醤油で味付けても美味しいのよ。
バンズは早めに取り出さなきゃ焦げてしまう事を伝え、タイマーを一分と四分に合わせた。
一矢が玉ねぎを切る騒動の最中、さっき洗っておいた無農薬野菜をお皿に盛り付け、一分後のタイマーでバンズを取り出し、四分後のタイマーでパテを取り出した。
中松に頼んで、並べていたチーズやらハム、野菜と共にテーブルへ並べて置いてもらった。
「沢山できたね」
「ああ。食べるのが楽しみだ」
簡単な照り焼きソースを作っておいたので、それを一緒に何時もの広いテーブルに持って行って並べた。
「中松も一緒に食べましょうよ。今日は一矢が初めて料理を作ってくれたのよ。貴方も食べて?」
「あ、いえ、俺は・・・・」
中松が遠慮しているところへ、一矢が追い打ちをかけた。
「そうだ、中松! 私の初めての料理なのだ。きっと美味いぞ! 是非、お前にも食べて貰いたい!」
張り切る一矢に困ったような表情を一瞬見せた中松だったが、何かを思ったらしく、しっかりと一矢を見つめ返した。
「はっ、一矢様。有難き幸せ。それでは、お言葉に甘えさせていただき、一緒に食事を摂らせていただきます」
嬉しそうに笑顔を見せる一矢に、深々と頭を下げる中松。一矢は本当に中松が好きなのね。私と私の家族以外で一矢がそういう顔を見せるのは、思い知る限り彼だけだ。私の作ったお弁当も二人分買っていくし、とても中松を大切にしている。
中松の事を考えていると、彼と初めて会った日の事を思い出した。
そう。あれは、寒い冬だった。その時の中松の顔には、殴られたのか酷いあざや切り傷があって、泥や雪で汚れてボロボロになった服を着て、三成家の門外の塀に寄り掛かるようにしていた。息も絶え絶えの状態の中松を見つけた私は、一矢と手を取り合って、恐る恐る声を掛けた。
生きていますか、と。
中松は怪我だらけだったし、ボロボロでなんか雰囲気怖いし真っ黒なスーツ着ていたし、今思い出しても、水をくれ、という枯れた彼の声に怖気づかず反応できた自分を褒めてあげたい。
一矢、この人死んじゃう、助けてあげて、と泣きそうになりながら頼んだっけ。
それから使用人に頼んで三成家に運んでもらい、中松を手厚く介抱したんだ。見る間に回復する驚異の体力の持ち主であったから、一矢が専属ボディーガードに雇いたいと言い出した。中松も一矢に助けられた恩を返すべく、彼に忠実な部下となった――これが概要。
なんかこれって、シチュエーション的に執事(中松)×御曹司(一矢)みたいなボーイズラブ漫画になりそう。
御曹司の気まぐれ・高慢な我儘にきちんと応える優良執事。しかしその実態は、胸に秘めたる思いを馳せ――
「伊織、何時までそこへ立っているつもりだ。早く席に着け」
自分の恐ろしい想像に身震いしそうになった時、一矢が声をかけてくれたので慌てて誤魔化して着席した。
この考えに至ったのには、訳がある。中松には全然・・・・女性の影が無いのよ・・・・。三十二歳にもなるのに、結婚を前提としたお付き合いをしているような女性の一人もいやしない。
もしや一矢をずっと思って・・・・?
チラリと中松を見ると、一矢と会話をしながら嬉しそうにハンバーガーの取り皿を並べている。一矢も嬉しそうだ。中松が甲斐甲斐しく一矢の為に働くその姿・・・・そして私には必要に鬼の修業をさせる・・・・!
ピシャーン、と自分の中で雷が鳴った音がした。
中松が私に異常に厳しいのは・・・・恋敵だから・・・・!?
・・・・・・・・そんなワケ、ないか。
まあでも、そんなワケが・・・・あるかもしれない。気を付けよう。
想像が本当だったらニセ嫁の立場を大いに利用して、中松にうんと意地悪してやろうっと。
しごかれているお返しよっ。
でも、不毛な恋をしているのね。ああー、中松が女性と付き合わないのは、一矢が好きだからなんだぁー。この考えって、結構濃厚なイイセンいってるかも。
――実らぬ恋ならば、この中松の人生、一矢様に身を捧げる覚悟です!
固く心に決めたりして!
・・・・なーんてね。そんなワケないかぁ?
「伊織様。俺の顔に何かついていますか?」
気が付くと、中松の顔をじっと見つめていたようだ。あらぬ想像をしてしまった事は、黙っておかなきゃ、ね。
「ごめんなさい。何でもないわ。辛い修業の事を考えていただけよ」
嫌味に笑ってやった。
「伊織様の出来が想像以上に悪すぎて、こちらの気苦労も察して頂きたい所存でございます」
目の笑っていないブリザードの笑顔で微笑まれた。
ちぃくしょおおぉお――――っ!!
一矢の時と全然違うし!
なんでそんな顔されなきゃなんないのよ!
その出来の悪い私をきちんと教育するのが、アンタの仕事でしょおおおお――っ!
思いきり睨んでやった。
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