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けむりの家  作者: 三毛猫
27/50

第27話 震災

   *


 父が出張先から一時帰途に就いた。10か月ほどの長い期間、父は家を空けていた。幸助は大学の後期講義とテスト期間が終わって、ちょうど春休みであった。この間に幸助は車の免許を取りに近くの教習所へよく足を運んでいた。父が帰宅したのは幸助が教習所から戻ったあとの夕方のことだった。

 そのころちょうど都政が4期目の都知事の退任で、新しい知事の選挙を行おうかとした時期だった。テレビではそれらのニュースばかり報道されていた。

 祖母だけは父がいるからということで一生懸命になっていた。幸助たちがテレビに釘付けになっているのをよそにして、さてと、と一声してから張り切って料理を作りはじめた。彼はそれを見て、子供のころの元気な祖母を思い出していた。

「祖母さん、俺に作る時と、アンタに作る時と全然違っちゃって笑っちゃうよ」

「普段何作って貰ってるんだよ」

「大したもの作って貰ってないよ。――」

 幸助は焼け焦げて縮みきった焼き肉を思い浮かべながら、同時に昔祖母が上手に作った海藻の酢の物や、茄子の煮びたし、牛肉の生姜醤油焼きを思い出した。

 父はもう年だからなと小言のように祖母のことをつぶやいたが、幸助は祖母の不思議と下手な料理に何の違和感も持っていなかった。

 そしてちょうどその時だった。大震災が東北地方を襲った。東京も各所で大きく揺れた。家具がガチャガチャといって転倒しそうだったので、父も幸助も壁へ押し付けるように身体を持たれて揺れが治まるのを待った。祖母はキッチンの前に立って揺れている間は全く身動きが取れないようだった。テレビでは地震の速報を流していた。はじめは仙台の放送局の内部カメラがデスクの上や棚が滑るように動くのを映したりした。そして東北から関東にかけての日本の東側の沿岸を津波がのみ込んだのだった。それはまだ春にならない夜だった。

 揺れが治まってから父と幸助は家じゅう何も問題はないか見て回った。かなり床が動いた気がしたが、家全体には何の影響もなかったようだ。父と幸助はその後、緊急地震速報をテレビで見ていた。祖母は何が起こったのかよくわからないようだった。

 幸助たちは、休止された番組の代わりに津波の恐ろしい映像を見続けた。

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