<隣接町内会との抗争?>
概ね話もまとまったので、今日は一旦お開きにしようかというムードになったのだが、ここでゴンベが一つ疑問に思うことを口にした。
「ところで、お隣の町会員がなぜわざわざ谷場町会にゴミ出しなんてしているのでしょうね? 何か理由があるのでしょうか?」
「あら! それは向こうで口うるさく言われるから、それが煩わしくてこっちに出すようにしたんじゃないの? 昔から亀ケ丸町会と言えばやたら町会行事が多いし、参加の強要や町会ルールの押し付けも厳しいじゃない。だからこっちに出して誤魔化しているのよ」
レモンスイマーさんは、どうも亀ケ丸町会に対して良い印象を持っていないようだ。
「そんな! そんなことで、こっちがとばっちりで迷惑させられるなんて……」
正太くんも呆然としている。
「ふむ。実はな、わしはもっと悪辣な陰謀じゃと思っておるんじゃよ」
長野町会長が不穏なことを言い出してしまった。
「あら長野ちゃんは、何か掴んでいるのかしらん?」
「うむ。わしは亀ケ丸の乃木町会長が何か企んでいると読んでおるんじゃよ」
「亀ケ丸の町会長さんは、乃木さんと言うのですか?」
ゴンベは知らなかったので確認した。
「そうじゃよ。乃木 卓、別名『ノーコン・バキ』じゃよ」
町会長は何かを懐かしむような表情で答えた。
「ノーコン・バキ???」
ゴンベ達が一斉に突っ込んだ。
「そうじゃよ。奴はな、球は速いのじゃがどうにもコントロールが悪くてな。やたらとバッターにバキッ、バキッとぶつけまくるから『ノーコン・バキ』と呼ばれていたんじゃよ。ちなみに当時はわしとバッテリーを組んでおってな。近隣中学からは恐れられておったのじゃぞ」
と愉快そうに笑い出した。
「いやいやいや、笑い事ではないでしょうが。って、もしかしてお二人は同級生だったのですか?」
ゴンベの問いに町会長は大きく頷いた。
「そうじゃよ。羽柴中の野球部だったのじゃよ。思えば当時からわしらは良きライバルじゃったな」
「そんな仲なのに、なんで今になって嫌がらせをしてくるのよ?」
レモンスイマーも怪訝な表情で聞いてきた。
「うむ。それはな、ゴンベさんなら知っているかもしれんが、昔……そう40か50年前になるかのう? さっきレモンちゃんが言ったように、昔から亀ケ丸町会は近隣でも最も町会行事が多く、そして強制参加させられるのじゃよ。更にゴミ出し等の規則も最も煩くてな。そんなじゃから、住人の中には隣接する町会に所属替えを申し出る者が大勢出たんじゃよ」
「あ! その話は知っていますよ。私がこちらに引っ越してきたのは今から約50年前なのですが、母が当時『亀ケ丸は何かと面倒事が多いから、谷場町会に入れてもらうことにした』と言っていましたね。当時はそういう家がけっこうあったと記憶していますよ」
「へぇ~。そんなことがあったのですね」
正太くんは初めて聞いた話のようで、少し驚きの表情をしていた。
「なによそれ! そんな昔の因縁を今に持ち出して嫌がらせしていると言うの? バカじゃないかしらん」
「まあまあ、レモンちゃんも落ち着いてな。確かに古い因縁話なのじゃがな、乃木からしたら随分と不満に思っておったのじゃろうよ」
「では、昔の仕返しとして嫌がらせ行為を町会員にさせていると言うのですか?」
「単なる嫌がらせではないと、わしは読んでおるんじゃよ」
「と言いますと?」
ゴンベは身を乗り出して続きを催促した。
「要は、谷場町会内で騒動を起こさせて、それをキッカケに今度は谷場町会から亀ケ丸町会への移動者を募ろうとしているのではないか? とわしは思っておるんじゃよ」
そこまで言うと、町会長は大きく息を吹き出して、ドヤ顔をしながらみんなの顔を見回した。
「えー!!! そんな仕返しを仕掛けてきていると言うのですか?」
真っ先にゴンベが大声で叫んだ。
「ちょっと長野ちゃん。流石にそこまでは……考えすぎじゃないかしらん?」
「いやいやいや、乃木と言う奴はな、そういう執念深いところがあるんじゃよ。昔は町会員が次々と隣接町会に移籍するので、随分と悔しがっていたからな。昔から地域愛は人一倍強い奴じゃったからのう」
「はぁ~……。もうため息しか出ませんよ」
ゴンベは疲れ切った表情になっている。
「まあ、証拠があるわけではないから単なる思い過ごしかもしれんが、一応心に留めておいてくれんかな? もしかしたら亀ケ丸のモニター(工作員)が紛れ込んでいて、妨害工作を仕掛けてくるかもしれんしな」
町会長は益々「別班ごっこ」にのめり込んでいるようである。




