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154話 次期国王選出②

「それではランスロットよ、こちらに」 


 スラッとした体躯にポニーテールの黒髪。ランスロットと呼ばれた青年に、円卓の周りに集まっていた者どもは道を作った。他の騎士よろしくランスロットもまた、甲冑を身につけている。だが着崩しているかのように大部分の防具を外している。その際たる部位が、胸当てだ。剣は身に付けているのに肝心の防御が疎かである。

 アリアのような庶民的な布のズボンに腰布を付けていた。上半身は、右は肘から指先までアームガード型の防具を身につけ左は手甲のみを付けていた。右の方には布を巻きつけ縛り付け、アームガードの存在を隠しているようにも見える。半端に長い腕に巻く布が歩くたびに振動で揺れる。

 円卓の前に立ち進んだランスロット。その後ろで、白く長い髭をつけた老人が言う。


「我々元老は、この青年を次期国王に選出することに決めた」


 どこを見ているかわからない鋭い目つきでランスロットは佇む。何を考えているのか分からないその表情と振る舞いは、王としてはとても不吉で不気味だった。


「お待ちください元老の方々。我々とて、ランスロットが崇高な騎士である事に異論はございません。ですが、正当な王家の血筋を持つ者こそが王に相応しいとは考えませぬか?」

「元老である我々の決定に不満が? 我々はお前達の数倍も生きておるのよ? 知恵も経験も敵わぬお前達の意見など、聞くには値しない」


 椅子に座ったままの老女が、人々の作った道から顔を出した銀色の騎士に毒付いた。けれど銀色の女騎士は極めて冷静に言葉を返した。


「ええ、それはわかっておりますとも。ですが、王家は代々血筋に受け継がれて来ました。国を治めるには手腕と才覚が必要でランスロットはそれを備えております。ですが、決定的に足りていないものがあります。それは王家の血です。代々の歴史を絶やすつもりですか?」

「君、自分で答えを言ったじゃないか『大事なのは手腕と才覚』と。よもやランスロットはそれを備えているともね。国の土を耕すのに、小さな歴史は必要あるまい」


 歯噛みするかのようにガウェインが言葉を失った。少々苦しいことを言っている自覚があったようでそれを言葉に直されたことで何も言えなくなったのだ。


「死した老人共に国の未来を決めさせてなるものか。我々で決めるべきではないか? みなはどう思う」


 深く、暗く、そして黒い騎士がそう発言した。どこから聞こえた声だ。とてもよく響いた声なのに出所が掴めない。人だかりの中で、アグラベインがそう言った。”死した老人”その言葉に憤慨した元老は多かったが、真に知恵あるものは静止した。そして、集まったみんなに最後を委ねた。

 様々な意見が飛び交った。

 王家の血筋が国を治めるべきか。

 ランスロットとという若く、そして賢明な騎士が国を治めるべきか。

 隣人同士で議論が白熱していく。そうして総意も決まる。末に出た結論。それは、次期国王はランスロットにするべきという結果だった。

 もちろん、アルトリウスを支持する声もあった。だがそれはランスロットを支持する者らの、混ぜ合わさった声によってかき消された。

 ある者は、ランスロットは聖剣を抜剣できると言った。ある者は、ランスロットは万民の騎士を育てられると言った。

 アリアとベリッシはあの青年のことを知らない。何処までが本当で何処からがフィクションかは分からない。それでもはっきりしているのはランスロットという青年が圧倒的な信頼を持っているということだった。

 徐々にランスロットを支持する者が増えるとアグラベインとガウェインは自らの行いを悔いた。高い忠義が仇となったのだ。


「意は決したようだ。私が次期国王で異論は無いだろう。ガウェイン卿、アグラベイン卿。残念だが貴方たちの企は破綻したようだ」

「やはり話し合いなど不要でしたのね。我々元老の意思に反抗しようとは。恥を覚えるといい」


 そんなことを喋くる老人を軽蔑も何も含まない視線でちらと見るランスロット。


「どうしたものか。やはり、元老は解体した方が良さそうだ」


 その一言に、円卓を囲んでいた老人たちは凍りついた。それまでの雰囲気がぶち壊しである。


「とまあ、これから私がやることはみなの為になる事のみだ。そのために、私は決断する果敢な王となろう。これで、私が王になることに異は無いのだな?」


 ランスロットがそう聞くと集まった人々は声を上げた。それは歓声だった。そんな中、一人孤独に部屋を出ていく者が居た。アリアの良く知るその後ろ姿は、追いかけない理由がなかった。

 そうして部屋の外に出たアルトリウスは背後から声を掛けられるその前に自分から口を開いた。


「期待していなかったと言えば嘘になります。本当は、少しは、私を支持してくれる声もあると思ってました。ですが、私には、この輝く聖剣(エクスカリバー)を抜剣することは出来ません」

「アルトリウスを支持する声も少なからずあったよ」

「そうだよ。あなたのことが相応しいって言ってる人も結構いたよ?」

「わかってます。だからです。その期待に答えられない。それが、悔しいのです」


 自身の裾を掴んで握るその手は震えていた。


「ガウェインもアグラベインも、私のために、ああしてくれたのに。結局私は、二人の信頼を壊して、期待にも応えられなくて、落胆させてしまった。どうしようもないよ…」


 そこまで言うと、アルトリウスは手に込めていた力を抜いてだらんと腕を伸ばした。しっかりとした足取りが今は危険に感じた。今はその心と同じようにふらつきながら歩いて欲しかった。あの一歩一歩踏みしめるような足は、自身の意思があることを意味している。それ故、彼女には今何を言っても届かない。


「たぶん、また2日後に、戴冠式が行われます。貴方達は出席してください。私も、強制でしょうから。これ以上、私を信じさせたくありません」

「アルトリウス。君は、王様になりたいの? それは、どんな王様なの? それは、ただ期待に応えたいだけなの?」

「………どうでしょうか」


 そう言った背中は、もう追いかけられなかった。

読んでいただきありがとうございます!

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