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赤い服を着た悪魔の贈り物  作者: さめもらきん


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羽の無い天使

「ブランさん!」


2人は同時にその名前を呼んだ。

ちょっとした有名人に会ったような、不思議な気分だった。


「今日ここに来た子達だね。ようこそ、いらっしゃい。ここはね、私の趣味でやっているお店なんだよ。不定期でね。最近は開けてなかったけれど、今日はもしかしたら誰か新しい子たちが来るかなと思ってね。来てくれて良かったよ。」


「全部、じいさんが昔作ったレシピを、今は僕がお手伝いとしてここで作ってるんだよ。じいさんには昔お世話になったからね。でも僕も別の仕事があるから、毎日はオープンできないんだ。紅茶も、じいさんが人間界で探し回ったこだわりの物なんだよ。」


ランチもあって、街の長がいるお店だというのにお客が少ないのは、いつオープンしているかが分からず、最近はほとんど閉まっていたからだ。

これだけ美味しいのになぜだろうと感じていたノエルは、その理由に納得した。


「ゆっくりしていくといいよ。」

優しい笑顔でそれだけ言うと、ブランはまた背中を向けた。


その背中には、羽が無い。

椅子には羽織がかけてある。

説明会の時に羽が無い事に気付かなかったのは、これを羽織っていたのだろう。


「ブランさん!あの、羽…いや、ノエルって言います。ハンバーグ、美味しかったです!」

羽が無い事を聞こうかと思ったが、突然聞くのは失礼かと思い直した。

羽の無い天使。悪魔の中では見たことが無い。


ブランはゆっくりと振り返り、ニコリと笑った。

「ノエル。羽が無いのが気になるかい?老化でね、羽が抜け落ちてしまったんだよ。飛ぶことはできないけれど、洋服が引っかからずに着られるから楽なもんだよ。紅茶とデザートもゆっくり楽しんでおくれ。」


ブランはノエルの気持ちを察して、羽が無い理由を教えてくれた。

老化。

羽を無くす方法があるなら染めなくてもいいのではないか、と安直な考えを浮かべていたノエルはそんな自分に苦笑いをしながら、ブランにお礼を言った。


「ノエル、紅茶冷めちゃうよ。ケーキもとっても美味しいし、早く食べなよ。」

「うん。そうだね。美味しそう。いただきます。」

いつの間にかデザートに手を付けていたニコに合わせるように、急いで口に入れた。



「ごちそうさまでした!本当に美味しかったです!また開いている時に来ますね。」

「うん、ありがとう。不定期で分かりづらいから申し訳ないんだけど、また来てくれたら僕もじいさんも嬉しいよ!」


そう言いながらレジに移動すると、ブランも「ありがとうね。」と言いながら席を立った。

お見送りをしてくれるようだ。


「じゃあ、2人分で1,500コインお願いね。」

金額を聞いて、ノエルは一緒に払うよ、とニコに言いながらシルバーのコインを取り出した。


「あれ、このコイン…なんだろう。」

タイラが不思議そうにコインを眺めている。

ノエルには何がおかしいのか分からない。


「あ、ノエル!この間、人間界で拾ったコインじゃないのこれ?ちゃんとルクスコインが入ってるお財布置いてきちゃったんじゃない?私出しておくから!」

普段よりも早口でニコが話を進める。


…ルクスコイン。


そうか。天使と悪魔では使うコインが違うのか。

ノクスでは、銀色のノクスコインを使っていた。

ノエルはそれに気付いた途端、冷や汗が噴き出し、下手な事を言わないようにと作り笑いでノクスコインを急いで掴んだ。


「外のコインは珍しいからね。私も昔よく、人間界で落ちているコインを拾ったりしたもんだ。タイラ、2人の分はイシリアルへの入社祝いとして私が払うからいいよ。」


ニコがお財布を取り出す前に、ブランがタイラにそう告げた。

一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちのノエルは、一瞬遠慮するべきか迷ったが、すぐにお礼を言い、ドアを開けた。


「ブランさん、ありがとうございます。次はお財布忘れずに持ってきます。ごちそうさまでした!」

「私まですみません、ありがとうございました!美味しかったです!」


そうして2人は、足早にお店から離れた。



「じいさん、相変わらず優しいね。新しい子たちがくると楽しそうだ。そのまま元気でいてよね。」

「ああいう子たちが来ると、昔を思い出すんだよ。若さはいつまでも楽しませてくれるね。特にあの2人はこれからが楽しみだよ。」

お店を去っていく2人を懐かしそうに眺めながら、ブランは優しく微笑んだ。




「びっくりした!ルクスコインはゴールドなのよ。私もノクスコインなんて見たことないから、まさかコインが違うなんて知らなかった。」


「ごめん。なんにも考えてなかった。不審に思われてはいない感じだったね。これから気を付けないと…。」


「うん。多分、不思議には思ったはずだけれど、疑いとかはないはず。大丈夫。それよりもイシリアルのお給料が入るまでは、コインが無いね。私、それなりにコイン持ってるから後で貸すね。」


「ありがとう。一人で行動していたら危なかったよ。本当にありがとう。他にも何か違うものってあるのかな。食べ物とかそういうのは大丈夫そうだけど、不安だな。」


「私も今思いつくものは無いけれど、一つ言えるのは、天使たちの反応がおかしかったらすぐに言い訳するか、嘘をつけば大丈夫だと思う。追及はしてこないよ。」


ノエルは天使特有の性格に感謝しながらも、これからの生活で何度も遭遇するであろう危機を想像した。



2人はその後、しばらく街を見て回った。

コイン以外には違いが見当たらず、なんとか普段の生活は過ごすことができそうだという事が分かった。

ルクスにもノクスにも無い、この街だけのお店もいくつかありニコは満足そうにしている。


「ある程度街を見る事ができたし、僕は疲れたからもう帰ろうかな。ニコはどうする?」


「私はもう少し見てから帰ろうかな!また明日ね。」


「うん。また明日。」


ノエルは部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

寝るにはまだ早い時間だが、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたようだ。


明日からはイシリアルでの研修が始まる。

いよいよ、本格的にサンタクロースの仕事に関わる事ができる。

これから先の事を考えて不安と希望が混ざった感情のまま、眠りについた。



ノエルはその夜、はじまりの木の下でニコとクリスマスの絵本を読んでいる夢を見た。


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