第19話 皆でお風呂
自己紹介を済ませ、キャンピングカーの中にアーシャを招き入れる。
彼女は車に驚きつつ、興味を持って中を見て回っていた。
「へー、こんな風になってるんだ……馬が引いてるわけじゃないのに動いて、面白いものだな」
「チドリさんの能力なので。チドリさんは凄いので!」
何故かルキアが偉ぶってキャンピングカーの凄さをアーシャに伝える。
アーシャは本当に楽しむようにしてルキアの話を聞いていた。
「凄いんだね、チドリは」
「そんなことないよ。凄いのはキャンピングカーだし、それにリリルもシャルもルキアも凄いんだから」
「そうなの? じゃあ戦ってみたいものだな」
「ひっ! 私は戦いは不得意だから! 戦闘はチドリさんとシャルさんが専門です」
「ならボクと戦ってくれないかな? もっともっと強くなりたいんだ。そのために強い人と戦いたいんだよ」
呆れる私とシャル。
理由も無く人と戦うような真似はしたくない。
私たちはアーシャと違い、強さにそこまで固執しているわけではないから。
「申し訳ありませんが、決闘はできません。貴族としてそう易々と勝負事に応えるわけにはいきませんから」
「そうなんだ……残念!」
「なんでそんなに強くなりたいかな……あ、怪我してる。私がちょちょいと治してあげるよ」
何故そんなに強くなりたいのか、ルキアも気になったようで訊ねるが……アーシャの肘あたりから血が出ていることに気づき、魔術で治療を始める。
「おお、怪我を治せるんだ。ルキアは戦いは得意じゃないけど、治療が得意なんだな」
「でへへ。もっと褒めてくれてもいいよ」
「……おかしいな」
「ですわね。ルキア様はもっととてつもない回復力があるはずですのに」
ルキアの手から溢れる優しい光。
それはアーシャの傷を癒しているが、しかし彼女の力はそんなものではない。
「そういえばそうかも……私、もう少し回復力高かったよね? もしかして……弱体化した!?」
「そんなこと無いなの。ルキアのスキルが関係しているなの」
「私のスキル……って、どんなの?」
自分のスキルを把握していなかったルキア。
ゲーム内だったらスキルはを簡単に確認できるのだが、現実では自分の能力を知ることは容易くないのだろうか。
実際ルキアだけではなくシャルも自分のスキルを知らないようだ。
「リリルはわたくしたちのスキルが分かりますの?」
「分かるなの」
「はー、そうですのね。なら最初から聞いておけば良かったですわ」
「リリルは役立つ能力をいっぱい持ってるよね。可愛い上に有能だなんて、流石はリリルだよ」
「えっへんなの」
頬ずりをしてくるリリル。
嬉しそうな彼女を見て、私もまた嬉しくなる。
「それで、二人のスキルは何?」
「ルキアのスキルは【ブレイブ】なの」
「【ブレイブ】……なんだか勇ましくて私らしくない!」
リリルに教えてもらった自分の能力に対して否定的なルキア。
まぁ戦う勇気がまったくない子だからなぁ。
「【ブレイブ】は勇気の高まりと一緒に、魔力も大きくなるなの」
「そういうことですか。ではルキア様は普段からあの力を発揮することができないということですね」
アーシャの傷を癒したルキアは、自虐的に笑っている。
自分でコントールできないスキル。
もう笑うしかないかもね。
「シャルのスキルは【流水】なの」
「【流水】! なんだからシャルに似合うスキル名だね」
「そんなこと……でも素敵な名前ですわ。後はどうやって扱うかですわね」
シャルがリリルにスキルの詳細の説明を受ける。
するとアーシャが私の方に振り向き、歯を見せて笑いかけてきた。
「ちなみにボクのスキルは【闘気】。強そうな名前だろ?」
「あー、アーシャにピッタリかも」
「だろだろ? 今すぐにでも見せてあげようか?」
「後でいいや。モンスターと戦ったばかりだし、休憩した方がいいでしょ?」
「休憩何ていらないよ。戦えば戦うほど強くなる。四六時中戦いたいぐらいさ」
親指を立ててそんなことを話すアーシャ。
どこまでも強さを求めるような、そんな子なんだな。
「そういえば、何か匂いませんか?」
「匂い……そういえば匂うかも」
シャルの言葉に、確かに匂いが気になり始める。
車の中で変な匂いはしてなかったはずなのに……なんだろう。
私とシャルが鼻を鳴らし、その正体を突き止めようとする。
するとアーシャが自分の体を嗅ぎだし、ヘラヘラと笑い出す。
「あはは。ボクかもしれないね。訓練続きで、一週間ほど水浴びをしてなかったよ」
「一週間……」
シャルが全身に寒気を覚えるように全身を振るわせる。
まるで黒い物体を見た時みたいな反応だ。
私も風呂をキャンセルする時もあるが……流石に一週間入らなかったことはないよ。
「不潔ですわ! すぐに体を洗いに行きましょう!」
「別にいいよ。汚くても死ぬわけじゃないし――」
「ダーメ! ですわ! さ、こちらにいらして下さい!」
ギンギンになったシャルの目。
どうやらシャルは潔癖症みたいだ。
そういえば、助手席なんかよく拭いてるしな。
「え、ちょ……どこに行くのさ」
「いいからついて来て下さい」
シャルは鼻をつまみながら、アーシャの服の袖を引っ張る。
そのまま地下室まで移動し、すぐ左手の部屋の扉を開ける。
「ここって……何?」
「ここはお風呂ですわ。さぁ、入りますわよ。服を脱いでくださいませ」
レベルが上がったことによりいくつか解放された能力。
その中の一つが、【メイク】というものだ。
キャンピングカーの地下にある部屋を自由にカスタマイズできる能力で、ここにはお風呂場を作った。
扉を開けた先には、銭湯のような大きな脱衣所が広がっている。
服を置くための脱衣カゴがいくつも並んでおり、中央には皆で座れる大型の腰掛。
扇風機も回っており、暑くなった体をここで冷やせるというわけだ。
アーシャはシャルの鬼気迫る表情に怯えつつ、服を脱ぐ。
私とルキアとリリルもついでに風呂に入ることになり、一緒に脱衣して風呂場へと向かう。
風呂場に入るとかけ流しの湯がすぐ眼前にあり、左手にサウナ室、右手には水風呂、それから水風呂の隣には電気風呂が備えられている。
サウナ室の横には洗い場があり、そして入り口と逆方向には大きな湯舟があり、壁には大きな山の絵が描かれているのだ!
まさにザ・銭湯といった作り。
私好みで創ったのだが、皆も気に入ってくれているらしく、毎日一緒に入っていたりする。
「暖かい……え、何これ? 地下があるのにも驚きなのに、どうなってるのさ!?」
「これがチドリ様のスキルですわ。そんなことよりさっさと体を洗いますわよ」
「あ、ちょっと!」
アーシャはシャルに強引に引っ張られ、洗い場に連れて行かれる。
そしてシャルはシャンプーを手で泡立て、アーシャの頭を洗い出した。
「わ、わわわ、え、どうなってるのこれ?」
「これは『シャンプー』という物です。チドリ様が用意してくれた、体を清潔にするものですわよ」
「おおお、気持ちいいかも」
そのまま体までシャルに洗われ、ご満悦な様子のアーシャ。
風呂を気に入ってくれたのが、なんだか嬉しいな。
「うん。これで綺麗になりましたわ。不潔は世界の敵なので、よーく覚えておいてくださいませ」
「分かったよ。これからは一週間に一度は入るようにする」
「ま・い・に・ち! 体を洗いましょう!」
「ひっ! なんだか怒らせるとシャルは怖いなぁ……」
シャルに怯え、尻尾をピンッとさせるアーシャ。
姿勢を正す彼女が可愛らしく思え、私はクスクス笑う。
それから全員が体を洗い、湯舟に浸かる。
その極楽具合に皆が気持ちよいため息を吐き出し、とろけるような表情を浮かべた。
「ああ……すごくいいものだね、熱いお湯って」
「わたくしもお風呂なんて知りませんでしたから、感動したものですわ」
「最高だよねぇ。このままここで寝てもいいぐらいだ」
「ルキア。こんなところで寝たら溺れ死んじゃうよ」
「それはダメなの。一緒に生きて、一緒に暮らして行かないといけないなの」
あまりの気持ちよさに、全員の言葉数が少なくなる。
この世界にはお風呂が無いらしいが、こんな風に作れる能力があって良かった。
風呂無しの生活なんて、考えられないもんね。
「アーシャってさ、なんでそこまで強くなりたいの?」
「まぁ理由が無くもないんだけどね」
アーシャは赤い顔をしながら、拳を天に突き上げるようにして話の続きをする。
「犬族には試練があるんだ。一人前と認めてもらうための試練がね。それをクリアするために、ボクは特訓を続けているんだ」
「ふーん、大変なんだね。私には何の試練も無いから気軽なものだよ。旅をしてゲームをして風呂に入って……ああ、極楽極楽」
アーシャが強くなりたい理由は分かった。
でもそんなことよりも風呂が気持ちよすぎて、皆はそれ以上何も言わなくなってしまう。
いやー、お風呂の魔力って凄いなぁ。
何時間でも入れてしまう、そんな気分だよ。




