21.3種類のクッキー
「お嬢様方、朝食でございますっ!!」
ズンが大きな声で呼びに来て、ふっと姿を消した。
先ほどから何度起こしても布団から離れない師匠を、いよいよ本気で起こすことにする。
「師匠っ、師匠っ!・・・。」
「大変です!おっぱいが垂れております!!」
「なにぃ!?」
ガハッと師匠は飛び起きて自身のおっぱいを確認する。
持ち上げて離して垂れていないか確認し、揉んでハリと弾力を確認する。
「うむ、申し分ない。ライファ、冗談はおよしなさいっ!」
師匠の剣幕に構っていられないとばかりに背中を向け「ごはんですよ。」と言った。
「そういえば、昨日の成果はどうだったんですか?」
昨日、ライファが部屋に戻るころには師匠はおらず、寝る時間になっても戻ってくることはなかったのだ。
「ふふん、なかなか面白い男がひっかかったぞ。赤茶色の髪の毛をした大酒飲みだ。今晩も会うんだ。」
師匠はそういうとご機嫌に着替え始めた。
ダイニングへ行くとそこにレイの姿はなく、代わりにヴァンスがいた。
レイは朝早くに仕事に出たらしい。
「おはようございます。」
皆さんに挨拶をする。
ヴァンスは私の姿を見ると立ち上がって礼を述べた。
「やぁ、ライファ。ようこそ我が家へ。この度のことは何度感謝しても感謝したりない。我が家で存分に寛いでいってくれ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてのんびりさせていただきます。」
ヴァンスの笑顔につられてこちらも笑顔になる。
ヴァンスはレイによく似ているがレイより目が細く彫が深い。そのおかげで男らしい印象を受ける。
その男らしい顔をくしゃっと崩して笑うのだ。
ギャップ萌えってやつだな。私は心の中で呟いた。
エリックが食事を配り始めたのをみて席に着いた。
朝食はシンプルな野菜サラダ、焼き立てのパン、トマトベースの野菜スープに薄切りの肉の燻製、フルーツだった。
どれもこれも食べやすく、体が元気になれるメニューだ。
「ライファ、カーラントさん、今日トッドが14時に来るというので14時にはリビングにいらしてくださいね。」
エレンの言葉に、あぁ、楽しみだわ!とフローレンスが言う。
「わたくしも楽しみです。」
師匠がそう言い微笑んだ。
「そういえば、このあと厨房をお借りできますか?クッキーを作ろうと思うのですが。それと、材料もいただきたいです。」
「まぁ、それは嬉しいわ!もちろんよ!」
フローレンスは華やかな笑顔を一層華やかにした。
「エリック、エマを呼んで頂戴。」
「かしこまりました。」
すぐに厨房からコック帽をかぶった15歳くらいの女の子がやってきた。
「お呼びでしょうか?」
「ライファ、こちらはエマ。我が家の料理人見習いなの。
エマ、ライファがクッキーを作るので手伝ってあげて。材料は自由に使っていいわ。
ライファ、できればエマにクッキーのレシピを教えてもらえないかしら?
ライファが帰ってしまっても食べられるようにしたいの。」
「いいですよ。それではエマさん、よろしくお願いいたします。」
「エマさんだなんてとんでもない。エマとお呼びくださいませ。こちらこそよろしくお願い致します。
」
「その、クッキーというものは私もいただけるのかな?」
話を聞いていたヴァンスがお伺いを立てるようにフローレンスを見た。
「仕方ないわねぇ。兄さんが起きてくる頃には出来上がっているわ。今日は夜勤なのでしょう?」
「あぁ、これは起きるのがたのしみだな。」
ヴァイスはにこっと笑うと、後でね、と言ってダイニングから出て行った。
「わたくしは14時まで部屋で休ませていただきますわ。」
続いて師匠も出ていく。
「エマ、厨房へ案内していただけますか?」
「どうぞ、こちらです。」
厨房へ行くと朝食の後片付けを終えた料理長と先輩料理人がエプロンを畳んでいるところだった。
「おや、エマ、どうしたんだい?そちらは確か・・・。」
「お客様のライファ様です。クッキーというものをお作りになるそうで、厨房をお貸しするようにとフローレンス様のお言葉です。」
「ほう、クッキーとは、聞いたことないな。」
料理長が首をかしげつつも興味津々といった表情をする。
あれだけの料理をつくる料理人だ。新しいものには興味があるのだろう。
「はじめまして。私はライファと申します。昨晩からのお料理、とても美味しかったです!食べる者への気遣いが細部まで行き届いていて、感動しました!!」
感謝の気持ちを伝えねばという気持ちが強すぎて、激しい言い方になってしまったが、料理長は嬉しそうに目じりを下げてくれた。
「ありがとう。そういう言葉が一番うれしいんだ。もし良かったら、そのクッキーというものを作るところを見学させてもらってもいいかぃ?」
料理長の言葉に頷くと「俺も!!」という元気な声も聞こえた。
振り返ると、料理長と一緒にエプロンを畳んでいた青年がエプロンをつけなおしているところだった。
レイの家の料理人たちはみんな料理に対する愛情が深いらしい。
レイがあんなに素敵な味覚をもっている理由が分かった気がした。
「まず、乾燥させたサワンヤを下して粉にします。」
「道具はコレとコレでいいかしら?」
ちょっと言葉にしただけでエマが道具を持ってきてチョンチョンと魔力を流した。
サワンヤが大きなボウルの中にどんどん下されてゆく。
「次に別のボウルに羊乳凝を溶かし、ポン花の蜜を加えて混ぜます。」
「こうだな。」
今度は先輩料理人のタオが手伝ってくれる。
「ランチョウの卵を入れて混ぜ、良く混ざったらサワンヤの粉を3回に分けて混ぜていきます。
混ぜるというか、捏ねるに近くなりますね。」
タオがせっせと混ぜてくれる。
「この後、食感が楽しい木の実を混ぜるのですが、何かいい物はありますか?コクがあってカリッとするものが良いのですが。」
料理長に聞くと、ん~食べてみないことにはわからんなぁ、と呟いた。
「じゃあ少しだけ焼いて味見してみませんか。どうせ作るのなら美味しい方がいいっ!」
本当は生地を少し寝かせるのだけれど、まぁ、いいだろう。
私は4枚分焼いてみることにした。
焼くこと15分。焼きあがったクッキーの正しい食感を味わってもらうためにエマにお願いして急速に常温にしてもらう。
「「「いただきます。」」」
3人が口に入れると同時に私も一つ頬張った。
「ほう、これはこれで素朴で美味しい。」
料理長が言う。
「うんうん、こうシンプルだと色々なアレンジが出来そうですね。」
タオの声にエマも私も頷く。
「木の実がいいというのなら、マカの実も合いそうだなぁ。おい、エマ、マカの実を持ってこい。」
「はいっ!」
エマが急いでマカの実を取りに行く。
「私、思っていたのですが昨日ごちそうになったお花のお茶、あれを混ぜても美味しいじゃないかと。」
わたしの言葉にタオがなにか閃いたようだった。
「料理長、ぜひ試してみたいです。持ってきてもいいですか?」
「うむ、やってみよう。」
「そういえば料理長さん、レイの好きな食べ物って何ですか?レイには長い距離を飛んで迎えに来てもらったので何かお礼をしたくて。」
「坊っちゃんの好きな食べ物でクッキーに合いそうなのは・・・。」
料理長は顎に手をあてて暫く考えると、
「うん、カレッチャだな。あれならきっと美味しいぞ。」
と、いいことを思いついたような顔をした。
カレッチャは果物を乾燥させたものだ。
糖度の高い果物を天日干しすると水分が飛び旨みが凝縮され甘みも増す。
「ほら、食べてみろ。ピンパの皮を甘く煮てから天日干ししたものだ。」
渡されたピンパの皮はピンパの実よりも香りが強く、少しの苦味を伴って甘さに変わった。
「おいしい。これは大人味のクッキーになりそうですね!」
こうして焼きあがったのは、
マカの実クッキー、花茶クッキー、ピンパクッキーの3種類だ。
花茶クッキーはお茶を混ぜたクッキーの表面に焼け防止のガードを施した花びらを一枚乗せて焼いた。
そのお蔭で、クッキーの表面には色鮮やかな花びらがついており、とても美しい仕上がりになっている。
これはタオの案で、タオはその仕上がりに大満足の様子だ。
ピンパのクッキーは焼け防止等は施してはいないが、混ぜ込んだピンパがところどころ焼けてオレンジ色になっており、それはそれで美しい。
みんなで試食をしてみる。
「「「「!!!!!」」」」
みんな顔を見合わせて声を出して笑った。
もう、どれもこれも美味しいのだ。
それぞれがそれぞれの良さを持っていて、見事な仕上がりだった。
「これはいいレシピを教えてもらったな。」
料理長はニヤリとした。
「ありがとうございます。皆さんのおかげで素晴らしいクッキーになりました!」
私は感激のあまり一人一人と握手し、お礼を言った。
「ありがとうだなんて、こちらのセリフですっ!」
エマはそういうと私にギューッと抱き付いてきた。
エマ、かわいい。私の脳裏に焼き付いた瞬間でもあった。
次回は【洋服選び】です。




