語られるは、とある王妃の秘密。或いは悲しき真実(3)
はい、シリアスここに極まれりです!
取り敢えず、意味分からないところで終わってるけど……次話に続く! 不定期更新を待ってね☆
では、今回もよろしくどうぞ!
暑いから体調に気をつけよう〜٩( 'ω' )و
『………………』
ただただ、静まり返っていた。
王妃ラナンに聞かされた過去の話。
クリーネ王国の姫君と、魔王の恋の話。
悲しい、真実。
ラスティは顔を歪めながら……話の続きを促した。
「それで……?」
「……予想はついているかもしれないけれど、魔王妃を殺したのは彼女の従兄弟だったわ。愛憎ゆえの、凶行。他の男の妻となった姫君が幸せになるのが許せなくて……殺した」
「…………そんな……」
「そうして気が狂った魔王は、その巨大な力を暴走させ……従兄弟を殺そうとした。魔王の暴走が伝播して、同じく気が狂った魔族達と……クリーネ王国も巻き込んでね。だけど、そうはならなかったわ。そうなる前に、神から遣わされた使徒……神獣に封印されたから」
「まさかっ……⁉︎」
聡いラフェルはその言葉に、ハッとする。
クリーネ王国のかつて国王が、獅子や虎に似た姿を持つ……神獣と契約した。
それは、神獣と共に生き、神獣と共に国を守るという契約。
その始まりこそが……。
「神獣と契約したという王は、当時の……?」
「えぇ、そうよ。神獣と共に魔王と魔族達の封印をしたのが、当時の国王。つまりは魔王妃の兄」
「そして……今でもその封印は、クリーネ王国の国王に受け継がれているのだ」
王妃の言葉に続くように、国王ジルドレットが口を開く。
国王は「本当は王位継承と共に伝えるんだがな」と前置きしながら、語り出した。
「封印措置が取られたのは、神が愛しき人を亡くしたことで狂ってしまった魔王を哀れんだからとも、巨大すぎる力を持つがゆえに倒しきれなかったからだとも言われている。とにかく、魔王達は封印され……クリーネ王国の国王となる者は封印の守り人となる。そして……」
国王の視線がゆっくりと動き、その先にいる二人と目が合う。
アニスとラスティは……ピクリッと身体を震わせた。
「代々の神獣とその婚約者は、その身を以て封印の魔力源となってきた」
『なっ……⁉︎』
アニス達は絶句する。
だが、それでも国王の言葉は止まらない。
「対として相応しい王太子が産まれるから、神獣が目覚めるのではない。封印の魔力が不足し始めると、新たな神獣が目覚めるんだ。そして、その時にいた王太子が……その神獣の、封印術式の魔力充填儀式の補佐を務める。これが、クリーネ王国の神獣と王族の真実だ」
アニスとラスティは、愕然としていた。
神獣とその花嫁は、核を残すとそのまま姿を消していた。
何故、姿を消すのかーーーー。
ずっと公にされてこなかった理由が……魔王達の封印を維持するためだったなんて。
それではまるで……。
「…………そんなの……生贄と、同然ですわ……」
全員の心の声を代弁するように。
顔を歪めたブリジットが、震える声で呟く。
国王はそれに……首を振って答えた。
「生贄と同然なんじゃない。実際に、生贄だ。この国は、神獣とその伴侶の命で生き永らえてきた。今も、だ。……魔王はまだ、その怨みを募らせているのだから」
そこでずっと、口を閉じていたレーマン公爵アドニスが「なるほど……」と呟く。
そして、鋭い視線を国王夫妻に向けた。
「それが、魔王の疑似復活……という話に繋がるのですね」
「あぁ、そうだ……ラナン」
「…………えぇ」
国王は妻の名を呼ぶと、彼女に話の続きを引き継ぐ。
王妃ラナンは大きく息を吐くと……疲れた顔を隠すことなく、再度口を開いた。
「封印術式のほんの僅かな隙間を掻い潜って……魔王達は封印の向こう側から、こちら側に干渉をしていたわ。いつか、この国を滅ぼせるようにって。そして……魔王は偶々、魔力不足で封印力が低下しつつある時期に……偶々、自分の精神を乗り移らせることができる器を見つけた。それが………貴女よ、アニス・レーマン公爵令嬢」
「…………えっ⁉︎ 私っ⁉︎」
全員の視線がアニスに集まり、彼女ギョッとしながら自分を指差す。
しかし、慌てて首を振りながら、否定した。
「いやいやいや、待ってください‼︎ 私はどこにでもいるような普通の令嬢ですよっ⁉︎」
「いいえ、違うわ。貴女は……言ってしまえば、増幅依代体質なの」
「…………増幅依代体質ってなんですかっ⁉︎」
「そのまんまの意味よ。他者の力を増幅させるだけでなく……幽霊とか他人の精神とかが貴女に乗り移りやすいの。きちんとアニス・レーマンという意識がはっきりしていれば……乗り移られることはないのだけど……精神が疲労していたり、心が折れてしまえば……簡単に貴女の身体は奪われてしまう」
「そう。だから、僕らは君の心を殺すために頑張ってたんだよ。まぁ、そこの女に邪魔されちゃったけどね」
『っ⁉︎』
諦めたような声音で、不審者……魔族の男が語る。
他の三人が彼を止めようとするが、「諦めなよ、もう詰んでるって」と返事を返して……自分達のしていたことを、明らかにした。
「理不尽な悪意に、晒されてたでしょ?」
『なっ……⁉︎』
「アレは君の心を殺そうと思ってやってたの。異常なほどに崇め祀られる幼馴染と自分の差。幼馴染と比べられて、理不尽に向けられる悪意。ついでに罪でも作って……宛ら物語の悪役令嬢のようにして断罪され、絶望するように仕組もうかとーーーー」
「貴方達のっっっ‼︎ 所為でしたのっっっ‼︎」
「ぐふっ……⁉︎」
男の言葉を遮るように、俊敏に動いていたブリジットがその腹部にアッパーをかましていた。
あまりの素早さに反応できなかったアニス達は『あぁぁぁ⁉︎』と叫ぶが、ブリジットは止まらず……男の胸倉を掴むと思いっきりその頬をぶん殴った。
「貴方達のっっっ‼︎ 所為でっっっ‼︎ アニスがどれだけ苦しんだとっ……‼︎ わたくしがどれだけ無力感を覚えたとっ……‼︎」
「待て待て待て待て待て‼︎ 落ち着け、ブリジット‼︎ 君の怒りはよく分かるが、それ以上は死ぬ‼︎ ブリジットの物理力は騎士をも殺すんだから、止まれ‼︎」
「ブリジット〜っっ‼︎ 落ち着いてっっ⁉︎ 大丈夫だからねっ⁉︎ お願いだから、ストーップ‼︎」
「なんで俺らより漢前なんだよ‼︎ というか、口より先に手が出ちゃうのは、止めろ‼︎ 怪我するだろ⁉︎」
ラフェルとアニスが、息を荒くするブリジットに抱きついて止め……ラスティが魔法で両方の怪我を治していく。
そんな過激すぎる幼馴染〜ズ(というか、ブリジット)の姿に……親達(と魔族他三人)は若干引き気味だった。
「…………ラナン。君がアニス嬢の心が折れないようにと、人間関係の構築やら何やらに気を使っていたのは知っているが……これはちょっと、やり過ぎでは?」
「そ、そうね……前はラフェル達の関係が淡白だったから、少しでも仲良くなってくれたら手を回したけど……ちょっと(?)過激になったわね……」
「……あらまぁ。ラナン様がわたくしに子供に対する接し方を熱心に説いていたのも……そういうことなのかしら?」
「………え、えぇ……そうよ……」
その呟きに反応したカティに、ラナンは後悔を滲ませた顔をしながら頷く。
あの最悪の未来では、幼馴染達の関係性はとても淡白で……幼馴染であれど、どこか一線を引いたような、義務的な付き合い感があった。
アニスの家族も貴族らしく……その関係性は可もなく不可もなく、淡白なもの。
そんな誰にも頼ることができない状況下で、魔族達は理不尽な悪意に彼女を晒した。
ブリジットと比べられる日々。
謂れのない中傷と、侮蔑。
助けを求めることもできず、ただ一人で耐えて。
そして……事が起きてしまった。
あの未来ではアニスは王太子の婚約者、ブリジットは神獣の婚約者のままで迎えた……今日。
パーティーに紛れ込んだ不審者にブリジットが襲われたことを皮切りに、アニスの捏造された罪がどんどんと露わになっていった。
そして……比べられることでブリジットへの恨みを募らせたアニスが、神獣の婚約者を殺そうとしたとされて。
…………神獣の婚約者の殺人未遂という冤罪で、アニスは断罪された。
「…………ラナン様?」
カティは顔色が悪い王妃を心配そうな顔で見つめる。
ラナンはその視線を受けながら……子供達には聞こえないほどの声の大きさで、告げた。
「……彼女の心が壊れないよう、魔王にその身体を奪われないように行動していたわ。けれど、それはあの未来を回避するためであるのと同時に……贖罪のためなの」
「…………贖罪?」
「さっき、あの男が言っていたでしょう。わたくし達は、全員……魔族達の捏造した冤罪を、信じてしまったから」
王妃は罪悪感からそれ以上語れそうになかったが、既に充分だった。
アドニスとカティには……それだけで察してしまった。
「…………あぁ……そういうことですか。未来の我々もまた、同罪だったのですね」
「………あの子達が騒いでて良かったわ。こんな話、聞かせられない」
全員というのは、アニス以外の全ての人を指し示すのだろう。
つまり……国王夫妻や、レーマン公爵夫妻だけではない。
…………幼馴染達も。
訪れるかもしれなかった未来の話であれど……互いが互いを大切にしているアニス達に、そんな残酷なことを伝えられるはずがなかった。
重い沈黙が大人達の流れる。
…………その沈黙を破ったのは、国王ジルドレットだった。
「……………ラナン。今は罪悪感で動きを止めている時ではない」
「……えぇ、分かってるわ」
「君が言った通りに、アニス嬢に冤罪を着せようとする魔族達は捕まえた。この後は、どうする?」
「…………今の彼女の心は、折れることがないと思うわ。だから、魔王の復活は阻止できたも同然と言えるでしょう。けれど……」
アニスの心を守ることで魔王の復活は阻止できても、封印の魔力不足という問題は解決していない。
………神獣とその伴侶を生贄にするという問題は残ったまま。
ラナンが知っているのはあくまで訪れる未来で、封印術式のことは詳しくないのだ。
結局、今の状況は手詰まりと言っても過言ではなかった。
しかし、それを解決する術は…………その存在によって、齎された。
『皆さん。迷惑をかけて、ごめんなさいね』
『っ⁉︎』
その言葉はあまりにも唐突で、あまりにも意味が分からなかった。
全員の驚愕に染まった視線が、彼女に向かう。
……口を開いたのは……さっきまでブリジットを抑えていたアニスだった。
けれど、その声はアニスのモノではなく。
ブリジットに抱きついていた腕を離した彼女は……凛と立ちながら申し訳なさと悲しさを滲ませながら微笑む。
そして………。
『これ以上ご迷惑をおかけするのは忍びないのだけど……ちょっと殴り込みのお手伝いしてくださらないかしら?』
一転して、にっこりっ(何故か背後が黒く見える)と笑いながら……かなり斜め上すぎる台詞を言い放った。




