剣士の魔剣
助けを呼ぶ声は女性の物だった。
今の時代、女性探索者というのも珍しい話ではない。
誰でも才能の有無によって戦う力を得る事ができるのだから、女だろうが子供だろうが戦力として軽んじる事はできない。
しかし、問題はそこではなく、その人物が魔物との戦闘中に助けを呼ぶほどの危機的状況に陥っているという事だ。
探索者は基本的に他の探索者を助けるというルールがある。
ダンジョン内の事は外の人間には分からないから、あってない様なルールではあるけれど、皆が命を掛けているからこそこういうルールは比較的守られる傾向にある。
俺は声の咆哮へ走った。
そこに居たのは折れた剣を構える少女と、それを取り囲む複数のモンスター。
それもシャドウウルフとホーンラビットの混合パーティーだ。
「逃げるよ!」
「え、あ、はい!」
俺は少女に即座に声を掛けて、その手を握る。
あの剣では戦えないだろうし、俺の魔剣ももう斬弾が少ない。
魔力切れで気絶なんてしてる余裕もない。
だから、取れる手段は逃走一択だ。
もし俺に全ての魔物を倒すようなヒーロー的な事を期待しているのなら、さっさと夢から覚めてもらうしかない。
俺にはそんな力はない。
販売リストは俺が願えば出現する。
その中の一つである魔石(雷)を購入する。
この魔石の使い方は簡単。
まずは魔力を込める。
そして、それを相手に投げる。魔力を込めてから五秒後に爆裂し、属性ダメージを周囲にまき散らす。
魔法版の手榴弾だ。
手早くそれを魔物が集まっている場所、俺たちの逃走路と魔物の間に設置するように転がした。
魔石に警戒信を抱く事は無かった数匹の魔物が一気に電撃を浴びて絶命した。
しかし、数はまだ7匹程残っている。
霊力も全て使い尽くし、俺に取れる手段はもう魔剣だけ。
それも後4回程度しか使えない。
だから逃げるしかない。
「グルラァ!」
しかし、逃がしてくれる様子は無さそうだ。
仲間がやられたからか、一層殺気だった魔物群れが少しづつ加速しながら追いかけて来る。
このままじゃ追い付かれる。
仕方ない。
俺は止まって振り返る。
ギリギリまで惹きつけて魔剣を振るった。
舞った炎が、魔物の群れを焼いていく。
これで数秒は稼げるだろう。
「行くぞ!」
「はい!」
もう一度彼女と一緒に走り始める。
このダンジョンの地図は頭に入っているから迷う事は無いが、出口は逆側だ。
遠のく出口に苛立つが、それでもこの子を助けられた事は幸いだった。
けど、今は出口や善行の話じゃ無く、状況の打開案を考えるべきか。
魔剣で稼いだ時間も何れ追い付かれる。
基本的な速度で圧倒的に負けているのだ。
魔剣が有ろうと、逃げ切れる手合いじゃない。そもそも相手は四足でこっちは二足だ。生物の構造的に負けるっての。
一つ、案が思いついた。
俺はそれを実行するか悩みながら、隣を走る彼女を見た。
全身を和装に包み、けれど動きやすい構造の服。
武器は折れて居るが刀、黒髪のポニーテールは如何にも武道をやっていますと思わせなくもない。
何より、掌に潰れた肉刺が幾つか見える。
俺に取って魔剣はただの火炎放射器だ。
けど、彼女なら、もしかすると俺以上にこの魔剣を扱えるかもしれない。
そうじゃなくても魔力の節約にはなる。
「俺の代わりにこの剣を使ってあいつらを倒してくれ!」
「え、え?」
「頼む。今はそれしか方法が思いつかないんだ」
「けど、これって結構な値打ち物なんじゃ……」
「今はそんな事よりこの状況の方が重要だ。この剣は魔剣で、魔力を込めて振るったら炎がでる。あんたなら、使い熟せるんじゃないのか?」
俺の切羽詰まった表情に、彼女も意思を固めたのか頷いた。
よし。
俺は魔剣を彼女に渡す。
受け取った彼女は、足を止め後ろを向いた。
「一刀流、滝斬り」
それが何か知らないが、横一線に振るわれたその剣から広がった炎は一気に広範囲へ広がり、魔物たちを焼き尽くした。
けれど、やはり後続には届いていない。
だが、彼女はもう一度連続して同じ技を使った。
引き付けられる限界を見極め、ギリギリのタイミングで剣を振るう。
それによって、一度の斬撃で数匹の魔物が灰と化していった。
強すぎるだろ。
「そんな強いのに、なんでこの程度の階層の魔物にやられてたんだ?」
率直な疑問だった。
彼女の剣技は素人の俺にも分かるほど洗練された物だった。
その実力なら、比較的難易度の低いこのダンジョンなら踏破すら可能なのではないかと思ってしまう。
「それが、不良品の剣を掴まされまして。費用をケチったツケですね」
なるほど、剣が悪かったから折られたのか。
剣が無くなった剣士の実力が下がるのはどうしようもない事だろう。
「じゃあ、これをあんたに貸すから一緒にダンジョンを出ようぜ」
「ですが、これは貴方の……」
「悪いけど、俺は魔力があんまりないからその剣は振れないぞ。出た時に返してくれたらいいからさ」
盗まれる可能性が無いとは言わないが、そうなったらもうどうしようもない。
そもそも荷物持ちの俺がこんな所に一人なのが可笑しいんだ。
この状況を打破できるのなら多少のリスクは仕方ない。
「分かりました。少しの間だけお借りしますね。えっと……」
「あぁ、俺は二条悟だ」
「はい、私は朱彩三紗祢です」
そうして、取り合えずではあるが俺は朱彩さんというダンジョン脱出の希望を手に入れる事に成功した。




