18.ユーリスアへ
師匠から借りた空間魔法付きバッグに6日ぶんの着替えを詰め込み、全財産の半分をバッグに、もう半分を眠り玉入りの巾着に入れた。巾着を腰にぶら下げていつものポンチョを被る。
レイとの待ち合わせは13時。現在の時刻は12時30分。
「テン?テンっ」
「なんでございましょう?」
「師匠と一緒に6日間ほどユーリスアに行ってくる。キッチンのいつものところに果物を置いておくから、好きなように食べていいよ。
それから、その果物をシームにもわけてあげて。水やりをお願いして欲しいんだ。」
「かしこまりました。お気をつけて。えぇ、土産など気にしなくても大丈夫でございます。
わたくし、王都で流行っているというコロンという食べ物に興味がありますが、えぇ、全然気にしなくても大丈夫でございます。」
テンはそう言うと、テンなりのありったけの笑顔を向けた。
王都で流行っているお菓子を知っているとは、妖精の情報網かなんかだろうか。とりあえず、コロンを買ってきてほしいというテンの気持ちは十分に伝わった。
「わかった。行ってきます。」
これで家のことはテンに頼んだ。次は師匠だ。
「師匠~、準備できましたー?」
パタパタと師匠の部屋へ向かうと、襟元が大きく開いて胸の谷間が見えるフェロモンだだ漏れの服装をしていた。
「・・・・師匠、一応私の親戚ということになっているのですが、その姿から私と同じ遺伝子が欠片も感じられないのは気のせいでしょうか。」
「ん?派手か?」
「むしろ派手以外の言葉が見つかりません。
それに、そんな恰好じゃ何かの罠じゃないかと思って素敵な男性は近寄ってこない気がします。」
「ぐっ・・・ちょっと待ってろ。」
師匠はそう言うと着替え部屋に入っていき、すぐに戻ってきた。
今度は襟元のあまり開いていない白いワンピース姿で、髪の毛は一つにまとめ地味ではあるが妙にエロい。ワンピースの生地に若干の透け感があるせいで肩やスカートの裾の方で肌の色を感じるのだ。
「これでどうだ?」
師匠はそういうと、サッと眼鏡をかけた。地味系エロ女の出来上がりである。
「先ほどよりは随分良くなりました。」
「そうだろう。よし、行くぞ!」
気合満々の師匠とともに家を出る。
庭の端っこにある大木。スージィを起こすかのように木肌に触れた。
「スージィ、ちょっと留守にする。この家のこと、よろしく頼むぞ。」
師匠がスージィに声をかけると、スージィは嬉しそうに背をピンと伸ばした。
「お任せください。なにかありましたらすぐに知らせます。」
スージィはそういうといつものように枝をガサガサっと鳴らした。音が金色の粉になって降ってくる。
「お二人とも、気を付けていってらっしゃい。」
スージィの枝を潜ればそこはいつもの森だ。
ミルンパの花はとうに散って、青々とした緑がそこには広がっている。
くるっと見渡せば手を上げる人の姿があった。
「ライファ。」
レイは私の名前を呼ぶと寄ってきた。
「結界の感じからこの辺かなと思ったんだ。合っていて良かった。」
相変わらず可愛い顔で微笑む。
「迎えに来てくれてありがとう。こちらが私の親戚の・・・す、スージィだ。」
師匠の名前を決めていなかったので思いついたまま、スージィの名前を借りた。
師匠の顔を恐る恐る見たが、なんてこともなく、ニコっとしているだけだった。
「はじめまして。ライファがいつもお世話になっております。わたくし、ライファの親戚のスージィ・カーラントと申します。お誘いいただきありがとうございます。」
「レイ・ジェンダーソンと申します。誘いをお受けくださり嬉しく思います。我が家まで案内いたしましょう。」
レイが飛獣石を乗り物に変化させる。
その後、もう一つの飛獣石を変化させるとレイの乗り物に接続した。
「3人で乗るには狭いから、接続用の飛獣石を借りてきたんだ。
ライファとカーラント様はこちらにどうぞ。
それと、長時間乗っていると寒いだろうから、これを使って。」
レイが毛布を渡してくれた。
「ありがとう。」
私と師匠が飛獣石に乗るのを見届けてから、レイは飛獣石に乗り発進させた。
いつもの森がぐんぐん小さくなり遠ざかる。
上空は風が強く吹いていて耳の脇をゴーッゴーッと通り過ぎる。
風の音に遮られて前方の飛獣石に乗っているレイとはとても話せそうになかった。
「ふーん、レイはなかなか男前じゃないか。気も利きそうだし。」
師匠が私の方を見てニヤッとする。
「んで、お前はどうなんだ?」
「?どうってなんですか・・・。」
師匠の言葉に半ば呆れたような声を出した。こういう師匠の顔はよく知っているのだ。
「色っぽい話のことだよ。お前もう17歳だろ?そういう話の一つや二つくらい、ねぇ。」
「残念ながら何もないですよ。レイは食べ物好きチームの大事なメンバーというそれだけです。」
「いい物件だと思うがなぁ。家柄も魔力も申し分ない。」
「だから、ですよ。家柄も魔力も差がありすぎる。
色恋に発展しないからこそ、良くしてくれるんです。あの顔でみんなに優しくしたら、女の人ごっそり連れそうじゃないですか。」
「確かに一理ある。」
師匠は面白くなさそうに呟いた。
「このぶんだと到着まであと2時間はかかりそうだな。私は寝るぞ。着いたら起こしてくれ。」
それから2時間、師匠は眠り続け、飛獣石は飛び続け、のどかな町をいくつか通り過ぎ、前方に建物が密集した街が見えてきた。レイは一度だけこちらを振り返ると、飛獣石を降下させた。
ザッと草が鳴って飛獣石が着陸する。その衝撃で私が起こすまでもなく師匠が起きた。どうやらユーリスアの入り口に着いたようだ。
「おつかれさま。」
レイはそう言いながら私たちが飛獣石から下りるのをエスコートしてくれた。
ユーリスアは高い壁で囲まれており、町の中に入るためには騎士が立っている門を通過せねばならない。
「ライファ、門を通る時だけフードを脱いでもらえないか?」
私は頷いて、レイに言われた通りフードを脱ぐ。
レイは門番の騎士に軽く手を上げて挨拶すると「国王の招待客だ。祭りの翌日まで我が家に滞在する。」と告げ紙を渡した。紙を受け取った門番はその紙の上にもう一枚の紙を重ね、紋章が浮き上がったのを確認する。
「へぇー、こちらがレイの家に滞在するお客さんか。
こんな美人さんたちならさぞかし楽しいだろうなー。俺も遊びに行くかな。」
赤茶色の波打つ髪の毛を耳のあたりの長さでカットにし、二重の垂れ目、細マッチョ体型の門番が言う。
「ロッチェ、お前はいつもそんなにチャラチャラ門番をしているのか?」
レイの呆れたような口調が二人の仲の良さを窺わせた。
「そんなことないぞ。今日だけ、今日だけ。」
ロッチェはニコニコ笑いながら、どうぞ、と通してくれた。
目の前に広がるユーリスアの街はまさに都会だった。
地面には平たい石が敷き詰められ、二階建てや三階建ての建物が目立つ。
家の入口には様々な花が飾られ、平民の家でさえドアに彫刻が施されており、とにかくオシャレだ。
街灯には火の妖精が住んでいるのか昼間でもあちこち光る。
妖精は基本的に気まぐれな生き物だからだろう。夜にだけ光るわけではないのだ。
「レイ様。」
声のした方を見れば、貴族用の立派な馬車が一台、道の端に止まっていた。
「お帰りなさいませ、レイ様。ライファ様と、」
「こちらはカーラント様だ。」
レイが師匠の名前を教える。
「ライファ様とカーラント様。ようこそ、ユーリスアへ。
ジェンダーソン家の執事のエリックと申します。どうぞ、こちらの馬車へお乗りください。屋敷までご案内いたします。」
私たちはレイと共に馬車へ乗り込むと馬車は走り出した。
次回は【ジェンダーソン侯爵家】です。




