56.魔女という者
リビングには師匠とレイ、ヴァンスにユーリ、先生とグラントもいた。リアン王女が現れるとヴァンスが席を立ってエスコートする。グラントは大丈夫だろうかと表情を見るもその表情からは何も読み取れなかった。
「これだけの人が集まっているんだ。情報を整理したい。」
師匠の言葉から順を追って話すことになった。まずは当日の状況を私とグラントが話す。昨日、師匠や先生に話したのと同じ内容だ。
リアン王女は表情を変えず黙って私の話を聞いていたが、途中で堪え切れなくなったように涙を零した。
「争いも血も苦手な人だったから、さぞかし怖かったでしょう・・・。」
その言葉を聞いて、グショウ隊長がギュッと拳を握りしめた。その表情は暗く怒りを押し殺しているかのように見えた。
「この中にライファが話していた魔獣について見たり聞いたりしたことがある者はいるか?」
師匠の問いかけに皆が首を振る。師匠がやはりな、と呟いた。
「あれから何か新しいことは分かったか?」
ヴァンスが静かに首を振った。
「ターザニアの悲惨な状況が浮き彫りにされるばかりです。ライファちゃんの言う魔獣ですが、亡くなった方の多くに魔獣につけられたと思われる傷がありました。魔獣がいたのは間違いないでしょうね。それなのに魔獣の死体はどれだけ探しても見つかりません。」
ヴァンスが話し終わると同時にグショウ隊長が話し始めた。
「あの・・・私が知っていることをお話しする前に、こちらのお二人がどういう方なのか教えていただいても宜しいですか?」
グショウ隊長は師匠と先生を見た。それもそうだ。グショウ隊長は二人が何者か知らない。何者か知らない状態で自分の持っている情報を話すのは誰でも抵抗があるだろう。ましてやグショウ隊長は騎士団の隊長だ。情報管理には厳しいはずだ。
「そういえば、私の紹介がまだでしたわね。」
先生があどけない顔でニコッと微笑んだ。
「私もリベルダと同じ魔女ですわ。マリアと申します。」
その言葉に声は出さなくても、ヴァンスやユーリまでもが驚いている。
「魔女・・・でしたか。本当にいるのですねぇ。一緒に暮らしているということはライファさんも?」
グショウ隊長の言葉に私は、いいえ、と否定をする。
「私はあくまで、弟子です。魔力ランク的にも魔女にはなれないので。」
「なるほど・・・。」
グショウ隊長はそう言ってみんなの顔を見回した後、また話し始めた。
「私はターザニア騎士団の隊長、グショウと申します。私はあの日、国王の命により第三王妃を調べておりました。そして王妃の寝室を調べていたところ、そこに空間移動魔方陣を発見したのです。その魔方陣がどこに繋がっているものなのか調べるためには魔方陣を起動するしかありません。私が魔方陣を起動すると魔方陣は私をガルシアへと運んだのです。ガルシアであることは一面の雪景色から分かったもののガルシアのどこであるかまでは分かりませんでした。そこで現在地を調べ、王女について調べている間に・・・ターザニアが滅んだという事実を知ったのです。」
「第三王妃・・・。第三王妃は王宮内部に王妃の建物を建設していましたよね?」
私はグショウ隊長に聞いた。あの建設があったからこそキヨはターザニアへ来たのだ。
「そうです。第三王妃の寝室に空間移動魔方陣があって、第三王妃の為に建設した建物のあたりに大きな魔力の痕跡があった。どう考えても、第三王妃が関わっているとしか考えられませんね。」
グショウ隊長はひどく冷たい目をして、必ず捕まえますよ、と言った。
「寝室に空間移動魔方陣・・・ですか。」
先生が呟いた。
「王宮にあった大きな魔力の痕跡だが、あれもきっと大きな空間移動魔方陣だ。バラバラになってはいたが空間移動魔方陣に使われる呪文が刻まれていた形跡があった。」
師匠が言葉を続ける。
「つまり、第三王女はガルシアのどこかで魔獣を量産した。その魔獣には人間を襲うようにとマインドコントロールし尚且つ、死んだら爆発するようにと仕込んでおく。もしくは、タイムリミットのようなものがあって、それを過ぎると爆発するようにしていたのかもしれない。全ては証拠を残さない為に。そして新しく建設した建物内にある空間移動魔方陣でガルシアから大量の魔獣を移動させターザニアを滅ぼした。」
「聞けば聞くほど、とても普通の人間だけでできるとは思えませんね。」
先生は唇に人差し指の付け根部分を当て息を吐いた。
「それはつまり、魔女が関わっているということですか?」
リアン王女の鋭い眼差しが師匠を捉える。
「その可能性は高い。」
「師匠、魔女ってそんなにたくさんいるのですか?」
「正確な数は分からん。だが、ここにいる二人だけではないことは確かだな。」
「ずっと思っていたのですが、そもそも魔女って何者なのですか?」
レイの率直な質問に皆の視線が師匠に集中した。そういえば私でさえ、師匠に魔女とは何者なのかをちゃんと教えてもらったことなどない。一般的には、死なない、知識の宝庫、食事はとらなくても良い、人間さえも薬剤として使う、人を誘惑するのが得意、死神の友達である等、いい加減なものばかりだ。
「確かに、こうなってはその説明は必要だろうな。」
師匠の言葉にマリアが頷いた。
「魔女を一言でいうなれば、記憶を繋ぐ者だ。魔女は代々の魔女の記憶を受け継いでいるんだ。よく誤解されるが魔女は不死ではない。ちゃんと死ぬ。だから魔女は後継者を選び、その者が魔女の記憶を受け継ぐのだ。そうして魔女には代々の魔女の記憶が積み重なってゆく。その記憶が知識であり経験なのだ。」
「つまり師匠も、私たちと同じように死ぬということですか?」
師匠が私の顔を見た。
「同じように・・・か。確かに同じといえば同じだ。だが平均すると魔女は人間の倍くらいは生きる。それは体質とかそういうものではなくて、知識があるからだ。どういう痛みが危ないのか、どういう症状にはどの薬か、筋肉の老化を抑えるにはどうするか、そういう知識があるから長生きしているだけで、体の作り的にはお前たちと同じだ。」
なるほど、というようにヴァンスが唸る。
「代々の魔女の記憶はどのように理解するのですか。記憶を受け継いだ時点で記憶が全て流れ込んでくるのですか?膨大な量になると思うのですが。」
意識侵入を得意とするユーリらしい質問だった。記憶の構造というのはユーリにとっては気になるところなのだろう。そんなユーリの質問に師匠が仕方ないなと呟いた。その目が少し優しい。
「そうだな。記憶を受け継いだ瞬間に記憶が自分の知識として入ってくるわけではない。映像版の本をたくさん持っている感覚だな。古いものほど奥へ、古くても印象深い物は手前へというようになっているからきちんと年代別に整理されているわけでもない。ただ、一度見た本に関係ある記憶を探し出すのはそんなに難しくはない。その記憶自体が居場所を教えてくれるんだ。」
ユーリはその状況を思い描こうとしているかのように目を閉じていた。そして目をあけると、
「もしかして、せっかく記憶を受け継いでもその記憶を見ようとしなければ何の意味もないということですか?」
「意味がなくはないんじゃないか?記憶の入れ物として、次に繋げばよい。人間と同じくらいの年月しか生きられないだろうがな。代々の魔女はなるべくそうはならないように、知識を求める者を次の魔女へと選んできたようだぞ。」
「なるほど、そういうことか。」
次回は【それぞれの思い】です。




