26.王宮のパーティー
パーティーは国王の挨拶から始まった。今年の作物の実りに感謝し、この国の平和を祈る。
挨拶のあとは階級の高い貴族から国王へ挨拶に向かい、その後、貴族同士挨拶をしたり雑談をしたりする。会場にはいくつか大きなテーブルが用意され、たくさんの豪華な料理が並べられている。
会場の端では音楽を奏でる音楽家たちが優雅な音楽を奏で、その音楽に合わせてダンスを踊るスペースも用意されていた。会場の端にはいくつかの椅子が用意され、疲れたらそこで休むことも出来る。
「お・・・・。」
おぉ~と声が出そうになったのをこらえた。
ここにいるのは貴族ばかり。おぉ~なんて感動している人など一人もいないのだ。
テーブルに食べ物を取りに行きたいが、一人で行っていいのだろうか。
マ、マナー的にどうなんだろ。
「食べ物、取ってこようか?」
迷っているとレイが声をかけてくれる。ガハッとレイの顔を見た。
「私も一緒に行きたいです!」
なぜかレイにぷぷぷっと笑われる。
「綺麗な格好していても、ライファはライファだね(笑)」
どういう意味だろう、と首をかしげながらレイの後に続いた。
テーブルには所狭しと料理が並べられている。目に入ったのは色鮮やかな野菜の薄切りだ。
虹色に輝くソースが添えられていてどんな味がするのだろう。
周りを見渡せは女性でも自分で料理を取っている人もいて、自分で取ってもマナー違反ではないのだと知った。いそいそとお目当ての野菜を取り、ソースをかける。
期待に胸を膨らませ口に入れると口の中でパチパチパチっと何かが弾けた。
美味しいというよりは、おもちゃを間違って口に入れてしまったかのような驚きだ。
「あれはね、パチパチというサラダなんだよ。びっくりしたでしょ?」
目を見開いていた私にレイが笑いながら話しかけてくる。
私は片手で口を押えたまま、コクコクと頷いた。
「はい、どうぞ。」
レイがグラスに入ったピンパジュースを持ってきてくれる。
ゴクッと飲むと、ようやくパチパチは喉を通って下りて行った。
「ありがとう。すごいサラダだった・・ですね!」
危ない、危ない。レイの顔を見るとつい気がゆるんでしまう。
「ライファちゃん、これ美味しいよ。」
いつの間にか現れたヴァンスが私のお皿にお肉をそっと乗せてくれた。
お肉、テンション上がる!
「ありがとうございます!」
そう言って頬張っていると、ヴァンスはどこかの貴族の女性にダンスに誘われてまた消えていった。
「ヴァンス様は人気があるんですね。」
「そうだね。強くて頼りがいもあるし、女性の扱いもうまいし、ほんと嫌味な兄さんだよ。」
その表情には尊敬と嫉妬が含まれているような気がした。
「私から見たらレイ様も十分強くて頼りがいがありますよ。」
「ありがとう。」
レイが嬉しそうに微笑む。レイと話しながら食事をしていると、突然私の周りが少し開けた。
「あなたがライファさん?」
視線の先にはキリッとした目が印象的な女性がいた。
豪華なドレス、洗練された振る舞い、動作のひとつひとつが絵になる。
こんなに気品のある方はそういないだろう。
「これはリアン王女。お久しぶりでございます。この度はご婚約、おめでとうございます。」
「あなたは、ジェンダーソン侯爵家のレイね。婚約のこと、みんなすっかりご存じなのね。」
リアン王女はすこし恥ずかしそうに笑った。
「こちらが私の婚約者のアレンです。」
「初めまして。アレン・ターザニアと申します。」
アレンはリアン王女とは正反対。気弱そうというか、人の好さがにじみ出たような容姿をしている。
「アレンの国、ターザニアは薬の調合の研究に力を注いでいるのですよ。
ライファが素晴らしい調合の腕をお持ちだと聞き、ぜひお話を聞きたくて参りましたの。」
「リアン王女、アレン王子、お初にお目にかかります。ライファ・グリーンレイと申します。」
私が二人に挨拶をすると、続いてレイがアレン王子に挨拶をした。
「リアン王女、それは誤解なのです。私の調合の腕など、本当にまだまだで。」
「まだまだの腕で、あの解毒剤を調合できたのですか?」
アレン王子が驚きの声を上げる。
「いや、あれは、その、基本をすっ飛ばして教え込まれた調合と申しますか、なんというか。」
師匠の二日酔い薬として作りなれていたなどとは言えない。
しどろもどろになっていると、リアン王女が話題を変えてくれた。
「ライファが魔女の弟子だというのは本当なの?」
「はい、それは本当です。弟子と言っても、魔女の身の回りのお世話をするくらいなのですが。」
「ターザニアは魔女の知識が礎となって調合の研究に取り組んでいると言われているのよ。」
リアン王女はそういうとアレン王子に微笑んだ。アレン王子もリアン王女に微笑む。
「そうです。魔女発祥の地とすら言われているのです。
ターザニアは調合も勿論のこと、その材料である魔木や魔花、魔獣についての研究にも取り組んでいて、他国から学びに来る研究者も少なくはない。
そうそう、近頃、研究所内に調合と料理を掛け合わせた研究を始めた者もいるのです。美味しくて薬になる、面白いでしょう?」
「それは!素晴らしい研究ですね!美味しくて薬になる。調合と料理が一体になった料理。ぜひ私も学んでみたいです!!」
「まぁ、ライファは調合と料理に興味がおありなの?」
リアン王女の言葉にはい!と答える。
世界を回って食材を集め夢のレシピを再現したいという思いは変わってはいない。
けれど、先生のもとで調合の神秘に触れ、昨日ヴァンスにフェニックス食堂へ連れて行って貰い、スキルが人の役に立っている姿を見た。その時から、胸の中でソワソワするような何かが見えつつあるようなそんな気がしていた。それが今、目の前で一つに繋がったのだ。
「アレン王子、私にその研究室を見学させてはもらえないでしょうか。
1年、いや、1か月でもいいです!」
私の突然の申し出に、リアン王女もアレン王子も驚いたように固まった。
「ライファ、ちょっと落ち着け。師匠の許可もとってないだろう?思い付きで言っては。」
レイの言葉を遮るように言う。
「師匠の許可は必ず取ります。説得します。ぜひ、ターザニアの研究所へ行かせてください!」
「ライファ、あなたの気持ちはよくわかりました。アレン王子、わたくしからもお願いいたしますわ。
知識を求める者に対して、ターザニアは寛大でしょう?かつて、私にもそうだったように。
私もターザニアの研究所にいたことがあるのよ。
僅かな期間ではあったけれど、とても有意義な時間だったわ。」
リアン王女がアレン王子に笑いかける。
「君には敵わないな。」
アレン王子はそう言うと従者に何か言い、丸い石を受け取った。
「師匠の許可が下りたら、この石に声を吹き込んで飛ばしなさい。その石は私の元へくるようになっているから。その石が私の元へ届いたら、ターザニアの研究所に招待しよう。」
「ありがとうございます!!」
私はアレン王子とリアン王女に深々と頭を下げた。
「ライファ、ターザニアへ行くって本気なのか?」
「もちろんっ!です!」
レイの表情が曇る。
「大丈夫ですよ。あぁ、帰ったら忙しくなるなぁ。なんだか、途端にお腹がすいてきた。」
大丈夫ですよ、の後は独り言のように呟く。私は料理をお皿にとっては食べ、移動しては食べ、思う存分食べた。
その後、ここはパーティー会場の外、バルコニー。
人の気配のない場所でレイと二人休んでいる。
「うぅ、食べすぎた・・・。」
「そうだろうよ。」
レイが呆れたように言う。
「レイだって結構食べていたじゃないか。」
「ん、まぁ。もうちょっと筋肉つけようかと思って、たくさん食べるようにしているんだ。」
「あぁ、レイって細身だもんな。」
そう言うと、そうなんだよな。とレイが落ち込んだ。
「ちょっとさ、コルセット緩めてくれない?きつくて苦しいんだ。」
レイに背中を向けて、ほら、ここのところ、と言う。
「えぇっ!!いや、それはちょっと。」
レイが後ずさる。
逃げようとする手を掴んだ。
「ちょっと緩めるだけだよ。ここのさ、リボンを解いて引っ張って緩めたらまた結ぶ。
それだけ。簡単だろ?」
「いや、無理。」
レイが赤い顔でふるふる首を振る。
「簡単だよ。」
「だから、簡単だとかそういうことじゃないんだってば!」
「あ、ライファちゃん、レイもいた。こんなところで何しているの?」
パーティールームのドアを開けて、ヴァンスがやってきた。
「ちょっとコルセットがきつくて、レイに緩めてもらおうかと。」
「ぶっ!!」
ヴァンスが盛大に噴き出した。
「それはレイには無理そうだな。」
ヒイイ~とお腹を抱えて笑う。
「レディなら付き人を呼んで直してもらうんだけど、僕がやってあげようか?」
ヴァンスがそう言って近寄ってくるが、何か不穏な気配を感じる。
「いや、いいです。遠慮します。」
「どうして?レイはよくて私はダメな理由はなに?」
「なんだか、ヴァンス様は信用できません。」
「それって、私を男性として意識しているということ?」
「・・・・はて?」
私は首を傾けてわかりません、と言った。
そんな会話をしていると、またもや来客が現れた。
「レイ様?お会いできて嬉しいです!」
そう言って駆け寄ってくるのはレイと同じ年くらいの年齢の女の子だ。大きな目と波打つ金色の髪の毛、真っ赤なドレスが良く似合っている可愛い女の子だ。
「お久しぶりです、ヴァンス様。こちらは・・・。」
私の方へ視線を巡らせた彼女を見て、慌てて挨拶をした。
「私はライファ・グリーンレイと申します。
お祭りの期間、ジェンダーソン侯爵家にお世話になっております。」
「あぁ、あなたがレイの話していた方ね。私はレベッカ・アーガルドと申します。
レイ様とは親しくさせていただいておりますの。」
レベッカはそう言ってニコッと笑うと、「レイ様、向うで踊りましょう。」とレイをダンスに誘った。レイはこちらを気にしてチラッと見たがヴァンスに「どうぞ。」と圧力をかけられたようだ。
女性の誘いを断るわけにはいかないだろう、とその目が言っている。
レイが「行こう。」とレベッカに手を差し伸べるとレベッカは嬉しそうに頷いて、レイの手に手を重ねた。
去ってゆく二人の姿を見つめる。そういえば、レイが女性と居るところを初めて見たな。
「気になる?」
そんな私の姿をみてヴァンスが聞いてくる。
「気になる、というか、なんだか不思議な感じです。
レイ様が女性というところを初めて見ました。そうか、そうだよなって感じです。」
「なんだそれ(笑)」
「じゃぁ、私は?私が他の女性といるのを見て、どう思った?」
「ヴァンス様はモテるなぁ、と思いました。あと、貴族の女性って案外積極的なんですね。男性から声をかけられるのを待っているばかりなのかと思っていましたけど、自分からも誘うんですね。」
「まぁ、パーティーは女性にとっては戦場だからね。どれだけ優秀な男性をつかまえられるかってさ。」
「なんだか、色々勉強になりました(笑)」
「ライファは私を誘ったりはしないの?」
「私がヴァンス様をですか?恐れ多くてとても誘えませんよ。」
「レイのことは誘えるのに?」
「ダンスには誘ってません。けど、そうですね。レイ様は食べ物好き仲間ですから!」
そうやってフン!と笑うと
「君は随分、レイのことは近くに置くんだな。」とヴァンスが呟いた。
次回は【レイとのお出かけとパーティーのお誘い】です。




