153話 次期国王選出
マーリンの部屋を出る際マーリンは手を振ってこちらを送り出す。あの笑顔に、なんだか狂気的なものを感じるがきっと気のせいだろう。さてこの後はアルトリウスの用事だ。一体なにをするのかはわからずじまいだが。
「次期王の推薦までまだ2日もありますから、二人は休んでいてください。もちろん、この城で行われる推薦会に列席してもらって構いません。それと部屋は私の部屋をお使いください。広いので、ちょうど良い大きさかと思います」
「二人で?」
するとアルトリウスは急にそっぽを向いて顔を隠し口ごもりながら喋る。
「その…二人の仲が…良さそうなので。ほら、さっきのとか…」
思い出そうと斜め上を覗くもそこに記憶の引き出しがあるわけでもない。何も思い出せずに考え込む後ろで、ベリッシは片目を隠して頭を左右に振っている。なんとも忙しい動きである。生身の瞳を手の平で覆うと先ほどの美麗な魔眼で世界を堪能する。
そっぽを向くアルトリウスも二人のその姿に言葉を失いそれ以上何か補足しようとはしなかった。
「と、とにかく! 部屋は私の部屋を使ってください。広いので分けて使えるので。中の部屋は寝室と別れているんです。」
そうしてアルトリウスが案内してくれた一室に、アリアとベリッシは腰を下ろした。この一室だがこれだけで一般的な農民の一軒家に相対する大きさである。
だだっ広い無料の宿は、あまりにも落ち着かない。城に住んでいる人間はこれが普通なのだろうが、庶民感覚のアリアにはただただソワソワするだけだった。だがそれもすぐに治る。
床に手を付いて座っていたのだがバランスを崩してしまった。何事かと思うと片手に力が入らないことに気がついた。右腕に微かな痺れを覚えるがそれだけだ。それ以外、何も感じ取れないし動かせもしない。
今までは動かせていたのに突然糸がちぎれたかのように動かせなくなった。
魔力が切れた。いや、切れたのは集中力の方だろう。意識していないとはいえ、常に張り詰め寝ている最中すら魔力を循環させ続けている。眠りの中ですら緻密に魔力の操作をしているのだから突然スイッチが途切れても無理もないだろう。それに戦闘などの最中でなくてよかった。なんでもない日常の一幕でしかないこの瞬間に途切れただけマシだ。
そのままごろんと寝転がり天井を眺める。シャンデリアも描かれた模様も豪勢で、文字通り住む世界が違っていた。
(アルトリウスは、俺たちとは見ている世界も違うのかもな。知らないことだらけだな。あいつのことも、ベリッシのことも)
些細なことで人は気が付く。自分の未熟さにも無知さにも。アリアは何も知らない。それは世界に対しても仲間に対してもだ。あまりにも知らない。それを知覚しただけ、成長した証なのだろうか。
(考えてもしょうがない。もう寝よう。悩みは寝て解消するもんだしな)
すると床に寝転んだまま瞳を閉じた。何故なら、ベッドは既にベリッシが占領しているからだ。魔眼に慣れていない彼女は、それはもうとてつもなく体力を消耗するようでこの部屋に着いた頃には、クタクタになっていた。「絶対覗かないでよ」という言葉を言われてしまったアリア。そもそも覗くつもりも理由もないのだからそれに釘を刺される必要など無いが。
そうこうしてアルトリウスの好意に甘えていると、次期国王の推薦会の日がやって来た。城の中は静まり返っており誰かが歩く音すらしていない。どこでその推薦会が行われているかはわからないが、とりあえず歩いて確かめる。すると自ずと見つかるだろう。
などとそんな甘いことは起こらず、歩き回って迷い回ってようやく賑やかな音の聞こえる大きな一部屋を見つけた。ここまで高く、また大きな扉が必要なのか。そんな疑問が湧いて出てくる扉を開くと、中には沢山の人がいた。
真ん中に円卓があり、そこには髭を携えた老人や見事に染まった白髪の老人など、意思決定権を持っている風貌の者が15人座っていた。それを取り囲むように、人々が集まっている。
その中には、銀色の女騎士や暗く痩せた男の騎士もいた。そんな厳かな面々の中でも良く知る顔を探そうと極力足音を殺して動く。ここでもまた回って探すと、今度は素早く見つけた。アルトリウスだ。人だかりの一番後ろで立ち尽くしていた。
「これはどうなってるの?」
ベリッシが耳打ちをする。
「元老の方々が誰を王にするかを話し合ってるんです。候補にある人間は近づけないよう、人だかりで壁を作っているんです。候補が自分に有利に事が運ばないよう、その対策です」
「するってえと、アルトリウスも候補の一人なのか。やっぱり君も候補なんじゃないか」
「あくまで候補です。私ではないでしょう」
どうやら、アリアたちは良いタイミングでこの会場に来たらしい。くだらない話し合いが目の前で終わりを告げると円卓の内、上座に座る推定最高位の元老が立ち上がる。
「元老の意は決しました」
そう一言、言葉を切って勿体ぶる。必要の無い間だとアリアは思った。
「次期国王には、泉の騎士ランスロットを選出する」
どうやら民主国家の原則は守っていないらしく、反対意見に耳を貸さないどころか聞くことすらしなかった。
ランスロットが誰だかわからないが、これだけはわかった。アルトリウスの心だ。
淋しい表情でありながら、どこか他人事のよでもある表情。その仮面の内側は、きっと悔しさが渦を巻いているのだろう。
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