40.お肉三昧
お肉三昧と言えば、焼肉だろう。夢のレシピにもあった。お肉を焼くだけのシンプル料理。
こちらでも肉を焼いて食べることはよくある。
だが、侮ることなかれ。こちらの世界では塩をかけて食べるのが主流だが、向うの世界には焼肉のタレなるものがあるのだ。師匠たちがドーリーを解体している間に焼肉のタレを作ることにした。
まず、木の実をすり潰して抽出した油を使う。
鍋に油と擦りおろした山火花の根(夢食材:にんにく)と擦りおろしたウガの茎(夢食材:生姜)を入れ、弱火も入れる。鍋の中で弱火が踊り、山火花の根が香ってきたところでお酒、トンビャ、ポン花の蜜、擦りおろしたクロッカ、甘みと酸味を持つ果物のサワも擦りおろして入れる。
混ぜてひと煮立ちさせたところで火を消した。
風味を増加させるために黒花のタネ(夢食材:ゴマ)を入れる。
これで冷ませば完成だ。
その他に塩にピンパをかけて軽く煎ることで、ピンパの風味を塩に移したピンパ塩も作る。
今日手に入れたアオタケを一口サイズにカットし、庭から食べごろの野菜を採ってきてそれも食べやすい大きさに切った。焼き野菜にする予定だ。
テーブルにあらかたセットしたタイミングで師匠が肉を持ってきた。
「ほら、肉だ。」
「師匠、絶妙のタイミングです!」
私は解体されたお肉を大事に受け取る。
「ライファ、手伝おうか?」
レイが顔を出した。
「助かる!肉を一口サイズにカットするだけなんだけど、いいかな?」
レイに肉をどう切るかを細かく指示してゆく。
「お肉の、そう、そこ。そこの部分をこうやって縦にカットして、うんうん、そう、あっ、あぁっ!」
「ごめん、なんか、変に切れちゃった。」
「そうか、魔力が大きいとコントロールするのって大変なんだな。」
私がそう言うとレイが少ししょんぼりする。
「焼いたら同じだから大丈夫だ。」
にこっと笑うと、師匠がまた顔を出した。
「そうやっていると若い夫婦か、」
レイが顔を師匠に向けた。
「若い夫婦か、兄弟だな。」
ニヤリと意地悪そうに笑った師匠に、レイが声を上げた。
「リベルダ様!!」
いつの間にこの二人は仲良くなったのだろうか。
テーブルの上には部位ごとにカットされたお肉と野菜たちが所狭しと並べられている。
キュイっ、キュイっ、と嬉しそうに飛んでいるベルをまだ食べちゃだめよ、と制した。
耐熱性の布の上に肉汁を受けるためのお皿を置き、お皿の脇に柱となる石をセットする。
石の上に網を置けば立派な焼肉コンロの出来上がりだ。席ごとに焼肉のタレとピンパ塩を置いた。
「よしっ、食べようっ!」
皆のテンションがお肉に向かってMAXになったその時、トイレの方から大きな声が聞こえた。
「リベルダ!!ここを開けなさいっ!!」
・・・・。師匠が面倒くさそうに指でピンっと魔力を飛ばす。
すると程なくして、先生がバタバタっと早歩きでやってきた。
「リベルダ!うちのトイレに解体したドーリーを放り込みましたね!」
「あぁ、嬉しかっただろう?」
「通路を開けるようにとチョンピーが届いたので開けておいたのですが、あんなにびっしりドーリーが詰まっていたらびっくりするじゃないですか!!あら、おいしそうな料理ですわね。」
先生は文句を言い終わると、焼肉の方を見た。
「お目当てはこれか。」
リベルダの声に先生はにっこりとほほ笑んだ。
「ライファ、私にもごちそうしてくれますわよね?」
先生のぶんのタレと塩を用意し、ようやく焼肉のスタートだ。
お肉を編みに乗せて、火を放つ。火は網の上を元気に駆け回りながらお肉を焼いていった。
「そういえば、この美男子はどなたですの?」
「あぁ、紹介を忘れていたな。こちらはジェンダーソン侯爵家の次男、レイだ。レイ、こちらはマリア。ハートランドに住む魔女だ。」
師匠はさらっと紹介をすると、お肉をひょいっと摘み上げた。
「魔女・・・。」
レイは魔女がここに二人いるとう状況に一瞬ついていけないような表情をしたが、すぐに気を取り直して挨拶をした。
「はじめまして。レイ・ジェンダーソンと申します。」
マリアはレイと私を見比べては、ふーん、そういうことですの、と呟いた。
「ライファとそういう関係なら、今後私と会うこともたくさんありますわね。よろしくお願いしますわ。」
レイはいつも通りの挨拶をしただけなのに、先生は不思議な挨拶をした。
「これはうまいっ!」
お肉を口に入れた師匠が叫ぶ。
「このタレが絶妙だな。ピンパの塩もあっさりしていてうまい。肉の臭みがなくなって爽やかな味だ。」
「あ、そうだ、このタレ、山火花の根を使っているので、少しだけ保温効果があります。体が暖かくなりますよ。」
「保温効果は血行を良くしますから、体にも優しいですわね。」
先生もお肉をつまんで口に入れる。
「まぁっ!」
先生はそう言ったきり、もくもくとお肉を食べ始めた。
「レイもどうぞ。」
レイのお皿にお肉を置く。お肉にほんの少しだけタレをつけて口に入れ、いつものように用心しながら噛み砕いている。
「おいしい。初めて食べた、こんな味。」
レイはポソッと呟く。
「肉を焼くだけなら騎士団の野営地でもよくやるし、その時にこのタレがあったら食事ももっと楽しくなるだろうな。」
レイがタレに感心したように言った。
「余ったタレ持っていくか?」
「ほんと?いいの?」
「うん、うちはまた作ればいいから。」
「ありがとう。」
レイの笑顔にほっこりしていると、先生が「私はこちらに食べに来ますからいりませんわ!」と勝手に断ってきた。
その会話を師匠が、ハイ、ハイ、と切って、アオタケをつまみながら言った。
「ライファ、ターザニア行きの件だがな、行ってもいいぞ。」
「ほんとですか!!」
あまりの嬉しさに私が立ち上がるのと、先生が立ち上がるのは同時だった。
「何ですって!?ターザニアってどういうことですの!?」
「報告が遅くなってすみません。先生、実は王都のパーティーで・・・」
私はパーティーでアレン王子に会ったこと、その後の展開を先生に話した。
「よりによってターザニアだなんて。でも確かに、ターザニアの研究には興味はありますわね。最近はどんな研究をしているのかしら・・・。」
先生はむぅっとしつつも、調合バカといわれるだけあってターザニアの研究には心惹かれるようだ。
「わかりましたわ。わかりましたけど、私の調合のお手伝いはどうなりますのっ!!」
と叫んだ。
「こうなったら旅立つ前に少しでも手伝ってもらいますからね!」
先生はプリプリしながら勢いよく肉に箸を突き立てると口に放り込んだ。
「ライファ、行ってもいいが魔女の弟子だってことは内緒にしておけ。勿論、スキルのこともだ。バレたらお前が研究対象にされるぞ。」
「そうですわね。秘密にしておいた方がいいですわ、絶対に。」
その後、肉に飽きると野菜を食べ、こってりしたものが欲しくなるとタレの肉を食べ、あっさり食べたくなるとピンパの塩を使い、4人と1匹でとにかく食べまくった。
「そういえば、マリア様はどこから来たのですか?」
「どこからって?」
レイの問いかけに私が質問で返す。
「いや、ハートランドから来たというのならスージィのところから気配が始まると思うんだけど、さっきマリア様の気配は突然家の中にあったから。」
私はバッと師匠をみた。
「あぁ、うちのトイレに空間移動魔方陣があってな。マリアの家とつながっているんだ。」
「師匠、いいんですか、そんなにあっさり白状して。」
「あぁ、まぁ、レイにはいずれバレるだろうしな。それに口外はしないでいてくれるだろう?」
師匠がレイを見ると、
「口外できるわけがありません。空間移動魔方陣など、国家が所有するならまだしも、一軒の家にあるなんて・・・。」
レイは驚きを通り越して呆れたようだ。
「あると便利なんですのよ。ほら、こうしてお肉を頂きに来ることも出来ますし。ねっ。」
先生がにこやかにほほ笑む。
「そりゃ、あそうでしょうよ。」
帰るというレイを送って、玄関を出る。そのまま庭を横切って奥まで行くとスージィに話しかけた。
「スージィ、結界を開けてくれる?」
「おや、もうお帰りかい?」
「はい。お邪魔しました。」
レイが頭を下げる。
「今度はゆっくりおいで。」
スージィはそう言うとウィンクをした。こんなスージィの対応は珍しい。
結界から出たところで、レイが飛獣石を出した。
「はい、これ焼肉のタレ。」
「ありがとう。」
「なんか、あっという間の7日間だったなー。」
私はレイの顔を見る。
「すごく楽しかった!ありがとう、レイ。」
「・・・私も楽しかった。」
レイは私に近寄ってくると、私の髪の毛の先に触れた。そして髪の毛の先を持ってそのまま、動かない。
「ターザニアに行くんだな。」
レイが小さな声で言った。その声が寂しそうに響くから、自分の声が少し高くなる。
「行くって言っても一年くらいだし、一年なんてすぐだよ、きっと。」
レイの頭がそのまま下がってきて私の肩に止まった。
「レイ?」
「・・・・・。」
そのまま、また少し時間が流れた。
そしてレイの唇が耳元を掠めたと思ったら、ばっと離れた。
私は突然のことに動けずにいた。
レイはそのまま飛獣石に乗る。
「またね、ライファ!」
そう言って飛んでいった。
私は熱をもつ顔のまま、レイが飛んでいった空を見上げている。
レイの唇が耳を掠めた瞬間、かすれた声が確かに聞こえたのだ。
・・・このまま離したくない。・・・
「なに言ってんだよ。」
私は自分の耳に触れると結界をくぐり、家へ駆けていった。
次回は【国王からの食材】です。




