12話
孤独に打ちひしがれていた場所から移動を開始し、それなりの距離を行った所で、こんなにも離れた位置関係だったかと疑問が浮かんだ。
フリンギラの家からアリアの家まで、長い間移動する必要はない。詳細なメートルがわかっているという事ではないが、それでもこんなに疲れる距離でないのは、確かだ。アリアの足が短く、一歩が小さいからそう感じているわけではない。
「はぁ、疲れた。一旦休憩挟もう」
「うん? じゃあ少し止まろうか」
曲げた膝に手を置いて上半身を支えると、深く息を吸っては吐いてを繰り返す。身体中に新鮮な酸素を供給し、使えなくなった古い酸素を体外に排出する。次第に呼吸のリズムは安定していき、はぁはぁと絶え絶えの息継ぎも聞こえなくなってくる。
だいぶ落ち着いた呼吸に対して、全体の疲労感は除れない。このままここで横になりたいとも思うが、ここに骨を埋めるつもりもないので、あとほんのちょっと休んだらまた進もうと考える。
やや前方にいる端正な顔つきの協力者は、アリアを見て言う。
「残念だけど、まだまだ遠いから覚悟した方がいいかもね」
「えぇ…。そんなに遠くない距離だと思うんだけど。もしかして遠回りしてるの?」
「君がテキトーにぷらぷらしてたせいでまったく別の道を歩いてたんだよ。自分の首を自分で絞めてたんだよ? でも安心して、私が帰してあげるから!」
黒いローブの中から腕を出して、胸のあたりに握り拳を作る。だが残念ながらローブのその下を覗く事は出来ず、腕しか見えない。
肘から半分ほど下の露出した肌は、健康そうとは言えない色をしていた。血行の良い鮮やかな肌色ではなく、かなり白い。
バンパイアのように真っ白な肌は、文字通り血の気が感じられない。
(白っつか青いんだけど、もはや。いや今そんな事考えてる暇じゃねぇ!)
「肌、青いって思ってる? あんまり家から出ないから、太陽に当たらないんだよね。我が家は、そこそこ鬱蒼とした場所にあるし」
視線がバレていたらしい。全くもってその通りのことを考えていたが、誰でも目がいくだろう。故にアリアはたじろがない。ちゃんとご飯を食べているのか心配になるオカンの気持ちが、今ならわかるかもしれない。
「休憩終わり! そろそろ出発しよう」
片方の手を差し出して、アリアの立ち上がりを手助けしようとする。いつの間にか地面に座って足を伸ばしていたのか。
差し出された手の平を握ると、力を込めて、けれどもアリアが倒れない程度の配慮ある力加減で引っ張る。
「そういえば、聞いていなかったけれど、名前を教えてちょうだい」
「うーん、今は、ダメ。でもいつか教えるよ」
「ええー、じゃあなんて呼べばいいの?」
「お兄さんでいいよ。ほら、さっきもそう呼んでいたでしょ」
そう言われても、お兄さんと呼ぶのは、何故か気恥ずかしい。理由はともかく、お兄さんとそう口に出すのが恥ずかしかった。が、お前と言ってタメ口を使うのは、一瞬で頭おかしいとわかる奇行である。諦めてお兄さんと呼ぶことにしよう。
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